ソニーは5月15日、報道関係者向けにXperiaの新商品体験会を開催し、最新フラグシップスマートフォン「Xperia 1 VIII(エクスペリア・ワン・マークエイト)」を披露した。東京都渋谷区・代々木上原駅前の会場「OPRCT(オプレクト)」には多くのメディアが集まり、新たなカメラ機能や刷新されたデザインのデモンストレーションが行われた。
しかし、発表に合わせて大きな波紋を呼んだのが、その強気な価格設定だ。SIMロックフリーモデルの市場想定価格は、最も安価なメモリ12GB/ストレージ256GBモデルで23万6000円前後、最上位の16GB/1TBモデルに至っては30万円前後とアナウンスされた。
2025年に発売した前モデル「Xperia 1 VII」の市場想定価格は20万5000円前後(12GB/256GB)からだった。これを考えると、同等の構成でも3万円を超える大幅な値上げとなっている。昨今のスマートフォン市場においても、約24万円〜30万円という価格帯は超がつくほどのプレミアム価格だ。
なぜソニーは、これほどの値上げに踏み切ったのか。そして、どのようなユーザーに向けてこの端末を届けようとしているのか。新商品体験会後に行われた質疑応答にて、ソニーのイメージングコミュニケーション事業部門 事業部門長である大澤斉氏がその背景と狙いを明らかにした。
質疑応答の場で、前モデルから大きく価格が上がっていることに対する価格施策の考え方を問われた大澤氏は、率知にコスト上昇の波が直撃している現状を次のように説明した。
「皆さまがよくご存じの通り、昨今のメモリ需要の急増による価格アップに加え、人件費、工場の製造費、物流費などを含めていろいろなものが値上がりをしている時代だ。メーカーとしても価格を抑える努力は引き続きしているが、今回はあの価格付けをさせていただいた」
大澤氏の言葉からは、スマートフォンの製造を取り巻くマクロ経済的な厳しさがうかがえる。世界的なAI需要の拡大に伴うメモリ価格の高騰に加え、製造拠点での人件費上昇やエネルギーコスト、さらに国際的な物流費の高騰など、あらゆる面でコスト増圧力がかかっている。ソニーとしても企業努力で吸収できる範囲を超え、製品価格に転嫁せざるを得ない状況に直面しているようだ。
しかし、大澤氏は単なるコスト高による値上げだけではないと強調する。
「価格というのは去年より上がった・下がっただけではなく、(製品の)価値に対する対価の目安だと思っている」(大澤氏)
つまり、約24万円からという高額な価格は、Xperia 1 VIIIがユーザーに提供する価値に絶対的な自信を持っている証左なのだ。
では、ソニーが提示する価値とは具体的に何を指しているのか? 大澤氏は大きく2つのポイントを挙げた。
1つは、刷新されたカメラハードウェアだ。3眼ともフルサイズセンサー並みの暗所性能を持つような提案をしていると大澤氏が語る通り、Xperia 1 VIIIのハードウェア進化は著しい。
Xperia 1 VIIIは、これまでのXperia 1シリーズと同じく、超広角・広角・望遠の3眼レンズを搭載。このうち、望遠カメラのセンサーを前モデル(Xperia 1 VII)の1/3.5型から約4倍となる1/1.56型へと大幅に大型化したことで、焦点距離16mm、24mm、70mmの3眼全てが、静止画の耐ノイズ性能およびダイナミックレンジにおいて、ソニー製のフルサイズセンサー搭載デジタルカメラと同等の暗所性能を持つという。
もう1つは、ソフトウェア面での大きな進化である新機能「AIカメラアシスタント」だ。
大澤氏は、今回提案したAIカメラアシスタントも含め、こうした価値をどのようにユーザーに受け入れていただけるかというところを注視していると語る。
AIカメラアシスタントは、AIが被写体や天気などのシーンを認識し、ソニーのデジタル一眼カメラ「α(Alpha)」で培ったクリエイティブルックをもとに、最適な色合いやぼけ表現などを提案する機能だ。カメラの専門知識がなくても、タップするだけでプロのような印象的な絵作りが可能になる。
他にもアップデートは多数存在しているが、ハードウェアの圧倒的な進化と、AIによるソフトウェアのアシスト――の両輪こそが、ソニーがアピールする価値の正体だ。
こうして見ると、いわゆるプレミアムな価格となったXperia 1 VIIIだが、一体どのようなユーザーに向けて作られているのだろうか。
