未来のケータイの姿、ヒントはSF映画にあり――夏野氏(前編):「今日は映画大会です」

» 2008年07月10日 13時50分 公開
[後藤祥子,ITmedia]
Photo 「モバイル08」に慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 教授として参加した夏野剛氏。「最も尊敬する作家はアーサー・C・クラーク」(夏野氏)

 「今日は映画大会をやろうと思います」――。モバイル学会が主催するシンポジウム「モバイル08」の夏野剛氏の講演は、同氏のこんな宣言で始まった。テーマは「ケータイの未来」。ドコモ時代にiモードやiアプリ、おサイフケータイを生み出してきた夏野氏に、これからのケータイの姿を予測してもらおうというのが講演の趣旨だ。

 それがなぜ、「映画大会」になるのか。その理由は、同氏がケータイ向けのサービスや機能を考える際のスタンスを聞くと分かる。「何でそういうこと(iモードやおサイフケータイなどのサービス)を思いついたのかとよく聞かれるが、僕はあまりクリエイティブな人間ではなく、全部自分が困っていることや、“何でこのケータイはこんなことができないんだろう”“こういう機能があったらもっと便利なのに”という、素朴な疑問を解決してきた」(夏野氏)

 そしてサービスを開発し、提供するにあたって“全体的に技術がどう進むのか”“今、まったくないものを、ユーザーがどのように受け入れるのか”を考えるときにヒントになったのがSF小説やSF映画だったと振り返る。

 「発想のヒントになっているのは、実はSF小説やSF映画。暗い少年時代のことを語りたくはないが、SFオタクだった。コンピュータオタクでシャープの『MZ700』を中学2年の時に買ってきたというのもあるが、同時にSFが大好きだった」(夏野氏)

 中でも、作品の中でなるべく物理学の法則に忠実に未来を予測する“ハードSF”は「未来予測に役立つ」と夏野氏。「IT革命が起こったことで何が一番変わったかというと、未来が現実になるスピードが速くなった。モバイルに関心がある方は、どんどんSF映画を見てください」(夏野氏)

バーチャルディスプレイが、ケータイを形や大きさの制約から解き放つ

 夏野氏が最初に紹介したのは、SF映画に登場する未来の家のシーンだ。

Photo
未来のIT家電 映画 参考シーン
洗面台型情報エージェント シックス・デイ 鏡の上にニュースやその日の予定が表示される
IT冷蔵庫 シックス・デイ 不足した食料品を自動で検知し、そのまま購入できる
スイッチングハウス マイノリティ・リポート 帰宅を関知して照明が点灯
ITシャワー マイノリティ・リポート 音声で温度調整や音楽再生が可能
バーチャルディスプレイ マイノリティ・リポート ホログラムの3Dで映像を視聴

 中でも夏野氏が注目していると話すのが、映画「マイノリティ・リポート」の1シーンにも登場する「バーチャルディスプレイ」。その理由は、ディスプレイが仮想化すれば、ケータイが形やサイズの制約から解き放たれるからだ。

 「今の携帯電話のサイズは、ディスプレイとキーボードの大きさで決まっていて、3インチのディスプレイを積もうと思うと、物理的に(携帯電話側に)3インチのエリアが必要になるから、この大きさになってしまう。必要なときだけ3インチ、14インチ、30インチに投射できれば、生活は一変する。今の日本の技術者は、いかにきれいな液晶にできるかを物理的なスクリーンサイズと同じ大きさで競っているが、“物理的な大きさと見ている大きさが全く同じスクリーン”というのは、どちらかといえば20世紀型の考え方」(夏野氏)

 また夏野氏は、網膜に画像を照射する方法も「あり得る話」だと期待を寄せる。「のぞきこむと目の前に大スクリーンが現れ、外すと何も起こっていない。これも1つのバーチャルディスプレイの考え方」(同)

 物理的なサイズのディスプレイが、実際に見えるサイズと同じである世界から外れれば、携帯電話の形状とサイズは圧倒的に自由になるといい、これを何らかの技術で実現できれば「携帯電話業界はまた、大きく変わる」と期待を寄せた。

 映画「シックス・デイ」の1シーンに登場した「IT冷蔵庫」は、ホテルに備え付けの冷蔵庫の例を挙げ、同じようなことは実現できると説明する。

 「どうやって残り分量を見るのかという話はあるものの、位置さえ決めればできる。ホテルの冷蔵庫からジュースを取ると、それがチャージされるのと同じように、“ここに何を置く”ということさえ決めれば、同じようなことは可能だ」(夏野氏)

 同様の取り組みはMITで1998年にすでにスタートしており、冷蔵庫の中に設置したカメラで在庫を確認し、扉に内容物を表示するなどの方法を提案していたという。夏野氏は、最近のカメラは形状やデザインを認識できるようになっていることを挙げ、実現も不可能ではないと話す。「ICタグを全部に付けるとか考える人がいるが、もっと簡単に実現する方向にいったほうがいい」(夏野氏)

 帰宅を関知して家の照明が点くという、映画「マイノリティ・リポート」の1シーンは、すでに現在の住宅で実現しているものだ。「今の新しいマンションの玄関にある照明は、帰宅検知で点灯するものがほとんど。カーナビの音声認識機能はものすごく発達していて、人間の認証はしないまでも、音声ボタンを押して“自宅”といえば、自宅へのルートが表示される機能は普通に載っている」(夏野氏)。同じように、ケータイを音声で操作するということも、「らくらくホン プレミアム」で実現している例を挙げ、SF映画に出てくる未来の一部が現実になっているとした。

Photo MITのカウンターインテリジェンスプロジェクト(左)と、センサー+ケータイの通信用ミドルウェア(右)

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