Hisenseが世界初のカラー電子ペーパー搭載スマホを発表 なぜ今なのか?山根康宏の中国携帯最新事情(1/2 ページ)

» 2020年05月15日 12時00分 公開
[山根康宏ITmedia]

 家電メーカーとしてグローバルにも製品を展開している中国のHisense(ハイセンス)は、スマートフォンも販売している。しかしあくまでも本業はテレビや家電製品であり、スマートフォンは同社の主力製品ではない。ところがこの4月になり特徴的なスマートフォンとタブレットを複数発表したのだ。同社のモバイル製品の特徴はディスプレイ。他社が採用しない新しい素材を搭載している。

世界初のカラー電子ペーパー搭載スマホを発表

 2020年4月23日にHisenseはスマートフォン「A5」シリーズの上位モデルを発表した。A5は2019年10月に発表されたモノクロ電子ペーパー(E Ink)ディスプレイを搭載するスマートフォンで、ブックリーダー用途を意識した製品だ。その上位モデルとして今回発表されたのが「A5 Pro 経典版」「A5 Pro CC」「A5C」の3モデルだ。

Hisense Hisenseから登場した世界初のカラー電子ペーパースマホ

 このうちA5Cは、A5のディスプレイをカラー電子ペーパーに変更したモデル。A5 Pro CCはA5CのプロセッサをSnapdragon 439からUNISOC(紫光展鋭) T610に変更したモデルで、中国産のプロセッサを採用している。もう1機種の「A5 Pro 経典版」はA5 Pro CCのカラー電子ペーパーをモノクロ電子ペーパーとしたモデルだ。これでHisenseの電子ペーパー搭載スマートフォンはモノクロ2機種、カラー2機種の合計4モデルとなった。

 電子ペーパーを採用したスマートフォンはHisenseを含め、これまで過去に幾つかの製品が登場した。しかしそのほとんどが液晶や有機ELのカラーディスプレイを搭載し、裏面を電子ペーパーとした両画面端末だ。今回のように“電子ペーパーだけ”を採用したスマートフォンは過去に1機種しかなく、カラー電子ペーパーを採用した製品はHisenseが世界初となる。

 カラー電子ペーパーは、ディスプレイの表面にカラーフィルターを配置し、外光からの反射光に色を付けて表示する。そのため高速で動く動画コンテンツの表示には向いておらず、写真のように細かい色調を表示することも不得意だ。しかしカラーイラストを表示するのなら十分実用的だ。しかもディスプレイそのものが発光しないため目が疲れにくいという特徴がある。なおA5C、A5 Pro CCのカラー画面のサイズは5.84型で、4096色の表示が可能だ。

Hisense 4096色ならイラストの表示も十分できる

約1万8000円〜3万円の安さも特徴

 カラー電子ペーパーのスマートフォンの試作モデルは2020年1月に開催されたCES 2020で既に展示されており、後はいつ製品化されるかを待つだけだった。Hisenseは今回、プロセッサを変え2つのモデルを投入するほど気合を入れている。筆者はCESの会場で試作モデルを実際に触ってみたが、カメラのプレビューですら表示は見やすいものではなかった。映像・写真関係の利用には適していないのだ。それでも製品化したということは、市場性があるとみているのだろう。

 各モデルにはテンセントの電子書籍アプリなどがプリインストールされているため、買ったその日から電子ブックリーダーとして書籍やコミックを読むことができる。その用途なら4096色のカラー表示でも十分だろう。またネットのニュースを読んだり情報検索をしたりする程度なら、写真が多少見にくくても許容できるだろう。むしろ目が疲れにくく、また一般的なカラーディスプレイより消費電力も少ないため駆動時間を延ばすことができる。

 気になる価格は最高スペックとなるA5 Pro CCのメモリ6GB+128GB版でも1999元(約3万円)、普及モデルであるA5Cは1699元(約2万6000円)と、十分競争力がある。モノクロモデルのA5は1199元(約1万8000円)からと、これまた安い。他社にはない電子ペーパーディスプレイのスマートフォンを多数そろえ、電子ブックリーダーでありながらも通話や検索、またSNSアプリも利用できるとなれば、中国の消費者からも一定の支持を受けるだろう。

Hisense A5 ProシリーズはUNISOCのプロセッサを採用する

カラーかモノクロかに絞ったことで成功

 Hisenseの電子ペーパー搭載スマートフォンは2017年1月に発表した「A2」が最初で、片面が5.5型有機EL、もう片面が5.2型のモノクロ電子ペーパーを搭載していた。カラー画面ではスマートフォンとして使い、モノクロ画面はブックリーダーという使い分けを提唱したのだ。

 しかしこのカラー+モノクロの2画面スマートフォンは2013年にロシアから出てきた「YotaPhone」以来、複数のメーカーが手掛けてきたが、商業的な成功例は1つもなかった。HisenseはYotaPhoneの後継モデルが市場からフェードアウトしていく時期に入れ替わるように登場し、2018年以降も精力的に新製品を投入してきた。だがYotaPhone同様に市場での反応はいまひとつだ。

Hisense Hisenseの「A6L」はカラー+モノクロの2画面スマホだが、売れ行きはいまひとつ

 そもそもカラー画面とモノクロ画面を切り替える、という使い方を求めるニーズは市場にほとんどないと考えられる。だからといってモノクロ画面だけのスマートフォンを消費者が購入するとは誰もが思わなかっただろう。ところがHisenseがモノクロ電子ペーパーだけを搭載したA5をリリースすると、価格が安いこともあって初期販売分は一瞬で完売してしまった。つまり中途半端に両面のモデルを出しても受け入れられず、割り切ってターゲットを絞った製品を出したことで成功を収めたのだ。

 そしてこのA5が売れたことで、カラー電子ペーパーを搭載したスマートフォンの商用化にも自信をつけたのだろう。

 ところでHisenseはこれらA5シリーズと合わせ、タブレットの新製品「Q5」も発表している。このQ5もディスプレイはモノクロで、バックライトを必要としない反射型液晶を採用している。表示技術は異なるものの、電子ペーパー同様に外光の反射でディスプレイを表示させるのだ。タブレット市場でもHisenseは全くの無名だが、ここでも他社が採用しないディスプレイを搭載することで差別化を図ろうとしている。

Hisense タブレットもモノクロディスプレイ。反射型液晶を採用したQ5
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