高速・大容量データ通信“夜明け前”――火がつくとしたら、どこから?神尾寿の時事日想

» 2008年09月04日 10時50分 公開
[神尾寿,Business Media 誠]
UQコミュニケーションズ代表取締役社長の田中孝司氏と、モバイルWiMAXの第1号基地局

 UQコミュニケーションズは8月29日、モバイルWiMAXサービス用の基地局第1号が完成したと発表した(参照記事)。同社は総務省から新たに割り当てられた2.5GHz帯を使う通信キャリアの1つ。米インテルなどPC系ベンダーが推す通信方式「モバイルWiMAX」を採用し、高速・大容量データ通信サービスの展開を目指している。なお、同じく2.5GHz帯を使う新たな高速・大容量データ通信サービスとしては、ウィルコムの「WILLCOM CORE」(参照記事)も事業化の準備が進められている。順調に準備が進めば、どちらも2009年には商用サービスが始まりそうだ。

 現在、日本の携帯電話市場は、高速・大容量データ通信を軸とした「次の10年」の夜明け前にある。

 UQコミュニケーションズのモバイルWiMAXやウィルコムのWILLCOM COREはその先兵だが、その後には携帯電話各社の“次世代インフラへのシフト”も控えている。例えば、NTTドコモは、新たな通信方式である「スーパー3G (LTE)」および「4G」の研究開発と市場化に向けた取り組みで世界をリードしている。LTEに関しては、これまでドコモやソフトバンクモバイルと異なる通信方式を採用していたKDDIも「LTEを採用する方針であると考えていただいてかまわない」(KDDIの小野寺正社長、参照記事)と表明しており、次世代携帯電話インフラの本命になっている。また、既存のCDMA技術を進化させた「HSPA+」や「EV-DO Rev.B」といった通信方式の準備も進んでいる。これらはLTEの商用化・エリア整備と並行して補完的に使われ、次世代インフラへの移行において「緩やかな橋渡しをする役割を担う」(キャリア関係者)見込みだ。

 →HSDPAからLTEに、段階的に高速化――HSPA Evolutionのロードマップ

 →EV-DO Rev.Aを3倍高速化──EV-DO Rev.B対応「MSM7850」デモ

「B to B」「B to B to C」でローンチを下支え

 このように各キャリアの次世代インフラへの準備は着々と進んでいるが、一方で、新たな設備投資が“いつ黒字化するのか”という不安も抱え込んでいる。移動体通信事業は新規のエリア整備に巨額の資金を必要とし、ひとたび黒字化すれば安定的な収益が得られるものの、そこに至るまでの投資リスクは大きい。特にインフラの大規模更新期は、舵取りを誤ると「ユーザーの移行」に思いのほか時間がかかり、ライバルに足下をすくわれる危険性が生じる。

 例えば過去を振り返ると、2001年に他社に先駆けて商用化したNTTドコモの初期の「FOMA」は、エリアや端末が未成熟で、なおかつユーザーの需要喚起も不十分なままサービス開始を強行し、スタート直後から大きく挫折。事業を立て直し、再びFOMAが競争力を得るまでに5年近い歳月を要した。

 今回のワイヤレスブロードバンド時代への移行では、かつての「FOMAの失敗」と「auの成功」を教訓に、各キャリアともに新サービスと既存サービスを共存させる“ソフトランディング”で次世代インフラへの移行に臨む方針を打ち出している。とはいえ、現行よりも数十〜数百倍となる高速・大容量通信サービスで、ユーザーにどのような需要喚起を行うかという課題はある。動画コンテンツや、インターネットサービスをそのまま使えるiPhone 3Gのようなスマートフォン型端末の可能性が模索されているが、コンシューマーユーザーの次世代インフラへの移行を強く促すような決定打は、いまだ見つかっていないのが実情だ。

 一方で、筆者は次世代インフラの需要は、意外なところから火が付くのではないかとも考えている。それが通信モジュールを使った「B to B」市場や、「B to B to C」市場だ。

 現在、様々な業務用データ端末や設備管理システムの“ワイヤレスネットワーク化”が進んでおり、通信モジュールの組み込みが水面下でずいぶんと進んでいる。例えば、コインパーキングの駐車場精算機や、ドリンクやタバコの自動販売機、電車やバスの運行管理システムなどは通信モジュールの内蔵が進んでいる分野だ。今のところ、これらはセンター側からの遠隔管理やカード認証用のインフラとして使われているが、ワイヤレスブロードバンド用の通信モジュールに置き換われば、大容量コンテンツの配信や新たな顧客サービスの実現も可能になるだろう。

 また、最近注目のデジタルサイネージ(参照記事)も、ワイヤレスブロードバンドの応用が考えられる分野だ。街中に設置されたデジタルサイネージ端末はもちろんだが、モバイルで高速・大容量通信ができるという特性を生かして、タクシーやバス、電車など交通広告分野のデジタルサイネージ端末向けのコンテンツ配信インフラとして使うことも考えられる。

 これら「B to B」や「B to B to C」向けの用途は、設置場所や業務エリアがあらかじめ分かっているものも多く、新たな通信インフラのローンチ時に問題となる「サービスエリアへの不満」が起きにくいというメリットもある。

 1999年のiモード開始から幕を開け、3G時代でへの移行で全盛を迎えたこの10年は、“コンシューマー向けの携帯電話”だけが市場を牽引した時代だった。しかし、次の10年は、携帯電話だけでなく様々な端末や機器がワイヤレスネットワークで繋がる。ビジネス領域の拡大と多様性が成功の鍵になりそうだ。コンシューマーユーザーの次世代インフラへの移行は最重要案件であるが、一方で、各キャリアがどれだけ早いタイミングから「B to B」や「B to B to C」の新市場に布石が打てるかも、その後の勢力争いに影響しそうである。

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