ここまで写真と動画で「iPad」を紹介してきたが、いかがだっただろうか? 順序が逆の気もするが、最後にサンフランシスコで行われたスペシャルイベントの模様の詳細を写真とともに振り返っていく。ウワサと比較して現実はどうだったか、この新製品でスティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)氏らApple幹部は何を目指しているのか、改めて考察してみよう。
ある意味で、今回のスペシャルイベントとiPadというデバイスは、リーク情報に始まり、正式発表まで次々と飛び出すウワサ話に終始踊らされたものだったといえる。数年前からAppleがタブレットの開発に興味を持っていることはささやかれていたが、実際に開発を行っているという話が伝わってきたのは2009年の前半だ。その後、大手通信キャリアとの交渉が進んでいると英Financial Timesが伝えるとともに、長期療養から復帰したジョブズ氏が計画のやり直しを指示したなど、2転3転する状況が伝わってきた。
それから、秋ごろになって米New York Times幹部が内部ミーティングでAppleのタブレット製品に言及したことをきっかけに話題が再燃し、2009年12月から2010年1月にかけて次々とリーク情報が出現した。そして最後には、AppleがiPadについて一言も公言していないにも関わらず、電子書籍の提携パートナーとしてウワサされていた米MaGraw-Hill関係者が、スペシャルイベント前日のテレビインタビューでタブレットの存在を明かしてしまう、といった具合だ。
改めて考えてみれば、これらのリークはAppleによってコントロールされていたと考えたほうが自然な気もしてくる。例えば、イメージ作りのために定期的に真実を混ぜた情報を流しており、結果として出てきた製品は、事前情報のイメージとそれほど変わらなかった――イベント当日にタブレットが出てくることは誰も疑わなかったし、そのうえで製品の完成度やソフトウェア、周辺サービスがどう変化するのかを知ろうと考えていたはずだ。
事実、今回のイベントではiPad発表までの時間が非常に短く、プレゼンテーションのほとんどの時間をその概要の説明に割いていた。One More Thingもなく、明らかにiPadのためのイベントだ。タブレットの存在を示唆するような誘導の仕方や、1000ドル前後という事前のリーク情報ありきでの499ドルという価格発表など、Appleという秘密主義の企業の性格をうまく生かしたアピール方法だったと思う。
病気療養から復帰して半年が経ち、幾分か元気になったように見えるジョブズ氏は、終始にこやかにiPadを手にステージ上に置かれたソファに座りながら操作デモを行っていた。ネットサーフィンに電子メール、音楽や動画コンテンツの再生、スケジュール確認など、これまでもMacやiPhoneで何度もやってきたタスクの繰り返しではあるが、iPad片手に自由なスタイルでどこでも作業できること、iPhoneよりは画面が広くて性能の高いデバイスであることという2点が、iPadの立ち位置をうまく表しているという印象を受けた。MacBookよりは可搬性や使い方の自由度が高く、iPhoneだけでは物足りないという需要をカバーする第3のデバイスだ。
ジョブズ氏による一通りのデモを見ていて気が付くのは、iPadはとにかくすべてのアプリがもたつきなくスムーズに動作する点だ。iPad本体を回すと画面もそれに沿って本当に“ぬるぬる”とローテーションしてくる。指の動きにソフトウェアがついてこないタブレットやスマートフォンなどのタッチパネル端末がいまだ多いなか、これだけでiPadの製品としての完成度が高いことがうかがえる。筆者が今回のリポートでイベントより先に写真と動画を優先的に公開したのも、こうしたファーストインプレッションをみなさんにまず知ってほしかったからだ。
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