テレコムサービス協会MVNO委員会が3月10日、MVNOの展望を議論する「モバイルフォーラム2023」を開催した。基調講演やMVNO委員会の活動報告の後、恒例のパネルディスカッションを開催。「『競争と協調』『5G再興』新時代に求められるMVNOの役割とは?」と題して、「競争と協調」「日本の5G再興」「MVNO新時代」という3つのテーマを設定してディスカッションした。
ディスカッションでは過去の流れと現在の状況、そこから見える未来への課題という視点で、中長期的なMVNOのあるべき姿を探った。今回は「競争と協調」についてのディスカッションについてお伝えする。
まず、堀越氏がモバイル市場における競争の過去から現在を振り返った。2007年に総務省で発足したモバイルビジネス研究会から、「行き過ぎた端末割引競争の是正」や「3社寡占に対する競争促進」についてのさまざまな取り組みが行われてきた。現在、端末割引競争においては「転売ヤー」問題が残っているものの、3社寡占に対する競争促進については、MVNOの促進やahamoをはじめとしたMNO各社の新料金プランの登場、楽天モバイルの本格参入やスイッチングコストを削減する施策によって、通信料金は劇的に下がっている。
一方で、通信の社会インフラ化が進行している。2022年に起こったKDDIの大規模通信障害では、単にスマホが使えなくなるだけでなく、銀行や物流など多方面で影響があった。大手3社はデュアルSIMサービスを検討し、携帯電話事業者が協力し合って通信を支える動きが出ている。
現在のモバイル業界の競争と協調について、4氏はどう見ているのか。
モバイルビジネス研究会から携わっている北氏は、端末割引の是非や競争促進について「8合目くらいまで来ていて、総務省のワーキンググループで穴をしっかり埋めれば、かなり完成形に近づく」と楽観的に見ている。なお北氏は、スマホが高価格化し、円安が進んだ今は、通信契約を伴わない端末(白ロム端末)の割引額は「4〜5万円程度だったら許容範囲」という意見だ。
石川氏は、総務省が進めてきた通信と端末の完全分離について反対の立場で、「周波数しかり、端末と通信サービスは密接に関わっていて切っても切り離せないもの」という意見だ。また、総務省の議論は最近の携帯電話市場の動きについていけていないと警鐘を鳴らす。
「昨年はGoogleがPixelの下取り価格を上げて端末を売ろうとしていた。あれは恐らく、Googleが広告収入で得たお金を端末割引に使っている状況。ああいった売り方でGoogleがシェアを伸ばしていく可能性もあると考えると、総務省の議論が市場に追い付けていないと感じています。2年縛りをなくし、スイッチングコストを下げてMNPをしやすくすることで総務省は頑張ってくれた。それ以外の部分は総務省が関与しなくてもいいと個人的には思っています」(石川氏)
この石川氏の意見に対し、北氏は「金融など通信料以外のもうけを端末値引きに充当するような構造はますます増えると思う。端末と回線のみならず、さまざまなプレイヤーが参入してきたときを夢想して、未来志向でどうあるべきなのか議論する場が設けられていかない限り、(総務省の動きは)なかなか大きく変わっていかないのではないか」と指摘した。
通信料金が劇的に下がった後、MNOはARPU増を狙ってステルス的に動いていないかと堀越氏に問われた石野氏は、「ARPU増を狙うのは当然の動き」と回答している。
「スタックテストをするほどなので、オンライン専用プランはMNOとして本当にギリギリまで安くしている料金だと思います。ARPUが上がっていかないとビジネスとしてやっていけなくなるので、ユーザーにはたくさんデータを使ってもらって、より大容量のプランに誘導し、みんながハッピーになる流れが起こっている感じもします。とはいっても、使い放題で7000円を切る価格、楽天モバイルに至っては3000円強なので、昔よりだいぶ安くなっているし、単純な値段だけで見る競争ではなくなってきています」(石野氏)
MVNOの立場として島上氏は現状について「モバイル市場に競争を導入するという努力が実を結んできた」と評価した。MNOの料金が下がってきたことも社会全体によって非常にいいことで、「社会的なメリットを出すという意味でもMVNOは十分役割を果たしてきたと思う」と述べた。
ただ、料金が下がってもMNOによる大幅な端末値引きは続いている。「まだこれだけの端末値引きができるのであれば、われわれが(MNOに対して)負担しているコストが適正なのか、これからもずっと問い続けないといけない」と指摘した。
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