店舗を変えるモバイル決済

なぜオンラインだけでなくリアル店舗も? 「Amazon Pay」コード決済導入の狙いモバイル決済の裏側を聞く(2/3 ページ)

» 2018年11月13日 15時57分 公開

中小小売店が「Amazon Pay」に期待するもの

 ローンチから3年、それまでのAmazon Payがオンラインを軸としていたのに対し、決済手段としてQRコード方式を採用することでリアル店舗での活用にかじを切ったというのが発表の趣旨といえる。

 「従来のAmazonの仕組みではカバーしきれない範囲への拡張」という流れでいえば、リアル店舗版Amazon Payもその方針は変わっていない。ただ大きな違いといえるのが、加盟店開拓にあたってAmazon自身の力ではなく、NIPPON PAYと提携している点だ。NIPPON PAYではリアル店舗向けの決済代行(アクワイアリング)サービスを提供しており、リアル店舗向けAmazon Payは現状でこのNIPPON PAYを通じてのみ利用できる。

Amazon Pay Amazon Payを解説する井野川氏とNIPPON PAYの高木純社長

 NIPPON PAYでは子会社に「NIPPON Tablet」を抱えており、ここで小売店向けの決済用タブレットを提供している。NIPPON Tabletの導入により、小売店は各種クレジットカード、電子マネー、QRコード決済の利用が可能になり、Amazon Payもこのメニューの一つに含まれる。

 特にQRコード決済はAlipayとWeChat Payの両方に対応しており、中国からのインバウンド客を迎えるのに適したものとなっている。クレジットカード導入と合わせ、特にインバウンド需要を当て込む事業者にとってのメリットは大きい。

 Amazon Payのリアル店舗向け提供の発表会は、福岡市内にある博多廊という九州料理店で行われた。同店舗ではNIPPON Tabletを通じて初めて電子マネーやQRコード決済導入に踏み切ったそうで、インバウンド需要に寄せる期待が大きいという。

 福岡という地域は場所柄、中国や韓国からの旅行客が非常に多く、こうした需要を取り込むのに中国系のQRコード決済やクレジットカードはなくてはならない。Amazon Pay導入は副次的なものだと同店舗も認めているが、これについてはAmazon自身も「Amazonブランドを宣伝代わりに使ってもらえれば」というスタンスのようで、むしろ歓迎の意向を示している。

Amazon Pay NIPPON PAY子会社のNIPPON Tabletを通じてAmazon Payを含む複数の決済サービスが利用可能になる

 実際のところ、これは現在のNIPPON PAYの加盟店開拓の戦略にマッチしている。日本はPOS天国といわれるほど店舗向けPOSが非常に発達した国だが、これはあくまで比較的大きなチェーン店などに限られる。

 次に出てくるのがモバイルPOSレジで、これは近年「Square」やリクルートの「Airレジ」によって開拓されてきた市場だ。中小の小売店舗でも「POSを導入したい」というニーズに応えたもので、大規模なPOSレジ市場に比べれば大きいが、やはり小売店舗全体からみれば全てをカバーするものではない。実際には従来ながらのPOS化されていないレジ利用に頼る小売店は多く、この市場開拓を狙っているのがNIPPON PAYと、その傘下でタブレット端末の無料レンタル事業を手掛けるNIPPON Tabletということになる。

Amazon Pay NIPPON Tabletのタブレット端末提供計画
Amazon Pay Amazon PayがNIPPON PAYを通じて狙う国内市場

 オンラインコマースでは特に顕著だが、小中規模のコマースサイトにクレジットカード情報や個人情報を預けることに不安を覚える利用者は多く、より信頼できる大手サイトを利用する傾向が強いことが知られている。

 そこで登場したのが、PayPalのような決済代行を専業とするサービス事業者の他、Yahoo!、楽天、そして今回のAmazonのような大手コマース事業者が提供する決済代行サービスで、「この決済代行サービスを利用すれば、中小コマースサイトでも安心して買い物ができますよ」という一種の箔(はく)付けのようなことを行っている。

 同様に、リアルな世界での小売店舗も少なからず似たような問題を抱えており、大手事業者と組むことで、お客に「このブランドロゴがある店舗なら安心して買い物ができる」と感じてもらえるメリットが生まれる。加盟店審査が非常に厳しいことで知られるカードブランドのJCBだが、それは同時に買い物の安全性をある程度担保するものでもあり、このブランド戦略を裏付ける。

Amazon Pay 博多廊店舗のNIPPON Tablet端末とAmazon Pay利用可能を示すアクセプタンス

 リアル店舗でのAmazon Payの反響はどれほどあったのか。井野川氏は以下のように話す。

 「8月末にサービス開始を発表してから、非常に多くのお問い合わせをいただいています。数字的なものは公表できないのですが、(9月時点で)数百というレベルでやりたいというお声をいただきました。審査後に順次、店舗の方々に使っていただけるようになります。今の時点では実際にどのお店で利用可能かどうかのリストはないのですが、しかるべきタイミングで公開していければと思います」

 広告やアフィリエイトプログラム、検索を使った誘導など、オンライン内部ではさまざまな店舗や商品への誘導ルートを持つAmazonだが、リアル店舗のプロモーションにつながる導線はまだ確保できていない状態だ。今後サイトを改良することで、実際に加盟店となった中小小売店への誘導に活用するとのことで、この点もAmazonブランドを選んだメリットとなるだろう。

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