EOS Kiss Digitalの予備電池に関する一考察 その1――予備電池の容量について考える(2/3 ページ)

» 2004年06月21日 16時00分 公開
[小林哲雄,ITmedia]

リチウムイオン電池の仕組み

 ところで本題に入る前に、リチウムイオン電池の性能や仕組みについておさらいしておこう。

 リチウムイオン電池とひとくちに言っても電池メーカーによって少々差異があるのだが、キヤノンの電池パックは公称7.4ボルトとなっている。リチウムイオン電池の公称電圧は3.6〜3.8ボルトの範囲にあるので、これは3.7ボルトの電池(セル)がパック内部で2本直列になっているのだろう。パック外形から判断すると、内部の電池は業界で「18500サイズ」(大ざっぱに言って直径18ミリ、長さが50ミリ)と呼ばれているものが使われているようだ。

 各社の18500の仕様を探してみると、確かに1100mAhのセルが以前からラインナップされており、大容量版として1300/1400mAhのセルが登場している。つまりBP-511A/BP-514には1400mAhのセルを使っており、何らかの安全係数を含んで、公称1390mAhと言っているのだろう。

 電池は使っていくうちに電圧が下がるイメージがあると思うが、リチウムイオン電池もその例に違わず低下する。電圧低下の幅はニッケル水素電池に比べると大きい。

 実測値で言う限り、手元のキヤノン製充電器「CB-5L」は最大充電電圧が8.40ボルトで、ここから放電に伴い電圧が低下して、電池メーカーの資料を見ると、1セルあたり2.7〜3.0ボルトぐらいまでになる。つまり、2セル分だと、5.4〜6.0ボルトまで放電できる時間と、放電された電流の積が電池容量となる(単位は一般にmAh[ミリアンペアアワー])。

電池の仕様模式図。最大充電電圧が8.40ボルトで、ここから放電に伴い電圧が低下するが、そのあと5.4〜6.0ボルトまで放電できる時間と、放電された電流の積が電池容量となる。デジカメメーカーが規定してる値と、電池本来の性能の間にはバッファが存在する

 充電池の場合、一般に0.2C(公称容量の1/5の数値)で放電した値を容量に使っているが、あくまで電池のスペックであり、実際にインプリメントするときには、そんなに絞りきった使い方をしない。

 ※なお、「C」という単位だが、これは充電池の充放電電流でよく使われている数値で、容量の単位であるmAhのhを抜いた値と思ってほしい。つまり1000mAhの電池があったとして1C放電を行ったと言えば1000mA流していたということで、2C、0.5Cはそれぞれ2000mAh、500mAとなる。

 一次電池の話になるが「デジカメで使う大電流域で従来比2倍以上の性能!」と宣伝しているパナソニックの「オキシライド乾電池」や日立マクセルの「イプシアルファ」が得意としているのは大電流(パルス)放電であり、デジカメの放電が1100mAhの0.2C(つまり220mA)程度で済むとはとても思えない。広告や資料を見ると、オキシライドは1000mWの定電力連続放電テストで評価、イプシアルファは2000mA×2秒+500mA×28秒の5分放電/55分休止条件で評価し、どちらも自社が最高と称している。

 もちろん、電池メーカーも複数の放電グラフを用意しているが、確実に言えることは、「大電流で放電すると利用可能な電池容量が落ちる」ということだ。また、大電流での放電は、電池内部の抵抗要素(内部抵抗)の影響で、得られる電圧も落ちる。

 実際の機器を作る場合は安全圏も見込んでいる。パナソニックの資料を見ると、リチウムイオン電池の使用域は3.0ボルト〜4.2ボルトとなっている。しかし、1本あたり3.0ボルトの電圧になった時点でデジカメが電池切れマークを出すだろうか。答えは否だ。

 現実には撮影→データ処理→メモリカード書き込みを完了するため、これに必要な容量分(+安全マージン)を増やして終了マークを出しており、さらにその上の領域で警告マークを出す。

 手元のKiss Dの場合、開放電圧が7.29〜7.30ボルトの電池を入れてスイッチを入れると、ギリギリ使えるか使えないかのレベルだった。これでスイッチを入れると一瞬7.21〜7.20ボルト程度まで低下し、7.25ボルトで安定していた。

 公称7.4ボルトのキヤノン電池パックが一瞬7.20ボルトまで低下したことから、セルあたり3.60ボルトと、割と余裕がある数字になっていることが分かる。ありていに言って、電池メーカーの容量測定で言うところの放電終了電圧よりも相当高い。このページの冒頭で「何らかの安全係数を含んで、公称1390mAhと言っているのだろう」というのはこの辺に理由がありそうだ。

 つまり、少なくても私の持っているKiss Dは、リチウムイオン電池の容量を使い切らずに終了と言っているわけだ。これは「1100mAhの電池と1390mAhの電池では、後者が26%増しで撮影可能」ではないことを意味する。「どちらがトクか」は単純にスペック上の容量だけで判定できないようだ。

果たして電池はどれくらい持つのか?

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