一方で、有機ELにデュアルカメラに高性能なA12 Bionicと、これだけの機能を盛り込んでくると、どうしても価格は跳ね上がってしまう。日本でも、iPhone XSは最低容量の64GB版が11万2800円(税別、以下同)から、iPhone XS Maxは同容量で12万4800円からと、10万円を大きく上回っている。
端末購入補助が付き、高額な端末を買いやすかった日本も、今は分離プランが主流になりつつある。ミドルレンジモデルが3万円以下、iPhone 6sですらdocomo withで4万円程度の中、なかなか“勇気”がいる価格だ。
もちろん、Appleもこうした声は意識しているのだろう。その答えとして発表されたのが、「たくさんのお客さまに使っていただきたい、もう1つのiPhone」(フィリップ・シラー上級副社長)と呼ばれるiPhone XRだ。こちらのモデルは日本円で8万4800円から。廉価版と呼べるような値段ではないが、一般的なハイエンドモデルとして、手が出る価格に抑えられた端末といえる。
もう1つのiPhoneと呼ばれていたiPhone XRだが、プロセッサはiPhone XS、XS Maxと共通のA12 Bionic。機械学習の処理能力が向上した恩恵は、しっかり受けることができる。前面のノッチ部分にはTrueDepthカメラが搭載されており、FaceIDにも対応する。ディスプレイサイズも6.1型で、解像度は低いがサイズはiPhone XSよりも大きい。液晶を使っているため、有機ELモデルと見比べてしまうとコントラストの低さは気になるが、表示品質は決して低くない。
Appleの発表会ではPlusサイズのiPhoneよりも小さく、8までのiPhoneより画面が大きいことが強調されていた。事前のウワサでは名称が「iPhone 9」になるのではないかとささやかれていたが、実際、このモデルはiPhone 8やiPhone 8 Plusの後継に当たる端末だ。ホームボタンを廃したことで節約できたサイズを液晶にすることで、2つのサイズに分かれていたiPhoneを1つに集約できたともいえる。
iPhone XRが面白いのは、シングルカメラながら、きちんとポートレートモードに対応している点だ。従来のiPhoneの場合、通常サイズのiPhoneのみ、シングルカメラで、ポートレートモードが利用できなかった。シラー氏によると、これは「ニューラルエンジンで深度のセグメンテーションを行っている」という。
発表会場の実機を試してみたが、確かに精度は高く、人を見分けて背景がナチュラルにボケる。デュアルカメラの焦点距離の違いで深度を取っているわけではないため、機械学習の結果が反映できる人物にしか適用できないなど、iPhone XS、XS Maxと比べれば制約はあるものの、これで十分という人もいるはずだ。機械学習を使ってハードウェアをシンプルにし、その分コストを抑えた好例といえるかもしれない。
“次の10年”の2年目が始まり、バリエーションが広がったiPhone。2018年は大画面化したiPhone XS Maxや、価格を抑え、カラーバリエーションを増やしたiPhone XRが登場し、XシリーズがAppleにとってのスタンダードになろうとしている。クック氏が語っていた「スマートフォンの未来」が、徐々に現実化している様子がうかがえた。
(取材協力:アップルジャパン)
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