Pura 80 Ultraは米国制裁の関係からAndroid OSと決別し、独自OSのHarmonyOS NEXTを採用している。従来のAndroidベースのHarmonyOSとは全く異なり、Android向けのアプリのインストールはもちろん、adbコマンドも受け付けない「全く別環境のスマホ」になっている。
その影響か、表示言語に日本語は存在せず、英語と中国語のみとなる。加えて日本語入力環境も不十分で、この6月に入ってようやくソフトウェアキーボードで最低限の文字入力ができるようになった。それでも極めて使いにくいことには変わらない。
日本語による音声入力はβ版のときから可能だったが、こちらは中国人観光客が訪日した際に、音声でコミュニケーションを取るための機能で、日本人向けの機能ではない。
各種アプリケーションが中国向けに最適化されており、公式のアプリストア「App Gallery」に日本向けのアプリがないことも、中国以外での使いにくさを加速させている。
独自OSとなったHarmonyOS NEXTだが、意外にもAndroid向けのアプリを動かせる仕組みも用意されている。アプリ不足解消に加え、中国から海外へ渡航する際に不便なく使えるよう配慮されている。
Androidアプリを動かす仕組みとして、プリインストールされている「安易卓」とGoogleサービスを一部利用できる「出境易」というアプリが用意されている。
これらを組み合わせることで、Google Chrome、Gmail、Google MapsなどのGoogleアプリに加え、FacebookやX、LINEといったSNS、PayPayなどの決済サービスも利用できた。ゲームに関しても原神や崩壊スターレイルなどに加え、学園アイドルマスターといった日本IPのコンテンツも問題なく動作する。出境易が入っていればGoogle Play経由のアプリ内課金まで難なく行えた。
この仕組みのおかげで、HarmonyOS NEXTのスマートフォンを日本でも全く利用できないわけではないのだが、われわれが普段から利用するiPhoneやAndroidスマホに比べると使い勝手は大きく劣る。購入を考える場合は「日常的には使えないもの」「2台目前提のスマホ」と考えた方がいいだろう。
Pura 80 Ultraを使って驚いたのは、Huaweiが制裁を受けてもなお、ここまで高いレベル製品を出せること。特にカメラは、Xiaomi 15 UltraやOPPO Find X8 Ultraといった競合の同世代機と比べても、全く引けを取らない高い性能を示している。カメラハードウェア、ソフトウェア含めた「技術のHuawei」をまざまざと見せつけられた。
基本性能もプロセッサの進化、HarmonyOS NEXTへの完全移行で不自由ないくらいまで高められており、ベンチマークスコアなどからもP60シリーズなどに迫る高性能を見せつけている。制裁下でも高性能なスマートフォンを出し続けられることに驚きを隠せない。もはや何かの魔法でも使っているのではないかと思わせるレベルだ。
そんなPura 80 Ultraの存在は晴れて「復活のHuawei」から次のフェーズに移った製品と評価したい。Mate 60シリーズは「制裁を回避した商品」、Pura70シリーズは「グローバル展開」という意味での復活だったが、Pura 80 Ultraは技術的にも、グローバル展開でも中国メーカーとしての意地を感じられる製品でもある。
特に部品やソフトウェアの内製化がさらに進んでおり、SoCには全て独自設計のコアを採用し、中国SMICにて製造されている。メモリやストレージなどの核となる半導体部品も中国メーカーが担当した。
これに加えてディスプレイや1型のイメージセンサーも中国メーカーが担当していることが明かされており、複雑な望遠カメラのメカ機構、可変絞り機構なども内製されている。Pura 70シリーズよりも部品の内製化率をさらに高めている。
HarmonyOS NEXTを採用したことで、Android OSからも決別し、根幹的なソフトウェアの内製化まで達成した。まさにHuaweiの意地と中国内のサプライヤーが持つ技術の結晶として世に送り出したスマートフォンなのだ。
Pura 80シリーズは、中国以外でも欧州や中東、東南アジアをはじめとした20を超える国と地域で販売され、中東やアジアパシフィック地域では発表会も行われた。これは自国製プロセッサやイメージセンサーをはじめとした半導体を安定供給できることを示す。
一方で、グローバル版は中国大陸向けとは一部仕様が異なる状態で発売される。OSはHarmonyOS NEXTではなく、EMUI 15.0に変更され、5G通信や衛星通信機能などにも対応しない。Mate X6と同じであれば、グローバル向けはAndroidベースのHarmonyOS が採用されているため、日本語での表示やAndroid向けアプリの動作が可能だ。
Pura 80シリーズの価格は中国向けでPura 80が4699元(約9万7000円)から、Pura 80 Proが6499元(約13万4000円)、Pura 80 Pro+が7999元(約16万5000円)から、今回レビューした最上位のPura 80 Ultraは9999元(約20万6000円)からの設定となる。
Huaweiのスマートフォンは他の中国メーカーの製品と比較すると全体的に高価だが、中国向けのiPhone 16 Pro Maxが9999元。Galaxy S25 Ultraが9699元(いずれも256GB)であることを考えると、最上位のPura 80 Ultra(512GB)の価格も特別高価ではないことが分かる。
中国メーカーの製品は品質や性能で劣ると指摘され続けたが、このスマホを見せつけられると、他国の高品質な製品に真っ向勝負できるところまで進化したと実感する。今回はハードウェアだけでなく、重要な半導体部品やOSを含めたソフトウェアまで内製化。まさに中国の英知を結集し、意地をみせつけたカメラスマホへ進化した。
日本ではGoogle系サービスが満足に利用できず、中国向けはAndroidスマホでもなくなった関係で「あえて買うか」と問われると厳しい選択になる。それでも、Huaweiのスマートフォンのカメラに感じた「わくわくさ」をずっと追いかけ続けたファンを決して後悔させない仕上がりだ。
佐藤颯
生まれはギリギリ平成ひと桁のスマホ世代。3度のメシよりスマホが好き。
スマートフォンやイヤフォンを中心としたコラムや記事を執筆。 個人サイト「はやぽんログ!」では、スマホやイヤフォンのレビュー、取材の現地レポート、各種コラムなどを発信中。
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