その後はMVNOと、その関連団体に対するヒアリングが実施された。テレコムサービス協会 MVNO委員会 委員長の島上純一氏は、MVNOの事業活性化に向けて2014年に掲げた「MVNOの事業環境の整備に関する政策提言」で指摘した問題点の多くが解決、MVNOの契約が1918万に達し、移動通信市場でのシェアも11%に向上するなど事業環境は大きく向上したが、一方でMNPの利用がピーク時と比べ26%低下するなど、流動性の低下が見られるようになったという。
会合に参加したMVNOの意見を聞くに、MVNO側が要求している要素は大きく3つあるようだ。1つ目は、MVNOがキャリアから回線を借りる際に支払う接続料の算定に関してで、特にモバイルでは2年前の実績から算定する「実績原価方式」が採用されていることを問題視する向きが強い。
ケイ・オプティコムの代表取締役 常務執行役員の久保忠敏氏によると、固定通信の分野、例えばNTT東西の加入光ファイバー接続料は、2014年度の実績を基に4年先までの接続料を予想する「将来原価方式」が採用されており、将来の接続料の予測が立てやすいという。だが実績原価方式を採用するモバイルの場合、料金の確定が2年後となるため後から多額の精算が発生する可能性があり、「将来の見通しを立てた思い切った戦略が立てられない」と、その問題点を指摘する。
日本通信の福田尚久社長はさらに、過去キャリアに実施した情報開示請求によって、キャリア側は将来原価を基に、法人向けに原価割れの料金を提示していたことがあるなど、キャリアとMVNOの間には情報格差があると指摘。「(MVNOは)キャリアが原価として見ている状況と、3年半の開きがある。このギャップを埋めないと攻勢も何もできない」と話、将来原価方式の採用を訴えている。
2つ目はキャリアから音声通話のネットワークを借りる際の「音声卸条件」の見直しだ。楽天の執行役員 楽天モバイル事業 事業長の大尾嘉宏人氏によると、音声卸の料金は接続料と異なり、2011年12月以降見直しがなされておらず、算定根拠が明確でないのに加え、MVNOの通話料が高止まりする要因になっているという。
そうしたことから多くのMVNOは、通話料を安くしたり、定額通話を実現したりするためIP電話や中継電話サービスなどを利用しているが、前者は緊急通報ができない、後者は専用のプレフィックス番号を付けずに利用して高額料金が請求されるケースがある。そうしたサービスを利用することなく、キャリアやそのサブブランドと同等の通話サービスが実現できるよう、「音声卸の料金をコストベースに改めて欲しい」と大尾嘉氏は訴えた。
3つ目は書き換え可能なSIM「eSIM」や、「NB-IoT」などの携帯電話網を利用したIoT向けの無線通信方式(セルラーLPWA)、そして次世代通信の「5G」など、新しい技術をMVNOが利用しやすくするための枠組み作りだ。インターネットイニシアティブ(IIJ) MVNO事業部長の矢吹重雄氏によると、キャリアのセルラーLPWAに対する開放状況はまだ限定的である他、eSIMに関しても、遠隔でeSIMを書き換えるためのプラットフォームをキャリアが開放しておらず、フルMVNOではない同社以外ではeSIMの利用ができない状況だという。
5Gに関しては、ネットワークをソフトウェア的に仮想化した「スライスエッジコンピューティング」が導入されることから、4Gまでの時代とは大きく環境が変わるとのこと。そうした仮想化されたネットワークの中でMVNOが競争力を獲得できる仕組みを検討する必要が出てきていると、矢吹氏は将来のMVNOの競争環境構築に向けた議論の必要性を訴えている。
なおこの会合では、今後もキャリアや販売代理店などへのヒアリングを実施し、その後議論を重ねた上で、2019年2月に中間報告案をまとめるとしている。
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