現在市場では数多くのMVNO(格安SIM)がしのぎを削っています。格安スマホは日本の携帯電話市場の中でどの程度のシェアを持っているのか、また、格安スマホの中でどの事業者のシェアが大きいのかは、皆さんの関心が高い事柄かと思います。
日本では幾つかの調査会社が定期的にMVNOの市場調査を行っており、その結果はITmedia Mobileでもたびたび記事になっています。これらの調査の中で有名なのは、MM総研が発表する「国内MVNO市場規模の推移」とMMD研究所が発表する「格安SIMサービスの利用動向調査」でしょう。どちらも格安スマホ・MVNOの市場規模や事業者ごとのシェアのランキングを扱っており、半年に1回発表されています。
MM総研が発表している「国内MVNO市場規模の推移」は、MM総研が事業者や販売店に取材した情報を元に推計した数値を表したものです。筆者の所属するIIJもMM総研からの取材を受けており、毎回情報を提供しています。
この調査の特徴は、事業者ごとのシェアの数値について「当該事業者と直接契約している回線数に限る(MVNEとして他社に提供している回線は含めない)」また、「プリペイド契約は含めない」という条件を付けていることです。通信サービスの用途は特に制限されていませんので、スマホ向けだけでなくIoT向けのSIMカードも数に含まれています。また、この調査の対象事業者にはUQ mobileは含んでいますが、Y!mobileは含まれていません。
これに対してMMD研究所が発表している「格安SIMサービスの利用動向調査」は、スマホ利用者を対象にしたアンケート調査の結果です。例えば、2018年9月18日発表の調査の場合、インターネット上のアンケートサイトを使い、4万4323人から集めたアンケートデータを集計しています。
こちらの調査の特徴は、利用者が認識している利用事業者をブランド名ごとに集計していることです。例えば、ビックカメラ店頭で販売されている「BIC SIM」は実際にはIIJmioの契約なのですが、集計上は「BIC SIM」と「IIJmio」とに分かれて計上されています。同様に、旧FREETELの契約は現在楽天モバイルに統合されていますが、集計上は「FREETEL」と「楽天モバイル」が別になっています。また、アンケート回答者は格安スマホ利用者だけに限定していないため、ドコモ、au、ソフトバンクに加え、Y!mobileも集計対象に含まれています。
このように、同じシェア調査といってもそれぞれ異なる方法で調査が行われています。そのため、事業者のランキングを含めた結果についても調査によって違いが出てくるという点に留意する必要があります。
こうした民間の調査とは別に、総務省もMVNOを含めた携帯電話事業者のシェアに関する報告書を定期的に公表しています。
総務省がとりまとめている「電気通信サービスの契約数及びシェアに関する四半期データの公表」は、各電気通信事業者が総務省に報告する契約数(回線数)データを元にしたものです。公的な報告に基づくものなので、信頼性の高いデータだといえます。
この報告書は移動系通信として携帯電話・PHS・BWA、固定系通信としてブロードバンドインターネット接続などのデータ系通信と、アナログ電話やIP電話の音声系通信を含んだ総合的な報告書となっています。この中で、携帯電話・スマートフォンに関係する部分を詳しく見てみましょう。なお、今回取り上げる数値は、2018年12月21日に公表された「平成30年度第2四半期(9月末)」のデータです。
総務省の資料の中では、1-(2)の項目にMVNOに関する情報がまとめられています。これによると、日本のMVNOの契約数は1998万件であり、四半期で4.3%の増加率、2018年度中には2000万件に届く勢いだとされています。
報道などではこの数値が「格安スマホ」の市場規模だとして取り上げられることがありますが、実はそうではありません。この1998万契約についてもう少し詳しく見てみましょう。
まず前提として把握する必要があるのは、この数字があくまで「MVNO」のものであるということです。MM総研の調査と同様、ここにはUQ mobileとY!mobileの契約数は含まれていません。では、この数字がMVNOの提供するスマホ向けサービスの契約件数かというと、それも正しくはありません。次に書かれている「MVNOサービスの区分別契約数」を見る必要があります。
