これだと接続料はColtにのみ入り、BISはドコモに対してユーザーとして音声通話定額の料金を払うだけになってしまう。この2社を結び付けたのが、「着信インセンティブ契約」だ。これは、着信事業者が発信事業者に対して、トラフィックに応じた料金を支払う契約を意味する。ドコモ、Colt、BISのケースだと、ColtがBISと着信インセンティブ契約を結び、ドコモからColtに入る接続料に応じた対価を受け取っていた。
「トラヒック・ポンピングの発生に係る着信インセンティブ契約に関する業務改善命令の適用に関するガイドライン」から抜粋。着信事業者側のColtと、発信事業者利用者のBISは、ここに記載のある着信インセンティブ契約を結んでいたというColtを介することで、BISがドコモからの音声接続料を不正に得ていたというわけだ。ドコモによると、この着信インセンティブ契約をBISと結んでいた事実は、Colt側も認めているという。一方で、契約の目的などは守秘義務を理由に開示を拒否している。Coltは、BISの不正が発覚後、契約を解除したとしており、ITmediaの取材に対しても「トラフィック・ポンピングには一切関与していない」とコメントしている。
ただ、現時点では何を目的とした着信インセンティブ契約だったかは明かされていない。また、BISへのサービス提供終了は、「経営陣に対する刑事事件の情報を把握した時点で」(Coltのプレスリリース)としており、それ以前にドコモからの着信が急増したことを疑問視していなかったこともうかがえる。ちなみに、2024年9月には、トラフィック・ポンピングを防ぐことを目的とした着信インセンティブ契約を規制するガイドラインが策定されており、現在では、こうした行為は業務改善命令の対象になる可能性が高い。
総務省「接続料の算定等に関する研究会(第92回)」にドコモが提出した資料から抜粋。一部の事業者は極端にドコモからの発信した比率が高く、トラフィック・ポンピングの疑いがあった。ガイドライン策定後に協議した結果、着信インセンティブ契約を結んでいた事業者への発信が急減したという今回の訴訟は、総務大臣裁定に基づく過払い接続料の返還を求めるもので、Coltがトラフィック・ポンピングに関与していたかどうかを問うものではない点には留意が必要だ。一方で、ドコモがColtの着信インセンティブ契約を強く問題視し、トラフィック・ポンピングの要因になったと考えていることも行間から伝わってくる。実際、ガイドライン策定後にトラフィック・ポンピングの疑いがある事業者と協議をした結果、ドコモからのトラフィックが約90%も急減したという。
とはいえ、キャリア間の音声接続料には依然として差がある上に、大手キャリア以外の非指定事業者には接続料水準の規制もかけられていない。そのため、手法を変えた新たなトラフィック・ポンピングが起こることも考えられる。現状では、ドコモやKDDIの提案が実り、お互いに接続料を求めない「ビル&キープ方式」も選択できるようになったが、事業者間の協議が必要になることもあり、原則化には至っていない。訴訟の結果によっては、この議論が再び注目を集める可能性もありそうだ。
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