世界的に普及が進むプロフェッショナル向けSNS「LinkedIn」。公式サイトによれば、2012年2月時点で200カ国以上で利用され、登録ユーザー数は1億5000万人に上るという。昨年にはLinkedInの日本語版サイトがオープンし、リクルート子会社が「Biz-IQ」を開設するなど、日本でのビジネスSNSの普及を期待する声も多い。
こうした中「日本ではビジネスSNSが爆発的に普及しにくい事情がある」と指摘するのは、ビジネスSNSに詳しく「LinkedInをビジネスに使う本」(中経出版)なども手掛ける谷口正樹さん。谷口さんが挙げる“事情”の1つが、仕事とプライベートをめぐる日本人の「民族性」だ。
「日本と海外では、人間関係に対する考え方に“民族的な違い”がある」(谷口さん)。LinkedInの海外ユーザーの多くが「ビジネス」と「プライベート」を分けて人間関係を考えるのに対し、日本人にはSNS上でも人間関係をひとまとめにして考えるタイプの人が多いという。
「例えば、出張などで海外に行った日本人が外国人と名刺交換をして、その後いきなりFacebookで友達申請をしたとしたら『こいつは頭がおかしいのか』と思われてしまう。海外にはそれくらいドライな人間関係観がある」
一方、「日本人は“プライベートとビジネスを分けるなどもってのほか”というウエットな文化がすごく強い」と谷口さん。その結果「いろいろな人が集まるパーティーのような場」であるFacebookに、全ての人間関係が集中してしまうことになるという。
「日本でも、若い人を中心に仕事とプライベートを分けて考えたい人はいるが、現状では切り分けることが難しい。“仕事関係の人ともプライベート関係の人ともみんなFacebookでつながろう”という流れがある」と谷口さん。本来ならビジネスSNSでつながるべき人ともFacebookでつながるため、「何のためにビジネスSNSを使うのか?」という「本来発生しないはずの議論」が生まれてしまうという。
だが、このようにして作られるFacebook上での複雑な人間関係が「Facebook疲れ」を生んでしまうと谷口さんは指摘する。「ビジネス関係の人がプライベート空間であるFacebookに入ってくるというのは“自宅でくつろいでいるときに土足で営業訪問に来られたような感覚”に近い」
Facebook疲れを防ぐためには「自分のソーシャルメディア運用ポリシーを決めることが重要」と谷口さん。例えば「Facebookはプライベート専用として使い、ビジネス関係の人はLinkedInでコンタクトしてもらう」といったポリシーを設け、SNS上での人間関係をコントロールしていくのが重要だという。
ではLinkedInをはじめとするビジネスSNSをどのように使っていくべきか。谷口さんは、日本ではビジネスSNSの使い方に対しても“誤解”があると指摘する。
「FacebookやTwitter、mixiなどが爆発的に普及した影響で、それらと同様にLinkedInにも毎日アクセスしていろいろアクションしなくてはと思ってしまうユーザーが多い」と谷口さん。LinkedInにもユーザー同士でコミュニケーションするための機能はあるが、それらの機能は補助的なもので「基本的には登録して放置しておけばよい」という。
「LinkedInはソーシャルメディアというより“データベースサービス”なので、一番近いのは『タウンページ』。世界中の企業とそこで働いている人たちが登録されているタウンページから、求めるスキルを持った人を探すようなイメージ。こういう使い方を理解しておかないと、毎日アクセスしても何も面白くないし“このサービスはなんなんだ”ということになってしまう」
ビジネスSNSでは、まずは他のユーザーから検索で見つけてもらいやすいプロフィール情報を作成することが重要だという。具体的には(1)自分の過去の経歴、(2)現在の仕事内容、(3)今後やりたいこと――をプロフィールに記入しておくことで、他のユーザーから仕事依頼などを受けやすくなるとのことだ。
実際、谷口さん自身もLinkedIn上で講演や記事執筆の依頼を受けたり、仕事の依頼先を探したりすることが「ちょくちょくある」という。中には「海外のIT企業のCEOから『Facebookページの管理ツールを日本で展開したいのでビジネスパートナーになってほしい』と依頼が来たこともある」と谷口さんは振り返る。
「LinkedInは、ある程度ユーザー数が増えてから価値が生まれるツール。今はとりあえず登録して様子を見るだけでもいいと思う。私の感覚では、LinkedIn上のコンタクト(つながり)が100人を超えたころからいろいろと面白いことが起きてくる」(谷口さん)
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