上に引用したグラフの通り、MVNOサービスの区分として、「単純再販」「通信モジュール」「SIMカード型」「その他」が提示されています。これらは一体どのようなサービスなのでしょうか。
最初に「単純再販」について。現在でこそ日本のMVNOの主要サービスはスマートフォン向けの低価格な通信サービスとなっていますが、2012年頃に個人向けにSIMカードのみを低価格で提供するサービスが始まるまでは、全く別のサービス形態が主流でした。
2010年前後にイー・モバイル(当時)や、UQコミュニケーションズが提供するノートPC向けのデータ通信サービスが盛んだったことを覚えていらっしゃるかもしれませんが、当時はこれらのサービスをほぼそのまま、ブランドだけを変更して販売する事業者がありました。実は、これらの事業者の多くはMVNOとして営業していたのです。現在このタイプの販売は縮小していますが、従来の継続利用者が残っており、統計資料にもこうした契約数が含まれています。
次に通信モジュールについて。これはカーナビや計測器など特定機器とセットで提供される通信サービスを指します。この利用形態は今でいう「IoT」に近いものといえます。ただ、IoT用として利用されている通信サービスが全て通信モジュールに分類されているわけではありません。むしろ現在はIoT用通信サービスの多くは次のSIMカード型として分類されています。
そのSIMカード型ですが、もともとの分類は利用機器を特に指定せずにSIMカード単体として提供される通信サービスを指しているものでした。初期の個人向けMVNOはスマートフォン本体の販売がなく、SIMカードのみを提供したいたため、こちらに分類されています。現在の個人向けMVNOの多くはSIMカードと同時にスマートフォン本体も販売していますが、分類上は引き続きSIMカード型のままとなっています。また、先に書いた通り、IoT用として提供されている通信サービスの多くもSIMカード型の分類です。
つまり、皆さんが注目しているMVNOが提供するスマホ向けのサービスは、SIMカード型の中のさらに一部分であるということになります。現在はまだIoT向けの利用がそれほど多くないため、SIMカード型の契約件数とスマホ向けサービスの契約件数に大きな差はないと考えられますが、今後IoT利用が増えるにつれ、両者の差が大きくなってくると思われるため、注意が必要です。
SIMカード型サービスについては、事業者別のシェアが公表されています。ここでは、総務省に報告があった事業者の中から、資料公表タイミングで上位5位までの事業者名と契約数の比率が挙げられています。ここでの契約数は「当該事業者と直接契約している回線数に限る(MVNEとして他社に提供している回線は含めない)」こととなっています。冒頭で紹介したMM総研の調査と比較するとシェアの割合が少し違っていますが、傾向はおおむね一致しているように思われます。
続けて掲載されている「MVNOサービスの事業者数の推移」についても見てみましょう。このグラフではMVNOサービスの区分を明示していませんので、単純再販・通信モジュール・SIMカード型・その他全ての区分を含んでいます。
このグラフによると、日本のMVNOは実に962社あり、こちらも急成長していることがうかがえます。ただ、962社の中で「契約数が3万以上」なのは64社のみで、多くの会社は契約数が3万未満です。事業者の中には契約数が数百件というところもあり、事業者自体がかなりロングテール化していることが分かります。
また、この項では、「一次MVNO」と「二次以降のMVNO」という分類も示されています。総務省の分類では、「MNO(キャリア)と直接契約して回線の提供を受けているMVNO」を一次MVNOとし、キャリアと契約せず、他のMVNO(MVNE)から回線の提供を受けているMVNOを「二次以降のMVNO」としています。
ここで1つ指摘しておきたいのは、総務省が把握しているのは電気通信事業者として総務省に届け出・登録をしている事業者のみであることです。店頭などで独自のブランドを掲げて通信サービスを販売している事業者の中には、契約の取り次ぎのみを行っている事業者もあります。このような事業者は電気通信事業者としての届け出・登録をしていませんので、MVNOの事業者数にはカウントされません。
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