慶大教授の夏野氏、ガラパゴス論とフィルタリング問題を斬るあいかわらずの“夏野節”

» 2008年07月07日 15時07分 公開
[後藤祥子,ITmedia]
Photo 「モバイル08」に慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 教授として参加した夏野剛氏

 7月4日、携帯電話の未来をテーマとしたシンポジウム「モバイル08」が開催され、iモードやおサイフケータイの育ての親として知られる夏野剛氏(慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 教授)が講演を行った。講演は、「SF映画の中に見る未来のケータイの姿」をテーマとするものだったが、その中では、日本の携帯電話市場のメタファーとして使われることがある「ガラパゴス論」や、子供のケータイ利用で議論されている「フィルタリング問題」にも触れ、相変わらずの“夏野節”で、諸問題に対する考えを述べた。

日本のケータイ市場はガラパゴス――これは半分当たっていて半分はウソ

 日本の携帯電話市場は他の諸外国と異なり、携帯キャリアがサービスや機能の仕様を決め、その仕様に合った端末をメーカーが開発するというのが一般的だ。そして、各種サービスの早期普及を目指して、「安価に端末を提供し、その分のコストを通信料で回収する」というインセンティブモデルが導入され、それが日本の携帯電話の急速な発展を後押しした。

 しかし、日本のキャリア仕様に合わせた端末やサービスは、そのまま海外で展開するのが難しいことから、“オープンにすべき”という声も挙がっている。そしてオープンなビジネスモデルをうたうウィルコムやイー・モバイル、日本通信は、こうしたキャリア主導のビジネスモデルを、隔離された場所で生物が独特な進化を遂げた「ガラパゴス島」になぞらえて話すこともしばしばだ。

 このガラパゴス論について夏野氏は「日本のマスコミは、すぐ、“日本は遅れている”とか“ガラパゴス”とかいうが、ガラパゴスは半分当たっていて半分は全くウソ」と言い切った。

 半分当たっているというのは、日本の端末メーカーの心構えの問題だと夏野氏。「日本のメーカーさんのマインドセット(心構え)は、申しわけないけれどガラパゴス的。日本でだけ営業していれば、ポジションと給料は確保され、大変な思いをして海外にいっても給料も増えない。“日本だけでやっていればいいや”というマインドセットが、ガラパゴスといわれるゆえんではある」(夏野氏)

 半分のウソというのは、ガラパゴスの生物が“ほかのところでは生きていけないという意味で遅れている”のに対し、“日本のケータイは進んでいる”ので、ガラパゴスではないというのが夏野氏の考えだ。「(日本の携帯電話は)独自の生態系っぽいという意味ではガラパゴス的だが、“進んでいる”ので、(ガラパゴスという意味では)ダーウィンの進化の法則に反している」(夏野氏)

 日本に比べて市場が大きく競争も激しい海外より、日本の方が携帯市場が進化した理由について夏野氏は、日本の携帯電話があらゆるものを競争相手としてきたためだと分析する。「欧米で携帯電話メーカーに競争相手を聞くと、同じ“携帯電話メーカー”だという。産業の多重性という意味では、日本の携帯電話の方があらゆるものが競争相手になっている。今では音楽プレーヤーやテレビチューナー、PC、PDAなどあらゆるものが競争範囲になっており、それが広いから(日本の携帯電話は)進化してきた」(夏野氏)

大人の議論がなされていない――フィルタリング問題

 子供が携帯を介した犯罪に巻き込まれる事件が後を絶たないことから、その利用についてさまざまな議論を呼んでいる「フィルタリング問題」について夏野氏は、「今のケータイインターネットの何が問題なのかが、きちんと議論されていない」と懸念し、「議論している人が、ほとんどケータイのインターネットを使っていない人なので、あまり意味がない」と斬った。

 同氏は、中には有害なサイトもあることから、「啓蒙活動は重要」としながらも「(だからといって)“持たせなくていい”という結論はないだろう」と、語気を強める。「人間の現実の世界で起こっていることはネット上でコピーされる。現実世界に性情報や風俗店が実在する以上、ネットの世界でも実在してしまう。現実の世界で犯罪が起こっているからネットの世界でも犯罪が起こるのであって、ネットが悪いのではない」(同)

 ケータイインターネットのような新しい仕組みや新しい技術には功罪があり、そのメリットとデメリットを把握した上で議論することが重要だというのが夏野氏の考えだ。「“ネットだから助長される”ところもあるので、ある種のブレーキのようなものは考える必要があるし、その一環で“子供にはフィルタリングが必要”という結論になるのであればそれはそれでいいと思うが、“ちゃんとそこまで議論してやろうよ”という感じはする。今は大人の議論になっていないので、僕は答えようがない」(同)

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