大澤氏はターゲットユーザーについて、「クリエーションという活動に非常に興味を持っているユーザーにぜひ使っていただきたい」と話す。この点は、「Xperia 1」(2019年)の発表と同時に導入された「好きを極めたい人々に、想像を超えたエクスペリエンスを」というスローガンからぶれていないようだ。
ソニーはこれまでもクリエイターという言葉を用いてきたが、それは必ずしもプロの映像制作者や写真家だけを指すのではない。SNSで日常を魅力的に発信したい人、旅行の思い出を最高品質で残したい人、あるいはこれから本格的な創作活動を始めたいと思っている人など、何かを創り出すこと(クリエーション)に情熱を傾ける全ての人がターゲットとなる。
また、ラインアップ全体におけるXperia 1 VIIIの位置付けについても、大澤氏は明らかにした。
Xperia 1シリーズはXperiaシリーズの中でのフラグシップモデルに位置付けている。エントリーでもミッドレンジでもない、正にハイエンドモデルだ。「ここに惜しみない技術とそれをベースにした体験をお届けすることを考えながら、フラグシップとして恥ずかしくないモデルを出している」(大澤氏)というのが、今回の提案だ。
廉価モデルやミドルレンジモデルが市場の大半を占める中、Xperia 1シリーズは常にソニーの技術の粋を集めたショーケースとしての役割を担ってきた。コストダウンのために機能を削るのではなく、スマートフォンの枠を超えた本物の体験を提供するために、出し惜しみをしない。それがフラグシップとしてのソニーの意地であり、約24万円からという価格にもその哲学が貫かれている。
一方で、この強気な価格設定が市場にすんなりと受け入れられるかどうかは、予断を許さない状況もある。
その背景にあるのが、2025年に発売した前モデルXperia 1 VIIで発生した重大な不具合の記憶だ。Xperia 1 VIIでは、基板の製造工程における温湿度管理の不備が原因で「頻繁に再起動がかかる」「突然電源が落ちる」「最終的に電源が入らなくなる」といった致命的な不具合が発生し、ソニーは無償交換や一時販売停止という異例の対応に追われた。
交換対応に時間がかかったこともあり、購入したユーザーに多大な不便と手間をかける結果となった。この直近のトラウマがあるため、SNS上などでは高額なXperia 1 VIIIに対して、「去年のような不具合がないか、まずは様子を見たい」「初期の不具合なく立ち上がってほしい」といった警戒感や買い控えの声も少なからず上がっている。
これに対しソニーは、製造工程における品質管理の強化やリスク評価体制の見直しといった再発防止策を徹底している。Xperia 1 VIIIは、そうした逆風の中で、「他社には負けない絶対的な価値を証明しなければならない試金石」となるモデルでもある。
スマートフォン市場全体の価格が高止まりする中、Xperia 1 VIIIが提示した約24万円からという価格は、決して気軽に手を出せるものではない。
しかし、メモリやパーツ価格の高騰という避けられない市況の中で、ソニーはコストカットに逃げるのではなく、フラグシップにふさわしい惜しみない技術と体験を注ぎ込む道を選んだわけだ。フルサイズカメラに匹敵する3眼カメラの暗所性能と、クリエイティビティを刺激するAIカメラアシスタント。これらは、まさにクリエーションに興味を持つユーザーにとって唯一無二の価値となり得る。
果たして、消費者はこの価値に対する対価をどう判断するのか――今後のユーザーの反応が見物だ。
「Xperia 1 VIII」のAIカメラ機能が炎上したワケ 「画質劣化ではなく選択肢の1つ」とソニーは説明
「Xperia 1 VIII」は先代の「Xperia 1 VII」から何が進化した? デザインからカメラ、オーディオまで実機で解説
ソニーが「Xperia 1 VIII」で方針転換を図った理由 一般層に間口を広げるも、23万円超の価格がネックに
「Xperia 1 VIII」発表 背面デザイン刷新で望遠カメラ強化 約23.6万〜30万円前後
「Xperia 1 VII」不具合、「中国工場」が原因ではない? 原因と対策の詳細明らかに、スマホ事業は継続へCopyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.