“クール”ではなく”スリーク”──「G'zOne W62CA」が追い求めたもの 開発陣に聞く「G'zOne W62CA」(1/2 ページ)

» 2008年08月13日 18時00分 公開
[青山祐介,ITmedia]

 前作「G'zOne W42CA」の発売から2年。「G'zOne W62CA」は、G'zOneファンにとっては待望のタフネスケータイの新モデルだ。従来のG'zOneシリーズが持つ無骨さ、ワイルドさといった表現からは少し離れ、スマートに仕上げられたこの端末は、伝統と新たな表現の葛藤の中から生まれたという。新生G'zOneが生まれるまでの過程を、開発チームのメンバーに聞いた。

“Sleek Tough”というコンセプト

Photo カシオ日立モバイルコミュニケーションズ 第一事業部 戦略推進グループ 商品企画チームの佐合祐一氏

 「『G'zOne』は、“耐衝撃”というカシオ計算機が作るケータイの独自性をもったブランドです。最近になって“防水ケータイ”がたくさん出てきていますが、“防水かつ、耐衝撃”を実現し、ほかのケータイとは明らかに差別化できる点が、G'zOneの強みです」

 こう語るのは、G'zOne W62CAの開発チームでまとめ役として商品企画を担当した佐合祐一氏。G'zOneシリーズはauのケータイの中でも、いち早く防水・耐衝撃性能を備えたモデルとして2000年に登場した初代「C303CA」から続くブランドだ。佐合氏によると、W62CAは、このブランドの根強いファンに向けて、ちょうど前作のW42CAから約2年という買い替え時期に合わせ、“満を持して”リリースした自信作だという。

 W42CAは、無骨でワイルドなスタイルがユーザーにヒットしたモデルだった。そこで今回は、もう少しG'zOneユーザーの裾野を広げるため、20ミリを切るまで薄くし、KCP+プラットフォームを採用してワンセグ、おサイフケータイ、Bluetoothというハイスペックな機能を搭載するなど、一般的なユーザーのニーズを満たすスペックの上に、防水と耐衝撃性能を持つモデルというコンセプトで開発した。

PhotoPhoto 歴代のG'zOneシリーズ。左が「G'zOne TYPE-R」、中央が「G'zOne W42CA」、右が「G'zOne W62CA」

 このコンセプトを端的に表したキーワードが「Sleek Tough(スリーク・タフ)」だ。この言葉についてプロダクトデザインを担当した杉岡忍氏は次のように説明してくれた。

Photo カシオ計算機 開発本部 デザインセンター 第四デザイン室の杉岡忍氏

 「『スリーク』というキーワードは、元々デザインチームから提案したものです。G'zOneシリーズは米国でも発売されていますが、そちらでグループインタビューをしたときに、G'zOneを評する言葉に『クール』ではなくて『スリーク』という単語が出てきました。『クール』は日本だと『ナウい』のような古いイメージの単語だとか。今どきは“かっこいい”ことを表す言葉に『スリーク』を使うようです。この『スリーク』には、“滑らかな”“すべすべした”という意味があるそうです。このスマートで滑らかなというイメージの単語が、今回のG'zOneの薄いデザインのイメージに合うと考えました」(杉岡氏)

 この「スリーク」がデザインコンセプトになった段階で、デザインチームでは次にどんな人に身に付けてほしいかを考えた。従来のG'zOneが持つ“無骨”“ワイルド”“アウトドア”というイメージではなく、より“オトナが持って似合うツール”感を大事にしたという。

 「オフタイムに海外の辺境の地に遊びに行ってしまうような、マインド面でワイルドさを持っている人。そんな人に向けて、ワイルド感をあからさまに出すのではなく、内に秘めた形で本体形状に反映できないか、と考えました」(杉岡氏)

 薄いフォルムの中にも強さを内包するW62CAのデザイン。その形はイメージを膨らませる過程で、FRPやカーボンファイバーといった軽い素材を使って剛性感のあるものにモチーフを求め、ゼロハリバートンのスーツケースなどがとても参考になったという。さらに、自転車のペダルにもデザインのルーツがあると杉岡氏は明かしてくれた。

