KDDIとNetflixが提携し、25GBのデータ容量と「Netflix(ベーシックプラン)」「ビデオパス」をセットにした月額7500円(税別、各種割引を含めれば最安で月額5500円)の「auフラットプラン25 Netflixパック」を、2018年夏以降に提供する。Netflixは国内ではソフトバンクとも提携しているが、専用プランを手掛けているのはauのみ。au夏の目玉は、この“Netflix専用プラン”といえる。
KDDIはなぜ、Netflixとの協業を決めたのか。KDDIの高橋誠社長は、同社のキーメッセージに「ワクワクを提案し続ける会社」を掲げており、Netflixとの協業も、このワクワクを提案できる施策の1つという位置付けだ。同社は、ワクワクの先に、2020年に商用サービス開始を予定している次世代通信規格「5G」を見据えている。高橋氏は「次世代ネットワークを予感させるワクワクをご提案したい」と話す。
5Gは「大容量」「低遅延」「多接続」という特徴を持つが、単に通信スペックが進化するだけではなく、これらを生かしたサービスを提供することが大切。「どういう体験価値を感じてもらえるかを4Gの時代から提案して、これだというものを5Gでキラー(コンテンツ)にしていく」と高橋氏は意気込む。
高橋氏は5月29日の発表会で、3つの「ワクワク」を提案した。その1つが「ハマる体験」で、先述したNetflixの協業を指す。「この夏、エンタメにハマる体験を提供したい」と同氏。Netflixのような動画ストリーミングサービスは、大容量、低遅延になるほど品質は向上するので、5Gを見据えて強化するサービスに適していると判断したというわけだ。
「Netflixは7年前に初めて本社に行って以来、ずっとアプローチしていた」(高橋氏)そうで、念願の提携となった。単にNetflixのサービスを販売するだけでなく、専用プランにすることで「通信とエンタメの融合を実現した最初の体験価値を提供できる」と同氏は胸を張る。
ICT総研の調べでは、有料動画サービスの利用者は右肩上がりで増加しており、2020年末には利用者は2010万人に達すると見込まれている。ただ、KDDI調べだと有料動画サービスを利用している人は2018年3月時点で15%にすぎない。利用していない理由として「見たいコンテンツがない」「料金が高い」「時間がない」が多く挙がった。そこで、Netflixをお得に楽しめる大容量プランを作った。日本ならではのコンテンツが多いビデオパスも含めることで、コンテンツの量もカバーしていく。
Netflixは現在、世界190カ国以上で利用されている。会員数は1億2500万人に上り、会員数の50%以上が米国以外のユーザーだという。Netflixプロダクト最高責任者のグレッグ・ピーターズ氏は「日本のストーリーテラーと組んで、高いクオリティーの作品を世界中にお届けしている。2018年末までに1000タイトルのオリジナル作品を作る」と意気込みを語った。モバイル向けの独自コンテンツの配信は現時点では予定していないが、「時間のない人でも楽しめるよう、短編や既存コンテンツを編集したものの配信は検討している」とのこと。
Netflix専用プランのデータ容量は、当初は25GBのみだが、「他社や海外では30GB、50GB、無制限のプランもあるので、それ以外のプランも必要なら考えていきたい。(au)ひかりなど、固定系とのバンドルも考えられる」(高橋氏)とのこと。なお、動画コンテンツの通信量をカウントしない「カウントフリー」については、「現時点では考えてない」(同氏)とのこと。ネットワーク中立性の問題もあり、KDDIとしては慎重に考えているようだ。
ビデオパスが伸び悩んでいるからNetflix提携したのでは? との質問に対しては「ビデオパスのユーザー数は非公表だが、100万以上はいる。伸び悩みが提携の原因というわけではない。グローバルプレーヤーの規模感はすさまじい。ビデオパス(のようなローカルサービス)だけでは追い付けないのは、どこの会社も同じ。こういうOTTプレーヤーといかに組んでいくかがポイント」(高橋氏)と答え、外部パートナーとの連携でコンテンツを拡充していく考えを示した。
KDDIが2つ目のワクワクとして提案するのが「距離を超える体験」で、テレイグジスタンス(遠隔存在)と呼ばれる技術を活用する。KDDIが出資しているTelexistenceの遠隔操作ロボットの量産型プロトタイプ「MODEL H」を活用した体験イベントを2018年夏に実施する。Telexistenceの富岡仁CEOは「ロボットと人間をインターネットで結び付け、ロボットを遠隔で分身のように操作できるテレイグジスタンスで、人の移動の在り方や活動の仕方、企業のデジタルトランスフォーメーションのアプローチの仕方を根底から変えたい」と話す。
テレイグジスタンスの最初のテーマに掲げるのが「次世代の旅行体験」で、イベントでは小笠原諸島での旅行を遠隔地で体験できる。まずは小笠原諸島にロボット数体を配置し、auのネットワークに、ロボットと操作用端末を接続させる。遠隔地でヘッドマウントディスプレイ(HMD)やグローブを装着したユーザーの動きに合わせてロボットが動き、ロボットが見た映像がHMDにリアルタイムで表示される。LTEなので多少の遅延はあるが、あたかも現地を歩いているような感覚を味わえる。
なぜ小笠原諸島を選んだのか? 東京から小笠原諸島までは約1000kmあり、片道24時間も掛かる。移動手段は竹芝から出ているフェリーのみで、そのフェリーは週に1回しか運航していない。このように「極めて時間と距離のコストが高い」ことから、「auと一緒に、この現状を変えていきたい」と富岡氏。テレイグジスタンスも5Gにつながる技術で、より低遅延な5Gの方が、精度の高い体験ができるだろう。
なお、小笠原諸島での旅行体験イベントの実施場所や料金などは未定。多くのユーザーが気軽に体験できる場が提供されることに期待したい。
3つ目のワクワク感は、「次世代をつくろう」と題し、スタートアップ企業との新事業創出を目指すプラットフォーム「KDDI ∞ Labo」に、「次世代プログラム」を2018年8月に開設する。パートナー企業と提携し、ロボティクス、XR、IoT、ビッグデータ、AI、ブロックチェーン、ドローンなどのテーマで、5Gを活用した新たなサービスやプロダクトの創出を目指す。「技術のテクニカルワードにだまされず、何をお届けするか。“次世代”を皆さまと作っていきたい」と高橋氏は意気込んだ。
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