―― 話は変わりますが、背面の触り心地も印象的でした。
阿部氏 この手触りは何だろうと思ってホームセンターに行ったら、ありました。高級な軽石です(笑)。メリットは、やはり指紋がつきづらいことです。ガラスやプラスチックで光沢があると、どうしても指紋がつき、汚れが目立ってしまいますが、この素材だとそうなりません。重さも、先代モデルより30%軽くなっています。Zenfone 8と9では、ディスプレイサイズが同じ5.9型で、169gと重量も変わっていませんが、SoCやカメラモジュールが大きくなり、バッテリーも4000mAhから4300mAhへと大型化しています。それでも169gという重さをキープできたのは、そういった軽量化によるところが大きいですね。
―― 以前はミッドレンジモデルが多かったZenfoneですが、方針が変わり、ハイエンド中心になっています。一方で、今の日本市場はどちらかというと、ミドルレンジのボリュームが拡大しています。この傾向をどう見ていますか。
リー氏 2019年に(本社が)そういう方針になりました。薄利多売を脱却するという考えからで、それが3年続いています。この3年、楽ということはなかったですね。(電気通信事業法が改正され、割引に制限がかかる)2019年は各社がハイエンドに注力していましたが、2021年はパイが減っています。ただ、円安の影響で一斉に端末が値上がりしたこともあり、ハイエンド(の売れ行き)はよくなっています。今後の関しては、パイが変わってくる可能性もあります。
阿部氏 ミッドレンジの価格が上がっていて、昔は3万円から5万円でミドルレジンでしたが、最近は5万円、6万円になっています。以前と比べて、ミドルレンジの定義も変わってきてきました。一方、われわれの端末は10万円を切る価格でハイエンドということもあり、引きがあります。
また、ROG Phoneには、16万円を超える「ROG Phone 6 Pro」という端末もありますが、ふたを開けてみると、発売日にほぼほぼ売れてしまいました。予想をいい意味で裏切ってくれましたが、一概にハイエンドが減ってきたというわけでもないと思います。
スマホはたくさんありますが、われわれの製品はとがっているのが特徴です。Zenfone 9だったらジンバル、ROG Phoneだったら冷却システムなど、他のメーカーの端末だと体験できない明確な売りがあります。そういった意味で、ご期待いただけているのではないでしょうか。同じようなカテゴリーの製品を並べたとき、「一緒じゃん」とならないのは強みだと思っています。
―― 一方で、ハイエンドというくくりだと10万円を下回っているZenfone 9は安いと思いました。なぜこの価格を実現できたのでしょうか。
新島氏 リーが本社との調整をがんばったところです。最初は9万9800円という値付けで受け入れていただけるのか悩んでいましたが、市場ではむしろ安いという意見が見受けられました。円安の傾向は読めませんが、結果的に受け入れられ、上位モデルから最初に売れています。
阿部氏 価格はギリギリまで調整しました。ハイエンドであるかどうかのくくりは関係なく、10万円は1つのポイントになっています。クレジットの審査も変わりますからね。グローバル版の発表時にユーロ建ての価格も出ていますが、あれを単純計算すると、11万円強になります。10万円を切る価格設定は、いい意味で期待を裏切れたのではないでしょうか。
―― 防水・防塵やFeliCaも入り、大手キャリアに採用されやすくなったようにも見えます。キャリアマーケットへの展開はお考えでしょうか。
リー氏 「採用してもらうためにこれを入れます」という経緯ではありません。キャリアというより市場を意識したもので、日本のエンドユーザーが使いやすくなるという認識です。
他のスマホ主体でやっているメーカーとは違い、弊社は主体がPCやマザーボードの会社です。モノ作りに注力していると自負していますが、それゆえに、製品に関するこだわりが強い。出来上がった製品は、いち早く提供したいという思いもあります。日本での発売は認証も多いのでグローバルから遅れる傾向がありますが、その中でも最善を尽くしています。
阿部氏 そのスピード感の違いは大きいですね。われわれの製品作りはとにかく速い。そのスピード感と、日本企業のビジネスのスピードを合わせるのはなかなか難しい。だからと言って何もしていないわけではなく、KDDIが直営店で弊社のChromebookを展示していたり、「ROG Phone 5」から「+1 Collection」で取り扱ってもらったりしています。できるところで、キャリアとの提携は進めています。
リー氏 また、時代も変わり、昨年からSIMロックも原則として禁止になり、市場もオープンになっています。世界の傾向もそうで、流れが変わってくるのではないかと思っています。
ハイエンドモデルというとディスプレイサイズの大きな端末が多いなか、Zenfone 9はあえてコンパクトさを売りにすることで差別化を図った。ラインアップからフリップのような“飛び道具”はなくなった一方で、ジンバルを搭載するなど、スタンダードなハイエンドモデルとしてより洗練された印象を受けた。また、おサイフケータイ対応でかつハイエンドのオープンマーケットモデルは、非常に珍しい存在だ。20万円を超えるハイエンドモデルが増えている中、9万9800円という価格も相対的にリーズナブルで、手に取りやすい。
ミッドレンジモデルから撤退し、シェアを大きく落としたASUSのスマートフォンだが、ハイエンドモデルでは爪あとをしっかり残せている。とはいえ、売りが分かりやすいROG Phoneに対し、Zenfoneのインパクトが薄くなっていたのも事実だ。コンパクトハイエンド路線を明確にし、おサイフケータイにも対応したZenfone 8や、その後継機であるZenfone 9を立て続けに投入したことで、そんなイメージを払拭できたようにも見える。MVNOはもちろん、サブブランドやオンライン専用ブランドを使うユーザーがハイエンド端末を購入する際の、いい選択肢になりそうだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.