日本で5Gのメリットが得られない本当の理由 “新時代”で期待されるMVNOの役割とはモバイルフォーラム2023(2/2 ページ)

» 2023年03月30日 06時00分 公開
[房野麻子ITmedia]
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間もなく「MVNOの新時代」に突入 事業領域を拡大できるか

 ディスカッションの最後のテーマは「MVNOの新時代」。日本のMVNOの歴史は、2001年に日本通信がPHS回線を使ったサービスを提供したのが始まりとされる。ドコモの携帯電話回線を使ったMVNOが誕生したのが2008年頃。卸ではなく接続という形でサービスを提供することになり、回線の値段が下がったとされる。

 しかし、SIMフリー端末の入手が難しかったこと、まだ接続料が高かったことでブームは終了。現在まで続くブームは「格安スマホ」が生まれた2014年頃から起こる。参入する企業が続々登場し、MNOの対抗軸として1つの陣営が立ち上がった。IoT向けのMVNOサービスも成長の兆しがある。ただ、楽天の参入やMNOの料金値下げなどに伴って競争が激化し、一般消費者向けのMVNOサービスが曲がり角に来ている。

モバイルフォーラム2023 堀越氏がまとめた日本のMVNOの歴史。現在は3度目のブームが続いている状態

 島上氏はMVNOの現状を「第3次ブームを巻き起こした施策が着々と行われ、MVNOがそのポジションを築いてきている」と見る。確かに楽天がMNO事業に参入した2020年から2021年でMVNOの市場は落ち込んだが、その後は回復し、今後も増えていく予想になっている。

モバイルフォーラム2023 MM総研が発表したMVNOの市場予測

 「スマホは社会のインフラになりつつあり、まだスマホを使っていないユーザーさんと接点を持ってMVNOが活躍する可能性はまだまだあると思っています。一方でIoT向けが成長しており、その分野に参入するMVNO、あるいは手助けするMVNEが今後出てくるだろうと思っています。MVNOはどうしても一般向けの格安スマホ・格安SIMとしてフォーカスされがちですが、他のところでやれること、やらなくてはいけないことがあると思っています」(島上氏)

 石川氏は「MVNO業界が格安スマホという名称に縛られてしまった」と指摘。エックスモバイルが発表した「HORIE MOBILE」が「通信業界のLCC(格安航空会社)」とうたっていることに注目し、「業界の見方が変わるかもしれないと」と期待する。

 「ただ、ANA Phoneやディズニー・モバイル・オン・ソフトバンク、Disney Mobile on docomoなど過去にファンを対象にしたMVNOはことごとく失敗している。成功を期待したい」(石川氏)

 海外のMVNOについて問われた石野氏は「海外も画期的なビジネスモデルが出ているわけではない」と明かす。伸びているMVNOは、フルMVNOでIoT向けサービスを展開している企業。例えば、地域ごとにプロファイルを切り替えるサービスを組み入れていたり、eSIMのプロビジョニングなどエンタープライズ向けのソリューションを提供していたりする企業が目立つという。

 日本のMVNOについては「これから電話番号の割り当てが可能になるので、音声通話まで含めたフルMVNOに踏み込んでいくと、まだ事業領域を拡大できるチャンスがある」(石野氏)とする。また、ソフトバンクとドコモが3G停波を控えており、もっと積極的にコンシューマー向け回線の獲得に動くべきと提言した。

 北氏は「コンシューマー向けは厳しい。特に料金競争だけでは勝てない」と述べ、可能性があるのは法人向けソリューション領域という考え。ただ、コンシューマー向けについて「メタバースやWeb3など、次に出てくる領域に果敢にチャレンジするMVNOが生まれてくれば、その中から何社か大きくなるところも出てくる可能性があると思う」と語った。

 島上氏は電話番号の割り当てや5Gの機能開放などで生まれるMVNOの新しいサービスについて「難しい話」と述べつつも、「今までやっていたことと違うことをやらなければ意味がない。誰かが取り組むことでまた新しい世界が生まれる」と前向きだ。

 石川氏はMVNOにしかできないサービスとして「1SIM、ワンナンバー、2ネットワークのサービス」を求めた。

 「1枚のSIMカードで、障害ネットワークの強さによってどちらかにつながる。そういうサービスをMVNOが提供できるようになれば非常に面白い。MNOにはできないことで、法人にも一般ユーザーにも価値がある。こういったサービスなら安くなくても構わない。格安とは言わせないサービスを作ってほしい」(石川氏)

MVNOに期待する役割

 最後に、各パネリストが今後のMVNOの役割として期待することを述べた。

 北氏は「法人向けは相当チャンスがある。5G SAになったときこそ法人向けサービスの意味が出てくる」と語った。

 石川氏は、「去年(2022年)は楽天の0円廃止とKDDIの通信障害という2度の神風が吹いた。また神風が吹いて450万契約くらいの市場が動く可能性がある」と大胆発言。そのタイミングを逃さないように、継続的に魅力的な技術開発を続けることが重要だと述べた。

 石野氏は「神風が吹いたことによってMVNOの根本的な存在意義、潜在能力に再度注目が集まった」と受け、「電話番号割り当てが始まったり、5G SAがMVNOスライシングのように1枚借りられるようになったりすると面白い。新技術でMVNOがいろいろなサービスを提供できるようになる可能性が見えてきた」と期待を寄せた。

 3氏の発言を受け、島上氏は「MVNOの役割はモバイル市場に多様性をもたらして競争を活性化し、国民のみなさんに役立つ存在になることだと思っている。今後もその役割は変わらず、技術やアイデア、売り方を磨いて、MNOだけではできない世界を作っていくのが使命」と意気込みを力強く語った。

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