第4回 ネット世代にとっての著作権は目の上のたんこぶ?コンテンツ業界の底辺でイマをぼやく

» 2008年05月13日 00時00分 公開
[トミヤマリュウタ,ITmedia]

 前回は、底辺な僕らの著作権問題に触れてみたわけですけれど、その後もいろいろ考えさせられています。下請け事業者の自分としては、そういう話をあえて避けてきた自己反省もあり、己の不勉強を恥じるところもあり……。ただ、いずれにせよ、どんなことでも、議論すべきは議論しないとダメだと痛感しているところです。

 といいつつも、いきなりちゃぶ台をひっくり返すようですが、著作権はものすごーく面倒です! そしてあいまいすぎます!  よく話題になる「私的複製」という行為1つとっても明確な基準がイマイチ分かりません。

 著作権情報センターのWebサイト(http://www.cric.or.jp/)を見ると、「自分自身や家族など限られた範囲内で利用するために著作物を複製することができる」とされているんですが、まず「家族など」の“など”に誰が入ってくるのかが分かりません。例えば婚約者は「家族など」に入るんでしょうか。ならば恋人は? 友達は? もしくは友達以上恋人未満は? 一緒に暮らしてる恋人はOKで同居していない恋人はダメとかあるのでしょうか? といった具合で“?”が飛び交ってしまう次第です。

 さらに、複製というのもよく分からない。デジタルコピーはそりゃ複製でしょうけど、例えばとある写真を参考にイラストを描いた場合はどうなるのでしょうか。あるいは、とある写真をもとに同じ構図で写真を撮った場合は? 同じ構図だけれども、元写真は晴れで新たな写真は雨だった場合は? こんな感じで、こちらもやはり“?”が飛び交うわけです。

著作権者=旧世代 vs 非権利者=新世代?

 僕らは著作権の基本条約、ベルヌ条約(1886年制定)が作られた、100年以上後の世界で暮らしています(ちなみに、日本で著作権法が最初に制定されたのは1899年ですから、こちらも100年以上前の出来事ですね)。この状況はこんな風に言い換えられるんじゃないでしょうか。

 “僕らは、作者の死後50年まで有効とされる著作物が、すでにどっさりと作られた後の世界に生きている。自分たちが生まれる前に、どこかの誰かが考え、生み出したデザイン、文章、音楽、その他あらゆる物は、作っちゃいけない世界に”

 具体的に言えば、「耳と口と足がチャームポイントになっているネズミの男の子なんてかわいいんじゃないの?」なんて思っても、「もうあるじゃん!」といわれる世界に生きているわけです。揚げ句、そのキャラクターをうっかりイラストに書き起こしたりすると、著作権侵害で訴えられかねないのですから、正直怖い世の中だと思いますよ……。もう、イラストレーターさんは、著作権で保護されているあらゆるキャラクターを覚えておかないとヤバいんじゃないかと思います。え? そんなの無理? ですよね。

 ちなみに、1928年生まれのミッキーマウスは、いまだに米国の著作権法で保護されているそうです。しかも、ミッキーマウスにはまだまだ時間があります。なぜなら、米国では「無名著作物、変名著作物または職務著作物の場合、著作権は、最初の発行の年から95年間、または創作の年から120年間のうち、先に満了する期間中存続する」(米国著作権法第302条より)とされているからです。

 もともとベルヌ条約では50年とされていた著作権保護期間ですが、どうやら世界各国で近年延長傾向にあるもようです。日本は50年ですが、いろいろと調べてみたところ、70年くらいが主流のようですね。ふー。こりゃ、著作権100年時代もすぐそこですね(ちなみにメキシコはすでに100年なのだそうです)。

 今を生きる人にとっては参入障壁であり、昔を生きた人にとっては既得権益である――。著作権は、すでにそう言われても仕方ない状況にあると思えてなりません。若い人たちにとって見れば、著作権は目の上のたんこぶに見えているんじゃないでしょうか。

 曲を作れば「それはおれが昔作ったメロディに似てる!」と言われ、詩を書けば「それはおれが昔作った詩じゃないか」とどやされる。あのマンガとこの小説はストーリー展開が似ている、そのレイアウトはあの雑誌のあれと同じ……。何をやっても「昔あった」と言われ、「著作権侵害だ」と訴えられるのが、いま僕たちの生きている世界です。著作権恫喝といったら言いすぎでしょうか?

