世界を変える5G

5G端末の普及には何が必要? CIAJとAppleの考え(2/2 ページ)

» 2021年05月24日 20時45分 公開
[井上翔ITmedia]
前のページへ 1|2       

改正事業法はユーザーにとって「マイナス」の面もある

 会合では、海外端末メーカーを代表してApple Japanのアン・ローリンズ氏(政務部 APAC統括上級本部長)がヒアリングに応じた。ただし、今回のヒアリング対象者では唯一、資料の全編を構成員限りとしているため、総務省のWebサイトなどでは閲覧できない。

 ユーザーのニーズも多岐に渡ることから、AppleはiPhone(スマホ)のラインアップを幅広く取りそろえている。手頃な価格帯の製品ということであれば、旧世代のフォームファクターに比較的新しいハードウェアを組み合わせることで販売価格を抑えた「iPhone SE(第2世代)」が典型例といえる。また、ハイエンド製品をモデルチェンジするタイミングで、「Pro」の付かないスタンダード製品を値下げした上で継続販売するのも、同社の得意とする所である(参考記事)。

 Apple Japanでは「健全な競争を行う上で重要なのは選択肢である」と考えているという。これは自社の端末ラインアップの話だけではなく、競合する他社製品を含めた選択肢という意味と捉えてよいだろう。

 またApple Japanは、2013年にSIMロックフリーのiPhoneの販売を開始し、2018年モデル以降のiPhoneにおいてeSIMへの対応を行っている。ある意味で総務省が掲げる政策を先んじて実現してきたともいえる。

iPhoneのラインアップ 2020年のiPhone 12シリーズの発表の際は、モデルチェンジによって旧世代製品となる「iPhone 11」と、そのさらに前のモデルである「iPhone XR」を値下げして継続販売している

 先述の通り、日本では2019年10月に電気通信事業法の改正が施行された。Apple Japanはこの改正を端末メーカー間(あるいはキャリア間)の競争を鈍化させ、端末価格が上昇し、結果的にユーザーの選択肢を奪うことになると懸念を示す。

 同社は、日本の端末市場と携帯通信市場が共に「活気のある状況とは言えない部分がある」という見方をしている。

 端末面では、スマホの普及率こそ上昇傾向にあるが、新規の出荷台数が伸び悩んでいることに懸念を示している。原因としては、端末の買い換えサイクルの長期化と中古端末の利用増加が考えられるが、新しい端末が売れないことは5G普及の“足かせ”にもなりかねない

 携帯通信面では、2019年の法改正以降にMNPを使った事業者間の移行が大幅に減少したことを指摘する。適正な市場競争を促進し、ユーザーの選択肢を増やし、MNPの手続きを簡素化すれば、もっと乗り換えが活性化するはず……だが、現状ではそうなってないことに不安を覚えていることが伺える。

 自社の端末販売に目を移すと、2020年度(2019年10月〜2020年9月)の全世界におけるiPhoneの販売台数は前年度比で14%増だったが、日本での販売台数は11%増にとどまったという。サービスやウェアラブル(Apple Watch)などの好調な売り上げが、落ち込んだiPhoneの売り上げに相殺されたことによって、同社の2020年度(同)の総売上高はほぼ横ばいとなったという。

 販売台数が増えているのに売り上げが落ち込む――国内メーカーと同様に、高価格帯の機種の販売比率が落ち込んでいるということだ。円高が日本の総売上高にプラスの影響を与えたといい、新型コロナウイルスによるマイナスの影響もある程度大きいが、改正事業法によるマイナスの影響も決して小さくない状況のようだ。

MNP簡素化 MNP手続きの簡素化については、既存のMNPシステムを活用して、転出先キャリアが転出元キャリアから「予約番号」を取得できる方式を軸に検討が進められているが、実現にはもう少し時間が掛かりそうだ(総務省資料より:PDF形式)

 国内において、iPhone 12シリーズは大手キャリア各社の5Gサービスの契約者増に大きく貢献した。エリアも都市部を中心に広がってきている。それにも関わらず、携帯電話の回線契約全体に占める5Gサービスの契約者数が数%にとどまっている。

 そのことに対して、韓国では5Gサービスの契約者数が全体の17%に達していることを引き合いに出しつつ、Apple Japanは日本における5Gの普及は非常に低調であると、危機感を隠さない。通信サービスと端末は“両輪”であって、5Gサービスが普及しなければ5G端末も普及しないし、逆に5G端末が広がらなければ5Gサービスも広がらないからだ。

 政府は「5G導入促進税制」(※2)によって5Gインフラの普及を迅速化しようとしている。しかし、Apple Japanの言葉を借りれば「高速道路(=5Gネットワーク)というインフラをいくら作っても、その上を走るクルマ(=5G端末)がない」となると、宝の持ち腐れとなってしまう。

(※2)正しくは「認定特定高度情報通信技術活用設備を取得した場合の特別償却又は税額控除」という

 Apple Japanは「(端末とサービスの)完全分離は既に達成されている」とした上で、より迅速な5Gサービスの普及を図るために3G/4G端末から5G端末への買い換えに対して割引額の上限の免除措置を講じることが必要だと主張する。CIAJが「5G端末に対する補助に対する特別な配慮」と遠回しな表現を使ったのと比べると、“ストレート”な意見だ。

 同社はさらに、携帯電話に関するコストは通信と端末の「TCO(所持することによる総コスト)」で考えるべきであると主張である。さらなるTCOの削減と消費者の選択肢を増やす観点から、現行の割引上限を維持する必要性の再検討も求めた。

法規制 総務省が設けた「2万円」という割引(利益提供)額の上限に、Apple Japanは疑問を持っている。3G/4G端末から5G端末への買い換えについては、上限撤廃も求めている(総務省資料より:PDF形式)

総務省は5Gを普及させたいのか?

 先述の通り、5Gのインフラについては税制優遇措置が取られることになった。スマホを含む5G端末については、普及に向けた特別な措置は講じられていない。5Gを“本気で”普及させたいなら、インフラ整備と並行して端末の普及についても一定の検討を行うはずなのだが、今の総務省を見る限り、現時点においてそのようなそぶりは伺えない。

 「道路」ばかり作って、走る「クルマ」がない――それでいいのだろうか?

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アクセストップ10

2024年05月06日 更新
最新トピックスPR

過去記事カレンダー

2024年