中国製携帯プレーヤーと「mtv」「amv」の謎に迫る山谷剛史の「アジアン・アイティー」(1/2 ページ)

» 2006年04月03日 13時17分 公開
[山谷剛史,ITmedia]

 中国都市部の若者に携帯MP3プレーヤが大人気。携帯CDプレーヤーも人気の商品であるが、筆者の知るほとんどの中国人は「携帯CDプレーヤー」を家に据え置いているし、街中で携帯CDプレーヤーを使っている人も見たことがない。その代わり、都市のバスで路上でMP3プレーヤーを身に着けている若者は多い。そんな生活に密着したMP3という存在と一般的な中国人の関係についてリポートしよう。

デパートのMP3プレーヤー販売コーナー

中国では早くから普及したMP3プレーヤー

 どこの世界だろうと、ハードウェアを普及させるためには充実したソフトウェアの供給が不可欠になる。日本よりも早く中国でMP3プレーヤーが普及した理由には、中国におけるコンテンツの充実が挙げられる。中国仕様の黄色い「100in1」ファミコンソフトで、ファミコン互換機が中国で普及したのと同じく、まずは「MP3ファイル 100in1」CDが海賊版市場で大量に販売された。これが契機となって「MP3」という単語は世間で認識されるようになる。

 インターネットを使ったMP3ファイルの入手もいまでは普通に行われている。入手先の事情も変化しつつある。数年前は個人で数ファイル上げているサイトが多かったが、ブロードバンドインフラが整ってきた最近ではMP3ファイルを大量にアップロードしているサイトが続出しているのだ。また、音楽ファイルのダウンロードに特化した中国製P2Pソフトもいくつかリリースされた。

 中国で有名な検索エンジン「百度」ではMP3検索機能がサポートされて、ネット上にアップされた「正規版か海賊版か分からない」MP3ファイルをネット利用初心者でも簡単に入手できるようになった。ビギナーからヘビーユーザーまで誰もがMP3コンテンツを違法に入手できる環境が中国では(意図的ではないにしても)整ってしまっていることなる。

 2005年にそういった海賊版も容易に見つけ出してダウンロードできる状況に「待った」がかけられた。裁判によって、百度のMP3検索サービスは違法とする判決が下され、また、これとは別の裁判でもP2Pソフト「Kuro」が違法であると判決が下されたのだ。

 上記のような一連の著作権法違反の裁判で判決が出たあとでも、PC雑誌やIT系ポータルサイトで掲載されるMP3ファイルに関する記事では、「MP3ファイルをダウンロードできる」という言い回しをよく使っている。「違法なファイルはダウンロードしてはいけない」という意味の文章はまだ見たことがない。

 MP3コンテンツがネットにあふれて簡単に低価格で入手できるため一般市民に支持された(ことの善悪は別にして)。そうなると、MP3プレーヤーも都市にあふれることになる。電脳街の多くの店舗で販売されているのはもちろん、オーディオプレーヤー専門店や大型電器店チェーン、場所によってはスーパー、本屋、文具屋でも売っている。この取材を行った2006年初頭では、128Mバイトのモデルは時代遅れとなり、256Mバイトで約5000円のMP3プレーヤーが売れ筋商品となっていた。

淘汰が進んだMP3プレーヤーメーカー

 中国にはMP3プレーヤーメーカーが数え切れぬほどある。「レノボ」といった巨大な大手PCメーカーからUSBメモリやスピーカー、デジカメなども作る「愛国者」のようなメーカー、MP3などの携帯オーディオ専業メーカー、そしてMP3ブームに便乗した家内制手工業の極小企業までその形態と規模は多岐にわたる。「家内制手工業」というのは誇張でも揶揄でも冗談でもない。アパートの一室で安価な賃金の出稼ぎ労働者に半田付けなどをさせ、そのままアパートから出荷しているメーカーもある。

 あまりに沢山のメーカーからMP3プレーヤーがリリースされているので差別化のために独創的なプレーヤーがあるのかと思いきや、多くの製品のスペックや外見は似たり寄ったりであったりする。価格競争を優先するためかほとんどがメモリ内蔵型で外部メモリカードを使用する製品は少ない。中国製MP3プレーヤーを数多く扱っているあきばお〜で過去にどんな「キワモノMP3プレーヤー」があったのか聞いてみると、「目覚し時計のMP3プレーヤーがありました。最近ではカードリーダー機能がついて、更に2000円以下でかなり安いという商品があります」とのことだった。「最近のMP3プレーヤーのデザインは以前のものに比べ洗練されてきたと思います。WMA対応になったりフォルダが分かれていても再生できたりと、機能面が数段高くなってきたのを感じます」

これもキワモノといえばキワモノ。愛国者の60万円もするプラチナペニンシュラMP3プレーヤー

 ところで「iPod」と中国携帯MPプレーヤーメーカーの「関係」である。ITや家電系の国際展示会でiPodにそっくりな製品が最近になって姿を見せつつあるように、中国の市場ではここ1年で“ようやく(?)”iPod似の製品が出荷されたのだ。もちろん“本物”のiPodはすでに販売されていたが、世界的なiPod人気を紹介する記事が中国ではほとんど掲載されていなかったことや、中国メーカー製のMP3プレーヤーよりもはるかに高い価格(ショップではしっかりとしたガラスケースの中に飾られている)、なによりiTunesがない中国では、「中国製と機能が大差ない高価な舶来のMP3プレーヤー」としてしか認識されていなかった。

 最近になってiPod似の製品が登場し始めたということは、ようやく中国でもiPodの人気が多くの人たちに認識されてきたことを意味している。ちなみに、iPad似製品のリリースを報じる記事に対する反応をネットから拾い出してみると、意外にも「そんなしょうもないもの作るな!」という怒りの書き込みが多く見受けられる。

“青りんご”(青苹果:apod)ブランドのiPodそっくりさん

 先ほど「数え切れぬほどある」と紹介したようにメーカーが多い携帯MP3プレーヤー業界であるからその競争も激しい。そういう熾烈な状況下の2005年において、家内制手工業の極小工場を中心にその多くが倒産した。例えば広東省にあった2300ものMP3プレーヤー工場はいまや100近くまで減少している。

 この原因は、携帯MP3プレーヤーの利潤があまりに低くなってしまい体力のない企業が立て続けに倒産に追い込まれたからという。中国報道機関の分析によると、韓国製のMP3プレーヤーが3万円近くで市場に入ってきた2001年に、中国メーカーはその半値の価格設定で携帯MP3プレーヤー1台につき4000円前後のマージンがあったという。しかし、広東省に工場が次から次へとできると、1台あたりのマージンが2002年には1000円強、2004年には500円前後、2005年には150円程度まで落ちてしまった。また多くの製品は故障が多く修理で送られてくる製品が絶えない。そうなると、利益が薄くなっているのに修理コストがかさむために必然的に赤字になるという。

 このように、中国においてもMP3プレーヤー市場はほぼ飽和状態となってしまった。メーカー各社は生き残りをかけて、MP4プレーヤーなど携帯動画プレーヤーへと金と人材と機材をシフトすることになる。

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