技術オリエンテッドなHTCが“カワイイ”に目覚めた日――国内向け「HTC J」を生んだ新戦略KDDI×HTC(2/4 ページ)

» 2012年04月20日 22時00分 公開
[平賀洋一,ITmedia]

 「そこでHTCには、おサイフケータイやワンセグ、赤外線という日本の定番機能を搭載してほしいと伝えた。そして、もっと持ちやすくてカラフルなデザインにしてほしいとも要望した。海外では黒くて大きいスマートフォンが望まれるが、日本には、小さくてカラフルで、そして中身の機能も充実しているものが必要。ピーターは『子ども向けみたいだな』とか『オレは良いと思わないけど言うこと聞いてやる』とか生意気言ってましたけど(笑)」(田中氏)

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 チョウ氏にしてみれば、Windows MobileやAndroidを搭載した世界初のスマートフォンを手がけ、3GやCDMA、WiMAX、4Gのなどの最新規格にいち早く対応するなど、“技術”と“イノベーション”を社是としてHTCを引っ張ってきた自負があった。しかし田中氏に、「ピーターさんよ、プロダクトは“カワイイ”ことも必要なんだよ」と言われたことで、普及モデルであっても高い機能やデザイン性が必要であることを強く認識したという。

photo KDDI側からは、au design projectでおなじみの小牟田啓博氏もデザインに参加

 「さらに田中さんは“カワイイ”という他社の製品をいろいろ見せてくれ、その意味を理解することができた。我々は顧客のニーズをくむ謙虚な会社だが、特に田中さんは情熱を持ってデザインの重要性を訴えてくれ、その狙いに同感できた。HTC Jを開発できたのは、田中さんの助けがあったからといえる」(チョウ氏)

 また田中氏も、「ピーターが『HTCは謙虚(humble)な会社』って言ってましたけど、最初は日本の市場をあまり理解してくれなかった。KDDIがいろいろ言うのは正直(honest)な会社だからだと言うと、彼は『こっちはhumbleだ』と言い返してきた」と、腹を割ったやりとりがあったことを明かす。

 KDDIとHTCがジョイントし、市場のニーズに対して“正直で謙虚”な姿勢を取って開発されたHTC J。チョウ氏はモバイルネットワークという側面からも、KDDIとのパートナーシップを強く望んでいたと振り返る。

 「HTCはこれまでも、CDMAを採用した通信事業者と世界中でパートナーを組んできた。以前から、KDDIが持つCDMA網の品質が非常に高いことに注目しており、HTCの高い技術を生かした製品をKDDI網で提供したいと考えていた。しかし当時はフィーチャーフォンの時代であり、それは難しかった。今回は田中さんの情熱だけでなく、デザイナーなどのリソースも提供してもらった。こうしたチャンスを与えてもらい、非常に光栄だと思っている」(チョウ氏)

 また田中氏も、単にグローバルモデルを国内展開するだけでなく、海外のトップブランドであるHTCの高い技術力を使った高度なカスタマイズを実現したことに満足しているという。

 「HTCの持つ技術力、特にソフトの開発力はすごい。メーカーとキャリアがジョイントワークとして一緒に開発したHTC Jを、日本におけるスマートフォンのマイルストーンにしたい。海外と日本の文化はあまりシナジーしないが、HTCは“Quietly Brilliant”(謙虚で寡黙な思想家であれ)というブランドメッセ―ジのとおり、非常に謙虚で一緒にやろうという気持ちが強い会社。そのHTCのブランドが日本に浸透してほしいと願っている」(田中氏)

キーワードは“made for japan”

 HTCは2月末にスペイン・バルセロナで行われたMobile World Congress 2012で、スマートフォンの新シリーズ「HTC One」を発表。そのなかの中堅機種である「HTC One S」が、HTC Jのベースとなっている。とはいえ、端末デザインや多くの機能は日本向けにカスタマイズされており、日本はもちろん、特定の市場向けにフルスクラッチで製品を作るのはHTC初だという。

 ディスプレイは約4.3インチQHD(540×960ピクセル)の有機ELで、ディスプレイパネルには3次元成形の立体的なガラスが用いられた。CPUには1.5GHzデュアルコアのQualcomm製「Snapdragon MSM8660A」を搭載している。おサイフケータイやワンセグ、そして赤外線通信にも対応し、CメールやauのEメール、緊急地震速報などのKDDIが提供するサービスももちろん利用できる。通信方式はCDMA(WIN HIGH SPEEDには非対応)とWiMAX、Wi-Fiをサポートし、海外ローミング(グローバルパスポート)ではCDMA/GSM/UMTS/GPRSによる通信も可能だ。HTCにとってはおサイフケータイやワンセグ、赤外線通信の実装は初めてのことで、厚さ10ミリというサイズに詰め込むのに苦労したという。

 さて、HTCのAndroidスマートフォンといえば、独自のユーザーインタフェース(UI)である「HTC Sence」がおなじみだ。HTC One Sではこれが「Sense 4.0」に進化。もちろんHTC JにもSense 4.0が搭載されている。

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