米国進出の第1歩――FeliCaハワイプロジェクトとは神尾寿の時事日想・特別編: (1/2 ページ)

» 2007年12月05日 16時36分 公開
[神尾寿,Business Media 誠]

 Suica、PASMO、ICOCA、PiTaPa……。ソニーの非接触IC「FeliCa」(フェリカ)を用いたIC乗車券システムは全国に広がり、日本では事実上の標準(デファクトスタンダード)になっている。首都圏を筆頭に都市部の利用が多いのはもちろん、地方でも、愛媛の「ICい〜カード」や高松の「IruCa」のような成功例が登場している。FeliCa普及の牽引役の1つが、公共交通分野であることは間違いないだろう。

 一方で“海外”に目を向けると、FeliCaは香港の「オクトパス」を代表にアジアでは広がりを見せつつあるが、欧米諸国への展開は近年の課題だった。特に米国は、アジアにおけるFeliCaの得意分野「公共交通」と「電子マネー」のどちらもが生活におけるプレゼンスが低く、FeliCaの進出が難しいと考えられていた市場だ。

 そのような中、ソニーは今「FeliCaの米国進出」の足がかりとして、ハワイにおけるFeliCa普及計画を本格化しようとしている。その計画の一分野として今手がけているのが、現地の観光トロリーバス「ワイキキトロリー」にFeliCaを使ったICカードシステム「TROPA(トロッパ)」だ。

 今日の時事日想は特別編として、ソニーB2Bソリューション事業本部でFeliCaの海外展開に携わる竹村和純氏にインタビュー。ソニーのFeliCaハワイプロジェクトと、ワイキキトロリーの「TROPA」について話を聞いていく。

ソニー B2Bソリューション事業本部FeliCa事業部 事業開発部 事業開発課プロジェクトマネージャーの竹村和純氏

 →FeliCa/モバイルFeliCaの歴史を振り返る(前編)

 →FeliCa/モバイルFeliCaの歴史を振り返る(後編)

 →幸福のICカード“FeliCa”のこれから

 →「FeliCaポケット」に本腰 ソニー、三井物産ら5社で合弁会社


なぜハワイという場所を選んだのか

 香港の「オクトパス」や、JR東日本の「Suica」など、日本・アジアにおいて、公共交通と電子マネーを軸に大きく広がったソニーの非接触IC技術FeliCa。その勢いは国内ではとどまることを知らず、様々な分野で活用されているが、一方で苦手としてきたのが欧米市場への展開だ。特にクレジットカードの利用が少額決済まで広がり、典型的なクルマ社会でもある北米市場への進出は難しいと考えられてきた。

 しかし、FeliCaの海外進出やNFCへの布石を鑑みると、FeliCaの北米展開は避けて通れない。そこで北米進出の第1歩として、ハワイへの展開が始まった。

 「北米進出の第1ラウンドとしてなぜハワイが選ばれたか。理由の1つには、ソニーがハワイとの縁が深いということがあります。ゴルフの『ソニーオープン・イン・ハワイ』を開催していますし、現地法人のソニー・ハワイの歴史は古い。また(ソニー創業者の故)盛田昭夫の別荘があった土地でもあります。現地におけるソニーのプレゼンスは高いですし、我々(ソニー)のハワイに対する想いも強い」(竹村氏)

 ハワイ州政府とのつながりも深く、ソニーの経営トップと政府関係者の間で「(日本で実績のある)FeliCaでハワイの経済活性化ができないか、という話になりました。そこからFeliCaハワイプロジェクトが動き出したのです」(竹村氏)

目標はFeliCaの北米展開

 とはいえ、ハワイも米国の一部だ。FeliCaで“かざす”文化は根付いていないし、IC乗車券や電子マネーの素地もない。さらに日本におけるJR東日本のような、“FeliCaの育ての親”となる後ろ盾もない。そこで目を付けたのが、年間約130万人が訪れるという日本人観光客だった。

 「最盛期より減ったとはいえ、ハワイは日本人が大好きな観光地の1つ。そして、彼ら(日本人観光客)は日本でSuicaやEdyなどFeliCaのサービスを日常的に使っています。そこで、まずは日本人観光客に向けたFeliCaのサービスインフラをハワイに作り、そこからローカル(現地)の方々にもお使いいただく環境整備をしていく。これがFeliCaハワイプロジェクトの基本戦略になりました」(竹村氏)

