NTTドコモは、12月29日と30日に東京ビッグサイト(東京都江東区)で開催されるコミックマーケット105に向け、通信品質向上のための対策を実施する。その2日前にあたる27日、一部の報道関係者を招き、具体的な対策内容を明らかにした。
コミックマーケット(以下、コミケ)は、世界最大規模の同人誌即売会であり、1975年以降、東京ビッグサイトを主な会場として夏と冬の年2回開催されている。そのため、「夏コミ」「冬コミ」と呼称されることも多い。来場者で大混雑が予想されるコミケでは、通信品質の低下が懸念されるが、ドコモはどのように対策を講じるのだろうか。
首都圏支社 ネットワーク部 移動無線計画担当の担当課長である加藤明雄氏と、同部の主査を務める古橋彬氏の2人が、報道関係者の取材に応じた。
集客イベントでは、トラフィックの輻輳(ふくそう)により、体感的につながりづらくなる。輻輳とは、さまざまな物が1カ所に集まることや、混み合うことを指す言葉だ。 通信業界では、大勢の人が同じ場所で同時に回線を利用することなどを理由に、トラフィックが増えてネットワークが混雑し、結果としてつながりづらくなる。
このような状況に陥らないため、ドコモではカバーエリアの調整、周波数間分散、臨時基地局の運用、周辺基地局への設備増設などで、集客イベント開催時におけるトラフィックの輻輳対策を実施している。周波数間分散とは、浸透性の高い特定の周波数に、多くの端末が接続しすぎないようにするチューニングを指す。
これらの対策は、ドコモが以前のコミケでも実施してきた内容だが、2023年の夏コミでは、ドコモの5G通信の整備が遅れたことから、来場者からは厳しい意見が多数寄せられたそうだ。これを受け、ドコモは段階的に設備更新を進めた結果、2024年の夏コミではポジティブな意見を多数寄せられたという。
ドコモが8割以上とするポジティブな意見としては「今年のコミケドコモ回線が通信できる。すごい。」「ところでこれだけは声を大にして言いたいんだけどさ、コミケ会場内結構ドコモがつながる」「ドコモやればできるじゃねーか。コミケの電波問題なかったぞ」などが、残り約2割のネガティブな意見としては「コミケでのドコモのつながらなさはマジで異常」「コミケでスマホの設定を見たら5Gがオフになっていた」「5Gはスループットが出るのに、4Gだと出ないよ」などが挙がった。
こうした声を踏まえ、ドコモはコミケ105で、「5Gを重点的に強化」する。加藤氏は、「スマートフォンで5Gをオン(有効)にすると、すごくつながりやすくなることを、皆さんご認識いただければ」とアピールした。
では、具体的にどう対策しているのか。場所ごとに解説する。
東待機列では、2023の冬コミから2024年の冬コミへのアップデートとして、移動基地局車の全面的な5G化を実施した他、可搬型基地局を配置し、電波のカバー範囲を可能な限り等間隔にし、通信を行うユーザーをバランスよく小分けにすることで、電波間の通信速度のムラが生じないようにした。
2024年の冬コミでは、これらに加えて、移動基地局車にMassive MIMO Unit(以下、MMU)と、4G LTEの3.4GHz/3.5GHz帯を追加した他、5G SA(スタンドアロン)化を図る。
MMUは、通常より多くのアンテナ素子を搭載したMassive MIMO対応の無線装置。これに、電波を特定の方向へ飛ばす「ビームフォーミング」と合わせて、より多くの通信を処理できる。
ドコモいわく、MMUによって従来の5Gアンテナよりも2倍以上の通信性能を発揮できることから、2024年の冬コミに限らず、スタジアムなどの通信品質改善にも、2023年から段階的に活用している。
5G SAは、4G用のコア装置を用いて4G基地局と5G基地局の電波を併用する5G NSA(ノンスタンドアロン)とは異なり、5G専用のコア装置(5GC)と5G基地局というシンプルな構成で、4G LTEに依存しない独立した(=スタンドアロンな)ネットワークを利用し、「超低遅延」「超多数接続」を生かせることから“真の5G”といわれている。
西待機列では、2023年の冬コミで臨時の5G基地局を構築し、2024年の夏コミで臨時基地局から発射する5G周波数を追加。待機列の西側に向けて、より強く、遠くまで電波が届くよう、西向きアンテナの高さを上げた。2024年の夏コミでは、その周辺の基地局がドコモユーザーの密集エリアを狙うように、アンテナの向きを変更した。
2024年の冬コミでは、西待機列の臨時基地局においても、MMU、4G LTEの3.4GHz/3.5GHz帯の追加に加え、5G SA(スタンドアロン)化を実施し、イベント終了以降も常時設置する恒久設置局とする。
特に、4G LTEの3.4GHz/3.5GHz帯の追加については、SNSの声を参考にしているようだ。「ドコモのユーザーさんの中には、ピンポイントで速度測定の結果と地図をアップしてくださる、熱心な方がいらっしゃる。ドコモは定点測定をするチームと、自由に動き回り調査を行う遊撃班というチームに別れ、遊撃班の司令塔から気になるツイート(ポスト)があるから現場へ向かえ、と指示を受けて現場を調査し、3.4GHz/3.5GHz帯を追加することがある」(古橋氏)
MMUは、京都競馬場で10月20日に開催された「菊花賞」や、北陸のイベントでも、ドコモが活用していたものだが、これを関東で活用するのはコミケ105が初めてとのことだ。
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