私が生まれて初めて触ったカメラはレンジファインダーだった。レンズ交換はできなかったけれども、1961年に発売されたキヤノンの「キャノネット」である。子供の頃、うちの親父が持っていたこのカメラを触らせてもらったのが初カメラなのだ。
EPSONの「R-D1」を触ったとき、真っ先にこれを思い出した。巻き上げレバーを引き、露出を手動で決め、ファインダーを覗きながらピントリングを回してピントを合わせ、タイミングを測ってシャッターを押す。すごく懐かしい感覚だ。
しかも、最近のカメラに多い「人間工学」を考慮して湾曲したグリップなんてものもない。非常にシンプルでフラットな昔ながらのデザインで、ずっしりした質感もよい。昔のカメラはみなこうだったのだ。
今のカメラは(デジカメでもフィルムカメラでも)どんどん内部がインテリジェントになり、それこそユーザーはファインダーを覗いて構図を決めてシャッターを切るだけで撮影できるのが当たり前である。ややこしいところは全部カメラが判断してくれるからだ。
しかし、カメラの判断が100%ということはなく、ピンボケしたり露出アンダーになったり、デジカメの場合はホワイトバランスがずれたりすることはあるけれども、多くの人はフルオートで撮ってるはず。デジタル一眼レフでもそうで、一眼レフともなれば各種マニュアル系機能は駆使できるけれども、プログラムAE機能くらいはたいてい持っている。
もはやそれが当たり前だ。
でもEPSONのR-D1はあえてそういう流れに「デジタルでありながら」背を向けたのである。
こういうクラシックなレンジファインダーカメラを、そういうカメラを作ったことがないEPSONが開発するという点に不安を覚える人がいるかもしれないが、ボディや光学設計を担当したのはフォクトレンダーブランドのカメラを復活させ、Lマウントの「BESSA L」やMマウントの「BESSA R2」を開発したコシナ。EPSONとの共同開発なのだ。だからシャッターの構造や距離計はコシナ社の技術を使っており、その点では安心してよいと思う。
能書きはさておき、さっそく触ってみた。
R-D1はレンズ交換式で、レンズは付属しない。ボディだけだ。だから、コシナからフォクトレンダーのレンズもいくつか同時に借りてのテストである。
まずレンズを装着する。CCDはAPS-Cサイズで、ニコンの「D70」などと同様に焦点距離は1.5倍になる。だから28ミリのレンズをつけるとだいたい42ミリ相当になる。ほぼ標準レンズだ。
そのファインダーがでかくて明るい。実際にファインダーは「等倍」。両目を開いて見ると裸眼で見ている左目の風景とファインダーを通して見ている右目の風景が同じ大きさなのだ。
だから見やすいのである。その真ん中に四角い枠があり、そこだけ像が二重になっている。これがレンジファインダーの特徴である「二重像合致式」だ。中央の小さな画像はボディの真ん中あたりにあるい小さな窓から見えている画像である。
すると位置がずれている分、両者の絵はずれる。小さな窓(の奥のミラー)の角度を少しずつ変えると両者が一致するポイントがある。そのときの角度がわかれば、ファインダーと被写体と中央のフォーカス用の小さな窓の3点で直角三角形ができるわけで、底辺の長さと角度が決まれば、被写体との距離が計算で求められるわけだ。
これがレンジファインダーの距離計、及びピント合わせの仕組み。その角度を変えるには、レンズのピントリングを回す。レンズ側のピントリングがボディの距離計と連動することでピント合わせを行う仕組みなのである。
これは確実性が高い。ボディの中央でしかピントを合わせられないし、オートフォーカス化もできないし、瞬時にピントを合わせるのも難しい。でもマニュアルフォーカスという観点においては、一眼レフより確実で正確なピント合わせが可能なのだ。
ただファインダーと撮影レンズの位置が数センチずれているため、ファインダーから見える画像と実際に写る画像にズレができる(パララックス)。ピント位置に応じてファインダー内の枠が動いて実際に写る範囲を示してくれる仕組みになっている。
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