今回EVERINGを装着し、特に利用したいと感じたのが公共交通機関だ。そこで、最後にタッチ決済と交通機関の関係にも触れていこう。
ここ数年で、Suicaなどの交通系ICカードではなく、クレジットカードのタッチ決済を導入するバスや私鉄が増えている。これは導入費用の他、インバウンド需要に対応できるという部分も大きい。
EVERINGでのタッチ決済も電車・バスでの利用はできないとされていたが、7月になり公共交通機関での利用に対応すると発表された。
EVERINGのような指輪型の決済アイテムで公共交通機関を通れるとなれば、いちいちスマホをかざす、左手をひねってウォッチをかざすといった動作をしなくてもより楽に改札を通過できる。
ただ、EVERINGもプリペイド型クレジットカードならではの制限がある。公共交通機関への支払いは都度払いではなく、翌日に減算される。さらに、チャージ残高が不足していると公共交通機関での利用が制限されてしまう。安心して利用するには、下限金額を多めに設定したオートチャージが必須といえる。
なぜ、Suicaなどの交通系ICカードのようにすぐ決済できないのだろうか。交通系ICカードは都市部の混雑時でもスムーズな改札処理を実現するため、0.2秒以内に認識から決済までを完了できるという前提で開発されている。このためクローズドな設計で、FeliCa採用に加えて、支払い時はカードにチャージした残額を減算するだけのプリペイド型電子マネーを採用している。
だがタッチ決済はクレジットカードの後払いなので、決済時にオーソリゼーションと呼ぶ承認手続きが必要になる。店舗のレジでタッチ決済を利用すると認識は高速だが、決済端末の処理に長ければ数秒かかる状態だ。クレジットカード決済はさまざまな国際ブランドや企業のシステムを利用する(交通系ではオープンループとも呼ばれる)ので、一企業の努力による高速化は難しい。さらに、公共交通機関は入場した駅を記録し、駅から降りる際に支払金額を決定する独特な処理が必要だ。処理に時間がかかると、人の少ない電車やバスでも行列ができかねない。
このため公共交通機関のタッチ決済システムは、改札の入出場時の認証を素早く実施し、時間のかかる決済処理は後ほど行うことが多い。EVERINGで公共交通機関の支払い金額が翌日の減算されるのも、この仕組みによるものだろう。EVERINGのようなプリペイド型クレジットカードは便利だが、この点で若干の制約を受けることになる。
また、公共交通機関をタッチ決済や、EVERINGのようなプリペイド型クレジットカードのタッチ決済で利用する場合、現在のところは私鉄やバスの導入や実証実験にて決まったエリアでの乗車券にしか利用できないことが多い。今後より快適に利用するには、各社の導入が全駅や複数の鉄道会社をまたぐ利用、定期券に相当するサービスなどの提供が必要だろう。
最後に、前述の写真のように近年増えている「Suicaなどの交通系IC」「タッチ決済」「QRコードリーダー」の3通りに対応している改札について少し触れておこう。近年の流れとして、非接触ICカードやスマホ利用の増加により「紙の磁気きっぷ」を廃止する流れがある。さらに、インバウンド対応を含むタッチ決済への対応、スマホアプリを活用した特殊な企画乗車券の発行などさまざまなニーズに対応する必要が出てきている。ここから、各社とも複数の方式に対応した改札の導入や実証実験を行っているというわけだ。
主な特徴を下記に記載した。交通機関各社によって異なるだろうが、当面はどれか1つに絞るのではなく、用途に応じて最適な方法を併用することになるだろう。もちろん、各方式の方針や仕様の変化でバランスが大きく変わる可能性もある。
タッチ決済と合わせて増えているのが、光学センサーで読み込む紙のQRコードきっぷだ。磁気きっぷと違い、複雑な機械のメンテが不要になる。沖縄のゆいレールや北九州モノレールで用いられていたが、今後はJR東日本など関東8社も2026年以後に置き換え予定。また、複数の公共交通機関がスマホアプリのQRコードを用いた企画乗車券を発行している現在は各公共交通機関ともタッチ決済やQRコードの採用の他、磁気切符の廃止を進めているなど流動的な状況だ。今後数年で公共交通機関の決済がどう変わっていくのかも要注目だ。
(製品協力:NTTドコモ)
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