圏外でもメッセージを送受信 P2Pを利用したチャットアプリ「FireChat」

» 2016年11月10日 06時00分 公開
[中井千尋ITmedia]

 「インターネットに接続していなくてもメッセージが送れる」と言われたら、あなたはどう反応するだろう。たいていの人は「そんなことできるはずがない」と思うはずだ。

 米サンフランシスコ拠点のITベンチャーが、圏外でもメッセージを送受信できるチャットアプリ「FireChat」を開発した。山の深く奥や飛行機で、空の上にいたとしてもやりとりできる。その仕組みとは――。

Open Gardenが開発したアプリ「FireChat」

 FireChatは、iOS/Androidで使える無料のアプリ。インターネット接続がなくても、インストールしているデバイスならメッセージを送受信できる。

 そのからくりは、「メッシュネットワーク」。「Peer to Peer (P2P)」の接続技術を基本とし、デバイスに搭載されるBluetoothやWi-Fiの機能を介してデータを送受信する技術だ。

 開発元のITベンチャー、Open Gardenはこの技術をモバイルアプリ開発に応用するためのソフトウェア開発キット「MeshKit SDK」とFireChatアプリを制作した。

FireChatは従来の方法とは異なり、デバイス同士をP2Pでつなぐ(FireChatのWebサイトより引用)

 チャットを行うには、メッセージの送受信者がアプリをインストールし、BluetoothとWi-Fiの設定をONにしておく必要がある。

 送信者と受信者のデバイスが200フィート(約60メートル)圏内にある場合、2台が自動で接続され、チャット可能となる。P2Pのオーソドックスな接続方法である。

 200フィート圏内に送信者と受信者のほかにもデバイスが存在する場合は、P2Pよりも大きな枠組みである「メッシュネットワーク」を構築し、送受信を行う。

 メッシュネットワーク圏内では、BluetoothとWi-FiをONにしたデバイス同士でメッセージを「バトン」を渡すようにパスし、最終的に受信者の元に届ける。

 FireChatで送信できるメッセージは、パブリックメッセージとプライベートメッセージの2種類。プライベートメッセージは暗号化されて送信されるため、指定された受信者しか閲覧できない。

FireChatのチャット画面
パブリックメッセージの一覧

 送信者と受信者が200フィート「圏外」の場合は、FireChatをインストールしている第三者のネット接続やモバイルデータ通信を利用してメッセージを届ける。

 送信者と同じメッシュネットワーク圏内にいる人が、メッセージのバトンを持って異なるネットワークに移動し、他の誰かにそのバトンを渡す。それを繰り返すことで、最終的に受信者の元にまでメッセージを到達させる。

送信されたメッセージを「バトン」のように渡していく

 メッシュネットワーク圏内に、ネット接続、あるいはモバイルデータ通信の契約をしているデバイスがある場合は、その接続を使って一気にメッセージを飛ばすことも可能だ。

 例えば、飛行機の機内で高い利用料を払ってネットに接続しなくても、FireChatに参加している誰かの接続を利用して地上にメッセージを送ることができるのだ。

 気になるのは、メッセージの送受信スピード。FireChatの開発者によると、都市の5%の人がアプリをインストールしていれば、メッセージの送受信は10分以内に完了するという。

 FireChatはもともと、イベント会場などネットやモバイルデータ通信を利用する人で溢れ返る場所でのスムーズな通信手段として開発された。2014年に香港で起こった学生デモや、その翌年にマレーシアで起こった反汚職デモ「Bersih」などで多く使われた。

 自然災害の発生時も、通信インフラが不安定になるためFireChatの出番となる。Open Gardenは、災害発生時にオフライン状態であってもメディアが情報を発信できるようにするためのソフトウェア「FireChat Alerts」も提供している。

 メッシュネットワークの技術やMeshKit SDKが浸透すれば、「オフライン」の分野で次々と新しいビジネスが生まれていくはずだ。今後の動向に注目したい。

ライター

執筆:中井千尋

編集:岡徳之


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