「iPhone Xは、これからの10年を示す新たな製品」――AppleのCEO、ティム・クック氏がこう宣言してから約1年。当初は賛否両論あったノッチのあるディスプレイはスマートフォン業界ですっかり定着し、機械学習を強化したプロセッサを搭載したスマートフォンも増えてきた。クック氏が「iPhone Xでスマートフォンの未来が決定づけられた」と振り返ったのはそのためだ。
実際、iPhone Xは販売台数でも1位を記録し、「もっとうれしいことに、98%の方々が満足している」(クック氏)とユーザーからの評価も高い。このような成果を踏まえ、2年目となる2018年に発表されたのが、「iPhone Xを次のレベルに引き上げる」(同)ことをうたう「iPhone XS」「iPhone XS Max」と「iPhone XR」だ。
発表会では、最初にiPhone XS、iPhone XS Maxの一通りの機能が紹介されたが、中でも時間が多く割かれたのはプロセッサの「A12 Bionic」と、その機能を応用したカメラだった。A12 Bionicは7nmの製造プロセスで開発されたプロセッサ。特徴的なのは、機械学習の処理を担う「ニューラルエンジン」が、大幅に強化されたところにある。
ニューラルエンジンはiPhone Xに搭載された「A11 Bionic」で初めて採用された仕組みだが、A12 Bionicでは、このコアが2コアから8コアへと増やされている。秒間6000億回だった演算処理が5兆にまで拡大したというところからも、その性能の高さが分かる。この進化の恩恵を最も受けるのは、カメラといえる。
iPhone XS、XS Maxではポートレートモードが大幅に強化されており、リアルタイムにポートレートライティングの効果を加えたり、ボケ味をより一眼レフに近い形で出したりできる。露出やホワイトバランスを変えた複数の写真をまとめて撮り、機械学習で最適な部分を選んで合成する「スマートHDR」に対応できたのも、A12 Bionicがあってこそだ。
こうした機能だけなら他のスマートフォン、特にAIに力を入れているHuaweiなどのメーカーの端末にも一部は実装されているが、Appleらしいと感じたのは、これが外部の開発者にも公開されているところだ。発表会で特にインパクトが大きかったのは、Net Teamの「Home Court」と呼ばれるアプリ。バスケットボールのプレーヤーやコートを認識し、シュートの成功率などを表示するといったものだ。
同社の開発者は「リアルタイムでプレーヤーをトラッキングしているが、これは新しいiPhoneでしかできない。(中略)今まででは不可能だったフィードバックが(選手に)できるようになる」と語っていたが、こうしたサードパーティーをきっちり取り込めるところこそが、Appleや新しいiPhoneの強みといえるだろう。チップレベルから、OS、さらには最終製品の端末までを一貫して手掛けているからこそ可能になったことだ。
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