小型スマホ「Zenfone 9」開発秘話 ハイエンドなのに10万円を切る価格を実現したワケ(1/3 ページ)

» 2022年12月13日 12時47分 公開
[石野純也ITmedia]

 片手でも持ちやすいコンパクトなボディーに、フラグシップモデルならではの高い処理能力を詰め込んだ「Zenfone 9」が、11月4日に発売された。フリップ式のカメラを搭載して差別化を図ってきたZenfoneシリーズだが、Zenfone 9ではその方針を転換。新たにジンバルを内蔵し、写真や動画撮影時の手ブレを大きく抑えることに成功した。コンパクトなボディーと相まって、歩きながら動画を撮影する際に、その効果を発揮しやすい。背面には、ポリカーボネートとポリウレタンを組み合わせた特別な素材を採用。ややザラっとした独特な手触りで、色合いも上質だ。

Zenfone 9 5.9型ディスプレイを搭載するハイエンドスマートフォン「Zenfone 9」

 かつて“性能怪獣”をうたったZenfoneだが、その言葉通り、性能はハイエンドモデルの中でもトップクラス。チップセットにはCPUやGPUの処理能力を向上させた「Snapdragon 8+ Gen 1」を採用しており、パフォーマンスは群を抜いて高い。また、「Zenfone 8」で初対応したおサイフケータイも、しっかり受け継いでいる。その反面、価格は9万9800円(税込み)からと、ハイエンドモデルの中では比較的手に取りやすく、費用対効果の高いモデルといえる。

 ハイエンドモデルに特化する方針に転換し、ミドルレンジ以下の端末を投入していないASUSだが、その“濃さ”が功を奏し、徐々に市場からの引き合いは強くなっているという。では、Zenfone 9はどのような戦略で日本に投入するのか。ASUS JAPANのシステムビジネス事業部シニアプロダクトシニアマネージャーのレイレン・リー氏と、テクニカルプロダクトシニアマネージャーの阿部直人氏、「システムマーケティング部モバイルプロダクトマーケティング マネージャーの新島瑠美子氏にお話を聞いた。

高性能かつ小型化で競合メーカーと差別化を図る

―― 最初に、Zenfone 9の特徴を改めて教えてください。

新島氏 コンセプトとしてあるのが、片手にすっぽりと収まり持ち歩くのが楽しくなるにもかかわらず、ハイスペックということです。スマートでありながら、大きな可能性を手に入れられます。片手で使いやすいところにとことんこだわったのも、Zenfone 8からパワーアップしたところで、「Zen Touchボタン」として電源キーに指紋認証が搭載されています。設定で通知のチェックやWebの更新などの操作もできるようになります。他にも、本体背面のダブルタップで、さまざま機能を実現できます。カメラを片手で起動できるので、街歩きにも便利です。

Zenfone 9 新島瑠美子氏

―― もともとZenfoneは大画面を売りにしていたところもありましたが、Zenfone 8のころからコンパクト路線になったのは意外でした。Zenfone 9はコンパクトモデルだけです。

リー氏 初期のころのZenfoneには小型の端末もありましたが、おっしゃるように、年々大型化してきた経緯があります。一方で6、7、8と世代を経るに従い、小型化して何かできないかという話が出てきました。高性能かつ小型というポジショニングは、競合が誰も触っていなかったところで、そこに切り込んでいくことになりました。

新島氏 コンパクトかつハイスペックは、日本市場でもあまりなかったポジショニングです。そこが確立でき、評判はよかったですね。日本ではコンパクトだとエントリー向けになってしまうことが多いので、そこが評価されたのだと思います。Zenfone 9では、好評だった8のDNAを受け継ぎ、小型化をフィーチャーしました。

阿部氏 Zenfone 9に関してよく言われたのは、Zenfone 8にあったフリップモデルがなくなったということです。大画面というより、フリップがないことを聞かれることの方が多いですね。具体的な理由としては、8から9にグレードアップした際に、カメラのモジュールが40%ほど大型化しています。性能が上がると、どうしてもカメラは大きくなってしまうので。それをそのままフリップに搭載すると、モーターなどにさらに高いスペックを要求されてしまいます。ちゃんとしたものを作り上げると、スマホとは思えないものになってしまうため、今回はコンパクトのみということになりました。

Zenfone 9 幅70mmを切る68.1mmを実現した

―― ただ、小型端末はニーズがあるように見える一方で、miniとついたiPhoneがなくなってしまうなど、実売が伴わないことも多いように思えます。

阿部氏 持論になってしまうかもしれませんが、大きくするのは簡単です。小さくしながらハイスペックを追求するのには、ものすごく技術力が求められます。大型なら冷却性能に余裕が持てますが、小型だと制約が増えてしまう。ASUSにはその技術力があります。大きさはZenfone 8から変わっていませんが、9はカメラが40%大型化したり、冷却システムの効率が230%上がったりと、ゲーミングスマホ並みになっています。

 これは、ROG Phoneで培った技術を結集してできました。Snapdragon 8+ Gen 1のようなチップセットは発熱するのが常ですが、そういう中でも安定したパフォーマンスを保つのには、やはり技術が必要になります。同じようなことを他のメーカーができるかというと、話は変わってきます。単に小さいだけならできるかもしれませんが、コンパクトさを維持したままのハイスペックは、技術力に依存するところがあります。

 ただ、小さいと言ってもサイズはiPhoneで言えば無印と同じぐらいなんですけどね。

―― 確かに、miniほど小さいわけではないですね。Androidのスマホが全体的に大きいので、相対的にコンパクトではありますが。

阿部氏 単純にサイズだけを比較すると、メインストリーム(のミッドレンジモデル)に近い。ハイエンドは大体6.7型前後になりますが、ミドルレンジだと6.1型から6.3型ぐらいまでの端末はありますよね。ただ、6型を切った端末はないですね。

Zenfone 9 阿部直人氏
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