「かけ放題」悪用の“トラフィック・ポンピング”はなぜ起きた? ドコモとColtの訴訟から考える、接続料の問題点石野純也のMobile Eye(1/3 ページ)

» 2025年03月29日 06時00分 公開
[石野純也ITmedia]

 NTTドコモは、3月24日に英国に拠点を構えるColtテクノロジーサービスに対し、過払いになっていた接続料の返還請求訴訟を提起したことを発表した。

 これに対し、Colt(コルト)も3月25日にプレスリリースでドコモに反論。ドコモが根拠とする総務大臣裁定を「不当かつ不公正なもの」(Coltのプレスリリース)として、裁定への不服を総務省と東京地方裁判所へ申し立てていることを明かした。

 ドコモが訴訟を起こした背景には、Coltが提示した接続料の算定根拠が不明確だったことや、その接続料を発信者に還流させる「トラフィック・ポンピング」が発生したいたことがある。2021年には、Coltと契約を結んでいたとされるBISの実質的な経営者や社長が組織犯罪処罰法違反で逮捕されていた。

 では、争点になっている接続料とは何か。トラフィック・ポンピングはなぜ起こったのか。その仕組みや訴訟の背景を解説する。

ドコモ ドコモは、3月24日にColtテクノロジーサービスに対し、訴訟を提起したとは発表した。これに対し、Coltは翌25日にドコモへの反論を掲載している

接続料とは何か? ドコモに過払い金が発生した理由

 異なるキャリアの電話がつながるのは、お互いのネットワークが相互に接続しているためだ。これによって、ドコモのユーザーがau、ソフトバンク、楽天モバイルの電話番号に電話をかけたり、逆に電話を受けたりできる。ここで挙げたのはモバイルキャリアだけだが、実際には固定通信のキャリアとも相互接続をしている。今回、ドコモに訴えられたColtも、固定電話のサービスを提供している事業者だ。

 ただし、この相互接続は無料ではない。日本では、発信側のキャリアは、着信側のキャリアに接続料を支払うルールが設定されている。これを接続料やアクセスチャージ、もしくはデータ通信と区別するために音声接続料と呼ぶ。例えば、ドコモの場合、一般の料金プランでは30秒22円という通話料を設定しているが、これは接続料の支払いまで加味した金額になる。

ドコモ 総務省の「着信事業者が設定する音声接続料の在り方について」から抜粋。着信側が設定した音声接続料を、発信側の事業者が負担する

 2023年度に総務省に届け出た2024年度に暫定的用される数値(税別)は、ドコモは1秒あたり0.041526円、KDDIは0.045747円、ソフトバンクは0.053904円に設定されている。3分あたりに換算した参考値はそれぞれ7.47円、8.23円、9.70円になる。実際の精算は総数を差し引きする形になるが、概念を理解しやすいよう、ドコモのユーザーがKDDIとソフトバンクのユーザーにそれぞれ3分ずつ電話したケースを見ていくと、以下のようになる。

ドコモ 各社が届け出ている2024年度の接続料。ドコモが最も安く、それにKDDIとソフトバンクが続く形だ

 まず、KDDIは3分換算の接続料が8.23円のため、ドコモは同社に対してこの金額を支払うことになる。ソフトバンクに対しては、9.70円。6分間の通話に対して、2社合計で17.93円の接続料がかかる。ドコモはユーザーに対し、税別で30秒20円を課している。そのため、6分で240円の収入を得られる。ここから、17.93円を引いた222.07円がドコモの取り分になる計算だ。

 逆に、ドコモがKDDIとソフトバンクのユーザーからそれぞれ3分ずつ着信した場合には、KDDIとソフトバンクから7.47円ずつを受け取る。合計額は14.94円だ。こうした持ち出しがあり、しかも従量課金になっているため、かつては自社ネットワークに限った通話定額も存在した。午前1時から午後9時まで、ソフトバンク同士の通話が無料だった「ホワイトプラン」はその一例。ウィルコム(現・ソフトバンク)の「ウィルコム通話定額」も、同様の理屈だ。

ドコモ それぞれが算出した音声接続料を、発信側が着信側に支払う仕組みだ。2024年度の数値を当てはめると、上記のようになる

 音声接続料の差が大きいことは、たびたびキャリア間の火種にもなってきた。特に、この額が最も安く、ユーザー数の多いドコモは、他社への接続料の支払いが大きくなりがちだ。2009年には、同社の経営企画部長だったドコモの加藤薫氏(後の代表取締役社長、現在は三菱UFJフィナンシャルグループ社外取締役)が、ソフトバンクの接続料が高すぎると名指しで批判したこともあった。今回、ドコモがColtに対して起こした訴訟は、この接続料の超過支払い文の返還を求める内容になっている。

 ドコモの訴訟に話を戻すと、同社はColtに対して接続料が高止まりしているとして、協議を続けてきたものの、2015年以降の水準には合意ができていなかった。ただし、その場合でも接続協定に基づいて合意後の精算を前提に、最終合意年度の接続料を支払ってきた。その一方で交渉が不調に終わったため、ドコモは電気通信事業法に基づく総務大臣裁定を申請。Colt側が接続料の十分な根拠を提示しなかったことなどを理由に、総務大臣裁定では、NTT東西が接続料算定で採用する「長期増分費用(LRICモデル)」を使ってこれを確定させた。

ドコモ 総務大臣の裁定。一部黒塗りになっているが、Colt側が十分な根拠が示されなかったことが記載されている。結果として、NTT東西と同じ算定方式を採用すべきとの結論が出た格好だ

 総務大臣裁定は、その内容で合意が取れたと見なされるため、ドコモはColtに対して過払い分の返還を請求した。ところがColtはこの裁定を「不当かつ不公正」として、総務省および東京地方裁判所に不服を申し立てている。裁定が不服であるがゆえに、ドコモへの返還は行わないという理屈になる。

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