総務省は5月17日、電気通信市場検証会議の傘下で、携帯電話市場における競争ルールのあり方を議論する「競争ルールの検証に関するワーキンググループ(WG)」の第18回会合を開催した。今回の会合では、大きく「MVNO」「端末メーカーなど」からのヒアリングと、それを踏まえた構成員から質疑が行われた。
端末メーカーなどからのヒアリングでは、CIAJ(情報通信ネットワーク産業協会)、Apple Japan、クアルコムジャパンと、リユースモバイル・ジャパンの4者が意見を述べた。この記事では、総務省による状況説明と、CIAJとApple Japanの主張をまとめる。
今回の会合で、総務省は大手キャリア(MNO)を含む指定事業者から「電気通信事業報告規則」に基づいて報告のあった「端末売上台数」と「端末売上高」の2019年4月から2020年12月までの推移を公表した。ただし、法改正前はMNO3社(※1)以外の事業者には報告要請をしていなかったため、2019年9月までの数値はMNO3社だけの数値となる。
(※1)NTTドコモ、KDDI/沖縄セルラー電話、ソフトバンク(Y!mobileブランドを含む)。KDDI/沖縄セルラー電話の法改正後(2020年10月以降)の報告分はUQ mobileブランドを含む
推移のグラフを見てみると、2019年10月に施行された電気通信事業法の改正の前後において、端末の販売台数と売上げ高には大きな変動はないように見える。
ただ、新型コロナウイルスに伴う「緊急事態宣言」の影響もあってか、2020年4〜5月は販売台数と売上高が大きく落ち込んでいる。その後、2020年6月からは販売台数は回復基調となり、2020年9月を除いて前年同月比で横ばいか増加している。しかし、売上高は前年を下回る月が多くなっている。
MNO3社からの報告については具体的な数値も提示されたが、会議の構成員に限り開示されており、公開資料では閲覧できない。ただ、公開範囲を見ただけでも、端末の販売は比較的好調だが、安価な端末が売れ筋となった影響で売上高に悪影響が出ているという状況を伺い知ることはできる。
台数は増えたが売上は減る――その傾向は、携帯電話端末の出荷状況からも見えてくる。
CIAJによると、国内端末メーカーでは新型コロナウイルスの影響で物流や生産ラインが停滞した影響で、2020年2〜3月は端末の出荷が少なくなったという。その「挽回分」として4〜5月の出荷台数は2019年比で上振れしたものの、緊急事態宣言の影響で端末が売れないことから6〜8月の出荷台数は落ち込んでしまったようだ。ミドルレンジの5Gスマホが拡充したことと、3Gの「巻き取り」に伴う4G(LTE)スマホの需要が高まったこともあり、10月以降は出荷台数が増加し、2021年1〜3月は2018年の同月並みの出荷水準となったという。
海外メーカーについては、2020年4月にリリースされた「iPhone SE(第2世代)」の売れ行きが好調だったことなどから、全体的には例年よりも推定出荷台数は好調との見立てを示している。
ただ、国内外を問わず、端末の出荷が低〜中価格帯機種が中心となっているという。≪改正法は出荷台数には大きな影響を与えていないが、メーカーの売上高の面でマイナスの影響を与えている状況にある。
今回のヒアリングでは、CIAJに幾つかの事前質問が寄せられている。その中で「端末販売に関する課題」として、CIAJは大きく3つを挙げている。
改正電気通信事業法では、MNO(楽天モバイルを含む)や100万件超の契約を持つMVNOに対して、端末代金の割り引き(利益提供)を税別2万円までに制限した。その影響で、「頭金」の設定も含めて、端末代金が割高に見える場合があるという課題がある。
また、「通信料金」と「端末代金の分離」を強く意識した改正法に政府の政策も相まって、通信料金“は”安価なものが出てくるようになった。しかし、MNOが相次いで発表した格安プランはオンライン専用で、店頭購入の多いシニア層はメリットを受けづらいという問題点がある。
そこでCIAJは総務省に対して、公正かつ公平な競争環境を維持しつつ、「ユーザが満足感を得られる端末販売促進の努力をすることで、端末メーカや販売店も持続的に発展できるような政策」の実現を求めている。
5G端末は、最近でこそミドルレンジモデルも登場しているが、それでもLTE端末と比べると販売価格は高い。現時点において、全てのユーザーが5Gを必要とするわけではないが、対応端末がより早く普及すれば5Gネットワークの広がりも促進される可能性がある。
CIAJは国策として5G普及促進を行っている国があることを指摘しつつ、国際競争力の維持と強化を図る観点から5G端末に対する補助に対する特別な配慮を求めている。
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、「COCOA(新型コロナウイルス接触確認アプリ)」やキャッシュレス決済の利用が推奨されるようになった。しかし、シニア層のスマホ普及率はそれほど高くない。比較的手頃な大手キャリアの新料金も、先述の通りオンライン専用であるため、シニア層が契約に至るにはハードルがある。
CIAJは総務省に対して、シニア層がICT(情報通信技術)を使いこなせないゆえに「IT弱者」「社会的弱者」になってしまうことを防ぐべく、スマホへの移行促進やデジタルディバイド(情報格差)を解消するための政策を継続的に実施することを求めている。
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