楽天モバイルが“新プラン自動移行”の理由に挙げる「電気通信事業法第27条の3」とは何か?MVNOの深イイ話(3/3 ページ)

» 2022年06月28日 06時00分 公開
[佐々木太志ITmedia]
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Rakuten UN-LIMIT VIIと電気通信事業法第27条の3の関係

 それでは、この規律のどこが、三木谷氏の発言「行き過ぎた囲い込みの禁止、という規制により、既存ユーザーは0円を維持したまま、新規ユーザーは1078円から、という条件でのサービス提供が不可能だ」につながるのでしょうか。

 電気通信事業法第27条の3は、既にご説明したように、その第2項が「一」「二」に分かれて規定されています。「一」が「通信と端末の分離」で、「二」が「行き過ぎた囲い込みの禁止」に対応しますから、三木谷氏の意図はこのうちの「二」に規定されたものと読み取れます。

 「二」の詳細を規定する電気通信事業法施行規則第22条の2の17の中で、期間拘束や違約金(これらは楽天モバイルにはありません)に関連する規定以外を読み、あり得そうなのはその中の「六」、すなわち「契約を一定期間継続した利用者に対する、1年あたりその1カ月分の料金を超える利益の提供」の部分でしょう。

 想像するに、Rakuten UN-LIMIT VIとUN-LIMIT VIIの差額(特に月間1GBまでの料金)について、UN-LIMIT VIIで規定されている月額1078円に該当するデータ量(0〜1GB)を、UN-LIMIT VIの利用者に引き続き0円で提供し続けることを、「契約を一定期間継続した利用者に対する利益の提供」とみなしたと推測されます。

 さて、この条文はこれまで見てきた通りかなり複雑なため、総務省による法律の適用に関するガイドラインが整備されています(もっとも、このガイドラインも十分に複雑なのですが……)。ガイドライン(※PDF)のP.62「6 不当な期間拘束 (8)契約を一定期間継続して締結していたことに応じた利益の提供」に、総務省令のうち該当する電気通信事業法施行規則第22条の2の17の第六号に対応するガイドラインが掲載されています。

 改めてガイドラインのその部分に目を通すと、4つある細目のうち、「(1)概要」には総務省令の条文がほぼ近い形で引用されており、「(2)規律の対象とする利益の範囲」には、「料金の減免その他これと同等の利益」として、料金の減免に加え、追加的なデータ量の付与、ポイントの付与、商品券の配布が例示されています。また「(3)継続利用割引による1年あたりの利益の額の上限である1月当たりの料金」には、総務省令が定める「1月の料金」の考え方として、「割引が適用される前の料金」「通話やデータのオプションを含む」などの考え方が示されています((4)は細かいので省略)。

電気通信事業法 「電気通信事業法第27条の3等の運用に関するガイドライン」P.62に、一定期間契約を継続することに対する利益の提供に関する規制が記載されている

 ところが、改めてガイドラインに目を通しても、このガイドラインがRakuten UN-LIMIT VIの利用者にUN-LIMIT VIIへの変更を強いざるを得ないものであるとは読み取れないように感じられます。まず、この条文では新しいUN-LIMIT VIIの料金と、それまでのUN-LIMIT VIの料金の、プランをまたがる差額が、当該ガイドラインが規定する「利益の提供」であると直接的に読める記載はありません。

 一般化して考えたときに、当該ガイドラインの(2)の定める利益の範囲としての料金やデータ量(このガイドラインではデータ量の付与も「利益」)の異なるプランAとプランBを1つの事業者が同時に提供することは当たり前の話です。Aの料金が高い場合であれBが高い場合であれ、あるいはAのデータ量が多い場合であれBが多い場合であれ、その料金の差額やデータ量の差がガイドラインにおける「利益」の提供であると解釈可能であれば大きな問題ですが、ガイドラインがそのようなことを、少なくとも現時点で想定して書かれていないことは明らかです。

 それに加え、そもそもこのガイドラインはRakuten UN-LIMIT VIやUN-LIMIT VIIの段階制料金プランすら想定しておらず、(3)にはどの段階を「1月の料金」として捉えるべきなのかについて全く記載されていない、すなわち、法令の適用判断である「利益」と「1月当たりの料金」の大小関係の把握すらこのガイドラインからはできないのです。

 お断りしておきますと、あくまでここに書いたことは筆者の現在のガイドラインへの理解に基づくものに過ぎません。ITmediaの当該記事によれば、同社の矢澤社長は「関係各所に相談した」と発言されていますので、ガイドラインの解釈については総務省との間で十分な議論がなされていると想定されます。また、ガイドラインの解釈論ではなく、楽天モバイルとして望む料金プランの在り方についても筆者の知るところではありません。

 本ガイドラインの別紙1には、ガイドラインの解釈に関する電気通信事業者から総務省への質問とその回答については、公正な競争環境を確保する観点から他の電気通信事業者に共有し、また次回ガイドライン改正のタイミングでガイドラインに反映する運用が規定されています。

 今回の一連の経緯において、どのようなガイドラインの解釈が生まれ、今後ガイドラインに盛り込まれるのか。次回のガイドライン改正に着目していきたいと考えています。

著者プロフィール

佐々木太志

佐々木 太志

株式会社インターネットイニシアティブ(IIJ) MVNO事業部 ビジネス開発部 担当部長

 2000年IIJ入社、以来ネットワークサービスの運用、開発、企画に従事。特に2007年にIIJのMVNO事業の立ち上げに参加し、以来法人向け、個人向けMVNOサービスを主に担当する。またIIJmioの公式Twitterアカウント@iijmioの中の人でもある。


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