 そういう時代に生きる若い人たちが、「もうやってられねー! そんなの知るか! おれたちはおれたちの感覚で好きにやるぜ!」となってしまうのは、ある面で、仕方ないように思えてしまいます。

「なんかよく分からない著作権」は置いといて……

 表現手段=PCと、発表の場=ネットを持つ人たち。しかも表現欲求があり余っている10代や20代の若者が、「なんかよく分からない著作権」をペイッと横に置いて、自己の欲求を表現してしまうのは、どうにもならないような気がするんです、自分は。もっとも、その結果が以下のような状態になるわけですけれども。

PhotoPhoto Googleで画像検索をした結果。左は「ディズニー デコメ」と入力したときの結果で、右は「歌詞画」と入れて検索したもの。モザイクがかかっているサイトは、個人の方が二次創作された作品を掲載していると思われるもの

 どちらも、Google先生に画像のありかをお聞きした結果です。なんと尋ねたかといえば、左は「ディズニー デコメ」で、右は「歌詞画(ミュージシャンの写真に歌詞を入れた待受画像)」。モザイクかかりまくりで、これじゃあなんだか分からないという方には申し訳ないのですけれど、そうはいっても、どちらもモザイクなしでは載せられない状態です……。ぜひ検索して、ご自分の目でお確かめください。

 ケータイコンテンツの世界では、数年前からこうした自作デコメや自作待受画像・待受Flashが花盛り。一般企業には著作権や肖像権などのハードルがあり、なかなか実現しづらいキャラクターやミュージシャンのケータイコンテンツを、ファンたちが自作して(しかも驚くほど高クオリティで!)、無料で交換しあっているわけです。最近ではデコメ絵文字の自作&交換も盛んなもよう。ディズニーやジャニーズ、さらにはジブリ作品なんかをよく見ます。

 ファンの愛で作られ、ツボを押さえた超大物タイトルのコンテンツが、無料でダウンロードできるわけですから、コンテンツ屋には本当に厳しい時代になりました。それにしても、自作着メロが流通しまくっていた太古(1999年くらい)の時代しかり、ケータイと“著作権保護された”ものを扱う自作コンテンツって、本当に相性がいいですねぇ。

 「けしからん! でも、未成年向けのフィルタリングが徹底されれば、こういうことをしている学生諸君だってやりづらくなるのでは」とおっしゃる方もいるでしょう。ですが、これとそれとはまったく話が別にございます。いまだにコンテンツのフィルタリングがどういう方式に落ち着くのかは明確に分かりませんけれど、とにもかくにも話は別なのです。

 なぜかといえば、自分が確認した限り、学生だけでなく、子供もいる20代のお母さんをはじめ、サラリーマン&OLなども、ガンガンにディズニー自作デコメを配布したり収集したりしているからです。つまり、すでに立派な大人たちも、こうした世界を支える一員になっているのです。キャリアから見ると、この人たちはパケット通信料収入を支える一員ともいえるかもしれませんね。ちょっと言いすぎですかな。

 とにもかくにも、とどまるところのないケータイの自作コンテンツ(User Generated Contents/ユーザー生成コンテンツ)の流れ。次回は、ここらへんの世界を、もうちょっと突っ込んで書いてみたいと思います。

プロフィール:トミヤマリュウタ

ときにライター、ときにデザイナー、ときにプランナー。某携帯電話関連会社にて某着メロ交換サイトを企画するなどといった若気のいたりを経て、2001年に独立。2004年には有限会社r.c.o.を設立。書籍、雑誌、ウェブの執筆・デザインなど、各種制作業務を中心に活動。2006年あたりから始まったケータイ業界再編の波にもまれていうるちに、近年では大手携帯電話会社のコンテンツ企画を手がけることになっていたりと、なんだか不思議な毎日。


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