掛け値なしに異次元の体験だ――。そう感じたのは「Apple Vison Pro」を手にしたときだった。Vision ProはAppleが2023年6月5日に発表した同社初のゴーグル型デバイスだ。かぶると目の前に絶景が広がるようなデバイスで、指と視線でコントロールする。日本での価格は59万9800円(税込み、以下同)からと個人向けの製品としては高価だ。
筆者は60万円近くするVision Proを試したく、都内のApple Storeへ出向いた。無料のデモで体験できた時間は30分と短く、コンテンツも限られていた。最初は買うかどうか悩んだが、操作感、装着感など、短時間では全てを実感しづらいことから、高くても長期間使い込んでみたい、と思い、購入に踏み切った。
冒頭でも述べた通り、Vision Proは個人向け製品としては高価だ。なぜそこまでの大金を出してまで購入したのか、購入して分かったメリットとデメリットは何かお伝えしたい。
Vision Proの最初の発売国は米国。日本、中国本土、香港、シンガポールでは2024年6月28日に、オーストラリア、カナダ、フランス、ドイツ、英国では7月12日に発売となった。物価高の日本では発売されない、と推測していたが、米国版の発売からわずか数カ月後に日本での発売が決まった。
米国版の購入も頭をよぎったが、わざわざハワイのストアまで行き、現地のApple IDがなければストアでのアプリ購入やインストールができない、米国版を買うメリットがあるのか、いまいち思いつかなかった。入るを量りて出ずるを為すということをもっと考えて行動すべきだと冷静になり、結局のところ手に入れることはなかった。
米国版を買わずに日本での発売を待ってよかったのは、米国のApple IDを作成せずに済むこと、日本でApple Careに加入できることの2点。米国版だと日本で受けられるサポートは限られるそうだ。この情報をApple Storeで得た時点で、米国版の購入をはっきりと諦めることができた。
そして、いよいよ待ちわびた日本版の発売日。いざ日本版を手にしたときの感動は「宇宙的、近未来的な世界観」とでも表現したい。板状のスマートフォンや折りたためるノートPCなど、肉眼で目の前にある物体のディスプレイを見ながら操作する、という固定概念から一気に解放された感があった。
指でアイコンやウィンドウに視線を合わせて、それを人差し指でつまむようにしてタップしたり、ウィンドウを動かしたりできるのが基本的な操作方法。言葉だけでは伝わりづらいため、疑問に思う人はぜひApple公式の動画を見るか、近くにApple Storeがあれば体験しに行ってほしい。
Appleが銘打つ空間コンピュータという言葉だけ目にしたときは、パッと理解できずにいたが、実際に操作すると別世界にいるかのような感覚となり、スマートフォンやノートPCのディスプレイが小さく感じるほどだ。
最も新鮮な体験だと感じたのはコントローラーが要らないこと。手を膝の上やテーブルの上に置いたままの状態でも、タップやスクロールができるところがVision Proで特に便利だと感じたし、気に入っているポイントだ。
コントローラーのあるゴーグルデバイスだと手の代わりにコントローラーを握っていなければならず、長時間使用すると手が疲れる。一方、Vision Proは椅子に長時間座る必要はないし、コントローラーを握り続ける必要もない。とにかく、ユーザーがリラックスして使えるように工夫されているのだろう、と感じた。
Vision Proを装着している状態でも外界が見えるのもすごいと感じた要素の1つ。物理的に目をふさいでいるが、明るい場所なら手元が見えるため、例えば、Vision Proを装着したままコップの水を飲むことができる。外界の映像は前面のカメラで撮影し、内部のmicro-OLEDディスプレイ(両目で約2300万ピクセル)に表示される。なお、暗い場所では映像が粗くなり、手をトラッキング(認識、追尾)できないという警告文言が表示される。
装着感はもうひと工夫ほしい。Apple Storeのスタッフの中には「軽くていい」「予想以上に重量を感じない」と話す人がいたが、自分はそうは思わなかった。約600gは重たい部類に入る200g台のスマートフォンが約3台分に相当する。それが頭上に載っているため、必然的に物理的な重量を感じる。
ちなみに、Vision Proは後頭部と側面に接する太いバンドで安定性を高める「ソロニットバンド」に加え、頭頂部と後頭部に接する2本のストラップで安定性を高める「デュアルループバンド」が付属する。ソロニットバンドはダイヤルを回すと締め付け具合を調節できて面白い仕掛けなのだが、どちらのバンドを試したとしても、重量は手前に偏るため、重たいと感じてしまう。
重たいか軽いかは人によって意見が異なるようだ。少しでも軽くなり、頭に何かを載せている感が減らなければ、万人への訴求は難しいだろう。メガネのような形状に進化するかどうかは確約できないが、そうなるとまた違った印象を持つことは間違いないはずだ。
付属のバッテリー(単体での販売価格は3万4800円)も353gと重たい。常に手に握っておく必要はないため、ポケットに入れるなり工夫した方がよい。
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