 “外から中へ”の戦略ともいえるが、これは沖縄におけるEdy普及の事例にも通じる部分がある。沖縄でも、Edyの加盟店インフラは“本土から観光で訪れるANAマイレージクラブ会員”向けに構築された。それが沖縄住民のマイルに対するニーズと合致し、ローカルでの利用活性化に繋がったのだ。

 「もちろん、ハワイの先に見据えるのは米国本土です。ハワイでFeliCaのサービスを立ち上げることで、米国国内でのFeliCaへの認知度を高くする。さらに米国人のライフスタイルにおいて、どのような形のFeliCaサービスが受け入れられやすいかを調査していきます。ハワイはステップ1で、その先には(米国本土に上陸する)ステップ2、ステップ3の展開があります」(竹村氏)

トロリーバス向けICチケット「TROPA」

 まずは“日本人観光客を狙う”FeliCaハワイプロジェクト。その最初の事例として選ばれたのが、ホノルル市内をめぐるワイキキトロリーだ。年間利用者数は約200万人。当然ながら日本人観光客もよく使う。これは「将来的にはFeliCa活用を観光ビジネス振興に結びつけたい」という現地の期待とも合致するものだった。

ワイキキトロリーバス「TROPA(トロッパ)」の公式サイト(左)TROPAで採用された、トロリーバス用のICチケット。FeliCaを採用したのは乗り放題チケットで、4ラインを4日間利用できるチケットが大人45ドル、子供18ドル

 ワイキキトロリーで導入されたFeliCaサービス「TROPA(トロッパ)」は、Suicaのような複雑かつ高度なものではない。カード側に「4日間4ライン乗り放題」のライセンスを付与し、紙のチケットを見せる代わりにトロリーバス内のリーダーライターに“かざす”というもの。カード内に利用日時のデータを書き込むことで有効性のチェックをするというシンプルなものだ。なお、TROPAは導入対象となる「トロリー」と、ハワイのイメージである「トロピカル」をかけて作られた名称だという。

 「TROPAのシステムは、実はFeliCaポケット(別記事参照)の仕組みを使っています。サービス開始まで3カ月で作りました。リーダーライターは米国にあるNFC(近距離無線規格、別記事参照)用のものをカスタムし、設置用の箱や(リーダーライターに貼る)シールなどは手作りですね。先行事例ということで時間がなく、開発にコストや手間がかけられませんでしたが、『FeliCaポケットを使えば簡単にサービスが作れる』という実例にもなっています(笑)」(竹村氏)

TROPAのシステムに使った端末は、NFC用リーダー/ライターがベースになっている。これをカスタマイズしたものが、ワイキキの町中やトロリーバスの中に設置されている

 観光客向けということもあり、サービス内容もシンプルなものにまとめた。従来、4日間連続でしか利用できなかった「4日4ライン乗り放題チケット」を、TROPAでは利用開始から7日間であれば任意の4日間で利用できる形にし、乗り放題という部分は残した。これにより利用分のチャージといった処理を省くことができた。

 「ハワイに観光に来ると、例えば6日間滞在して、真ん中の1日はビーチでのんびりしたい、といったことがありますよね。紙のチケットだとこういう時に1日分のムダが出てしまうのですが、TROPAだとそれがない。シンプルなサービス内容ですが、IC化するメリットはあると思います」(竹村氏)

 また、TROPAではトロリーバスの乗車だけでなく、路線沿線の観光施設での「バーチャルスタンプラリー」も実施している。これはTROPAスタンプ参加店にあるリーダーライターにカードをかざすことで各店舗のID情報がカードに書き込まれ、それを「スタンプ」として収集。一定数以上のスタンプを集めると、DFSギラリア内のワイキキトロリーチケットカウンターでギフトと交換できるというものだ。サービスの内容や狙いとしては、宮崎県で実施された「CHORUCA」(別記事参照)や、函館市で実施された「函館まちナビプロジェクト」(別記事参照)に近い。

 「ハワイでは、まだ電子マネー導入といった段階にはありませんが、将来的にはTROPAを使って『トロリーバスから近隣の観光施設へ』という流れを作りたい。そうすることで、観光客の皆さんがどのように観光スポットを移動しているかも把握できるようになりますから。今後もTROPAの(交通以外での)活用は進めていきたいですね」(竹村氏)

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