GalaxyやXiaomiといった新型スマートフォンに沸き立つ中、中国ではHuaweiの最新スマートフォン「Pura 70」シリーズが話題を集めている。Puraシリーズは、従来の「P」シリーズから名称を変更したハイエンド系のシリーズ。
今回、筆者は「Pura 70 Ultra」の実機を入手したので、レビューしよう。今回のレビューは電波法第103条の6の解釈のもと「海外で開通した携帯電話」を持ち込んで確認を行った。
まずは、主なスペックを見ていこう。
Pura 70 Ultraが採用しているプロセッサは、HiSilicon Kirin 9010を搭載していることが判明している。中国の半導体ファウンダリーであるSMICにて製造されており、製造プロセスは7ナノメートルと判明している。
これはMate 60 Proに採用された「Kirin 9000S」とは異なるもので、新型の製品と考えられる。HuaweiのPuraの前にあたる「Pシリーズ」で新型のプロセッサが採用された例はまれだ。
プロセッサのコア数は1+3+4の8コアだが、プライムコアとビッグコアの4コアが1コア2スレッドを担える仕様と判明している。Intelのプロセッサにある「ハイパースレッディング・テクノロジー」と同じようなものだ。そのため、システム情報表示アプリでは「12コア」と表示される。Kirin 9010はスマホ向けプロセッサとしてはKirin 9000S同様の8コア12スレッドのSoCと考えるべきだ。
このような書き方をする理由として、メーカーの公式サイトなどの情報にはプロセッサの記載が一切ないからだ。加えて、プロセッサに関しては発表会も行われることなく発売されたため、購入者が調査する必要がある。
そんなKirin 9010の基本性能は決して低くなく、昨今のハイエンドスマートフォンに匹敵する性能を持ち合わせる。名称から察するにMate 60 Proに採用されたKirin 9000Sのマイナーチェンジと思いきや、コア構成が一部変更されていることも判明した。グラフィックスに関しては、GPUにKirin 9000S同様の「Maleoon 910」を搭載していることが判明している。
気になる性能について、簡単にベンチマークテストを行った。筆者が計測したベンチマークスコア(パフォーマンスモード)では、GeekBench 6でシングル1435点、マルチ4414点だった。これはGoogle Pixel 8などに採用されるTensor G3よりも高いスコアで、マルチコアではKirin 9000Sの20%増のスコアが出ている。
グラフィック性能は3D Markで計測した。結果はWILD LIFE(Vulkan)で5710という結果で、これはTensor G3に迫るスコアだ。
また、「原神」などの一部ゲームでは高度な最適化も行われていることが判明している。ベンチマークテスト上での数字で劣るプロセッサながら、原神の動作感はSnapdragon 8 Gen 2クラスを採用する機種にも引けを取らないのだ。
スマホとして使ってみると、上記のような性能を持つだけあって、動作にストレスは感じない。パフォーマンスモードで使用してもバッテリー消費はさほど多くなく、問題なく利用できる。メモリは12GBで、8GBが多かったHuaweiとしては大容量の構成だ。
さて、今回のPura 70 Ultraも海外で試した限りでは“5G通信に対応している可能性が極めて高い”スマートフォンと結論付ける。既知の通り、米国のHuaweiに対する制裁は今もなお続いており、2023年の「Mate 60」シリーズの登場以降はより厳しくなっている。そのため、5G対応機器や最新プロセッサ、先端半導体の製造機器調達には大きな制限がかかっている。Pura 70 Ultraはそれを自国製造という力業で米国の制裁を回避した形と考えられる。
5G対応について曖昧な表記としている理由は、Huaweiも公式にはPura 70シリーズが「5G通信対応」とは明記していないからだ。今回もメーカーサイトには5Gどころか4Gの対応周波数バンドの記載すら一切ない。
この機種も例にもれず、アンテナピクトは4Gまでは示すものの、5Gの電波を受信している可能性がある場合はアンテナピクトに4Gなどの表記がなくなる。もちろん、端末側にネットワークの優先受信設定などはない。
そんな端末が本当に5G通信に対応しているのか。筆者も実際に試してみたところ、日本の通信網でも安定して200Mbpsを記録した。瞬時値では1Gbpsを超える値を計測するなど、一般に4Gの理論値といわれる1Gbpsに迫る値を複数回計測した。
日本未発売の海外端末かつ、中国本土以外の4Gキャリアアグリゲーションへの対応や最適化も不十分なことを踏まえると、この数字は4Gスマートフォンとしては考えにくい。実測で1Gbpsに迫る高速通信が可能なことから、今回のPura 70 Ultraも「5G通信に対応している可能性が極めて高い」と結論付ける。
ここからはスマートフォンとして見ていこう。6.8型の有機ELディスプレイは120Hzのリフレッシュレートに対応している。少し前のトレンドであった3Dガラスのような仕上げとなっており、質感や画質に関しては価格相当の良質な仕上がりとなっている。自社開発の強化ガラス「Kunlun Glass」を採用し、高い耐久性も備えている。
また、画面ベゼルは上下左右面均等配置の構成だ。ディスプレイの輝度も向上しており、手動でも比較的明るい「iPhone 15」や「Galaxy S24 Ultra」を上回る輝度を出せる。
本体は合成皮を採用しており、ガラス製のボディーを採用したスマホとは異なる上質な仕上がりだ。日本円で20万円を超えるグレードの商品だけあって、価格に見合った高級感も兼ね備えている。実は過去のPシリーズでもレザー仕上げのものはなく、今回のPura 70 Ultraが初めて。同シリーズ内でも異色の存在感を示している。
Pura 70 Ultraではバッテリー容量も5200mAhへ増加。こちらも競合他社の製品と比較しても遜色のない仕上がりだ。この他に100Wの急速充電に対応。ワイヤレスでも80Wの急速充電が可能で、ワイヤレスイヤフォンなどを充電できるリバースチャージにも対応する。
Pura 70 Ultraの大きなアピールポイントとしては、衛星通信対応とHarmonyOS 4.2になる。この衛星通信機能は中国版GPSの「北斗」を用いており、緊急発信やSMS送信は同衛星の双方向通信を利用している。
Mate 60 Proシリーズ同様に「天通」による衛星通話にも対応するが、上位モデルのPura 70 Ultraでは北斗と天通の電波を同時に利用することができる。このため、通話しながらのメッセージ送信、SOS信号の発信が可能だ。
北斗ではテキストの他、HarmonyOS 4.2で画像送信にも対応した。今のHuaweiのスマートフォンはある種の衛星携帯電話といえる存在なのだ。
OSはHarmonyOS 4.2を採用。同社が提唱する“シームレスな接続”を売りにしており、対応している家電や自動車などとの連携機能がより強化されている。システム情報表示アプリではAndroid 12と表示され、一般的なAndroidスマートフォン向けのアプリが動作する。
なお、中国ではハードウェアに限らずソフトウェアの内製化も進めている。2024年中に発表される見込みのHarmonyOS 5.0は「Harmony Next」とも言われており、AndroidベースのOSではなくなると予告されている。このため、Pura 70シリーズがHuawei最後のAndroidスマートフォンとなる可能性が高い。
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