Qualcommが11月28日(現地時間)、米国サンディエゴで「Global Editors' Week 2012」と題したプレス向けイベントを開催した。Global Editors' Weekは、CDMAやLTEの基本特許を多数持ち、スマートデバイスを中心とする通信機器向けにモデムやアプリケーションプロセッサ、ユーザー体験を向上させるソフトウェア、基地局用ソリューション、通信事業者向けのソリューションなど幅広い製品や技術、サービスを提供するQualcommが、同社の事業や製品群、それらを生み出した技術的背景などを世界のメディア向けに解説するイベント。日本や韓国、米国だけでなく、同社が現在注力する、中国やインド、アフリカ、南米などの“新興市場”(Emerging Market)のメディアも多数招待されている。
説明会の冒頭では、2012年3月までIntelのシニアバイスプレジデントでウルトラモビリティ部門のジェネラルマネジャーを務め、8月にQualcommのシニアバイスプレジデント兼CMO(Chief Marketing Officer)に就任したばかりのアナンド・チャンドラシーカ(Anand Chandrasekher)氏がQualcommの事業の概要や注力分野を説明した。同氏はIntelでCentrinoやAtomといった、モバイル向けのプラットフォームを立ち上げてきた経歴を持つ、PC業界ではかなり名の知れた人物。IT業界の時流の変化を如実に感じさせる一幕だった。
このGlobal Editors' Weekで開催された多数のセッションの中でも、特に興味深かったのが、高性能なスマートフォン向けのアプリケーションプロセッサとして多くの端末メーカーからの支持を集める「Snapdragon」に関する説明だ。ここではQMC(Qualcomm Mobile and Computig)部門のマーケティング担当シニアディレクター、ミッシェル・レイデンリー(Michelle Leyden Li)氏が、同社のスマートデバイス向けプロセッサに対する考え方や、他社と明確に異なる特長を解説した。
QualcommのSnapdragonは、世界のスマートフォンの多くに採用実績がある、ARMベースのアプリケーションプロセッサーだ。日本でもスマートフォンに関心のある読者ならきっと耳にしたことがある名前だろう。2008年に第1世代のScropionコアを搭載した製品をリリースして以来、Snapdragonは国内外のAndroidスマートフォンやタブレット、Windows Phone、Windows RTタブレットなどさまざまな製品に搭載されてきた。現在では、世界の70以上のメーカーが、500以上のモデルに採用しており、さらに400以上の新しいモデルが開発途上にあるという。
こうした多数の製品に採用され,世界でも高い評価を獲得している背景には、QualcommがSnapdragonの開発において常に「どうしたらユーザーが満足するか」「ユーザーが快適に使えるためには何が必要か」を考え、それを実現するための各種機能を効率よく統合してきた歴史がある。
Snapdragonが搭載するCPU(アプリケーションプロセッサコア)、GPU(グラフィックスコア)、DSP、モデム(2G/3G/LTEなどの通信機能)などは、いずれも業界をリードするトップクラスの性能を持つが、それはすべて、1日中電源がオンの状態でネットにつながっているスマートフォンの「ユーザー体験」をよりよくすることにフォーカスして製品開発をしてきた結果だ。
「単に数字の大きなものを作ればいいとは思っていない。ユーザーが最終的に気にするのは、使用感が快適かどうか。CPUやGPUだけでなく、ユーザー体験の向上につながるさまざまなピースをデザインして組み合わせている」(レイデンリー氏)
もちろん単純に高性能なパーツを集めて組み合わせるのではなく、それらが最も効率よく動くよう設計しているとレイデンリー氏。Qualcommは、性能の高さだけでなく、性能と消費電力の「バランス」を重要視している。
Snapdragonに統合されるCPUやGPU、3GやLTEに対応するモデム、Atheros Communicationsを買収して取得したWi-FiやBluetooth、FMといった無線技術、GPSなどの位置情報取得技術は、すべてQualcommが自社で所有するのも、優れたユーザー体験を実現するためだ。これにより、例えば3GとWi-Fiの切り替えをユーザーに意識させないよう、シームレスに行うといったことが容易にできるようになる。チップだけでなく,それをサポートするソフトウェアも合わせて提供するのもポイントだ。
Qualcommでは、こうしたユーザー体験こそがスマートフォン選びに置いて非常に大切な要素であることを、広く一般のユーザーにも啓発していきたい考えで、米国などでは「Snapdragonが入っているスマートフォンを選ぼう」と呼びかけるテレビCMも流している。
他社製品と比較したとき、Snapdragonが特に優れているのは、CPUで「最も高い性能を、最も低い消費電力(Highest Performance at the Lowest Power)」を実現していることだ。
特にCPUでは、既存のARMコアのライセンスを受けてそのまま組み込むのではなく、自社でARM互換のコアを最初からデザインしているため、他社製品に比べて非常に電力効率が高いという。Snapdragon S4 Plus「MSM8960」などに採用されている「Kraitコア」で、モバイル向けのマルチコアプロセッサーで初めて非対称型マルチプロセッシング(aSMP)を可能にしたのも、自社でコアからCPUを開発しているからだ。これにより、最新の競合製品と比べても約半分の電力消費で同等の性能、もしくは同じ消費電力で1.5倍の性能を発揮できる。
これは、バッテリーを利用して動作するスマートデバイスにとっては非常に重要な要素と言える。性能が高くても、バッテリーが持たないのではユーザーは満足しない。限られたバッテリー容量のなかで、ユーザーに快適さを提供するため、できることはすべてやる――。そんなQualcommの思想がSnapdragonには込められている。
Snapdragonのグラフィックス処理をつかさどるGPU「Adreno 320」も、非常に効率が高い。従来の「Adreno 225」と比べて約3倍高性能だが、消費電力はそこまで増えない。デュアルコアプロセッサー「MSM8960」とクアッドコアプロセッサー「APQ8064」でミリワットあたりの性能を比較すると、MSM8960はAPQ8064よりも1.75倍ほど効率が高いという。競合するクアッドコアプロセッサーとの比較では、デュアルコアのMSM8960が2倍、クアッドコアのAPQ8064は3.5倍も効率がいいとのデータを示した。
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