 「レースタイプの自転車などは、フレームがカーボン素材でできていたりと、ボディの軽量化に重点を置いています。こうした自転車の軽さと剛性をどうやって両立しているかというところに、イメージとして面白いモチーフがいっぱいありました」(杉岡氏)

サークルディスプレイからの決別

 G'zOneシリーズといえば、初代C303CAの頃から、同じカシオ計算機製の腕時計「G-SHOCK」シリーズをモチーフにしてデザインされていることはよく知られている。これは、その後、「C409CA」をはじめとしたストレートタイプだけでなく、「G'zOne TYPE-R」やW42CAでも、円形のサブディスプレイ「サークルディスプレイ」として継承されてきた。しかしW62CAでは電子ペーパーによる小さな長方形のサブディスプレイを採用している。G'zOneファンの中にはこの変化に驚いた人もいるのではないだろうか。

Photo 機構設計チームからの提案で採用が決まった背面の電子ペーパーディスプレイ。G'zOneシリーズでおなじみの円形ではなく、長方形の小窓になっている

 「G'zOneのサークルディスプレイに魅力を感じていた人にとっては、とてもショッキングなのではと思っています。しかし、今回は登場感を優先しました。最初はサークルディスプレイを継承する方向で考えていましたが、W42CAとは違う新生G'zOneという登場感を大切にして、さらにスマートさをどれだけストレートに表現できるか、ということで電子ペーパーが効果的だという判断を下しました」(杉岡氏)

 もちろん、電子ペーパーを使いながらサークルディスプレイのようなデザインにすることは可能だったという。しかし、そうすることで基板が大きくなってしまい、ディスプレイ側ケースの先端に集まるスピーカーなどの回路スペースが取りにくく、結果として薄型化に不利になるという実装上の問題から見送られた。

 またG'zOneユーザーばかりでなく、過去にもG'zOneのデザインに関わってきた杉岡氏にとっても、サークルディスプレイをやめるということは重大な決断だったようだ。そのため、サークルディスプレイはディスプレイ周りにこそ残せなかったものの、カメラ側にそのモチーフを残している。杉岡氏によると、カメラはむしろサークルディスプレイの流れをダイレクトに表現できたという。

 また、今回のデザインの中で杉岡氏が特にこだわったのが、四隅に配置されたエラストマー樹脂製のバンパーのデザインだ。G'zOneシリーズには歴代のモデルすべての本体にバンパーを備えている。中でもG'zOne Type-Rでは、取替えが可能な3種類のバンパーを用意したり、W42CAではそのモチーフをアンテナに生かしたりと、バンパーの形はモデルごとに象徴的な存在となっている。

 「耐久性に優れ、ロングライフに使えるものとはどういうものか、というテーマでさまざまなプロダクトを調べてみました。するとそこに共通しているのが、“理にかなったポジションに理にかなったパーツ、材料が配置されている”ということです。それをこのW62CAに当てはめると、落下時に一番有効なバンパーの位置はどこかということになったのです」(杉岡氏)

 その結果生まれたのが、本体と一体化した形で見せるバンパーの配置。四隅を若干出っ張らせることで、落下時には効果的に衝撃を吸収し、また手にしたときにはここが指かかりにもなる。杉岡氏によると「指かかりになる」点は、実際にスタディモデルを作って気がついたのだという。それからは、さらに強く握ったときにも痛くない形にするために、カット面の造形を追求して行った。

 「ブラックやホワイトの塗装もそうですが、“触感”もキーワードの1つです。ユーザーを等身大で考えて、自分で使うならどこが気になるかを洗い出したというのがデザインのポイントでしょうか」(杉岡氏)

 この“触感”へのこだわりは、他の部分にも見て取れる。例えばサイドキーは、金属棒をローレット加工したような形状とつるっとした形状を合わせて、触感でキーを使い分けられる。またダイヤルキー面では、シートキーというフラットなデバイスを使いながらも、各キーに凹凸を設けたり、キーの周囲にはハッチングのパターンを入れたりするなど、触感でキーを認識して操作できるというG'zOneならではの作りを表現している。

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