「デザインは生活を変えられる」――日立Priusシリーズの挑戦青山祐介のデザインなしでは語れない(2/2 ページ)

» 2006年09月20日 12時00分 公開
[青山祐介,ITmedia]
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Inspire the Nextを頂点にしたデザイン指標

日立製作所のブランド戦略を担う「Inspire the Next

 日立製作所には「Inspire the Next」というコーポレートステートメントがある。日立ブランドの価値を表現した言葉で、このコーポレートステートメントを表現デザインの指標として、デザイン本部では手がける製品のカテゴリに合わせ、それぞれのキーワードを決めている。生活家電は「Sub」、デジタル家電は「Cool Impact」×「Real Quality」、スーパーコンピューターなどの大型情報機器は「Optical」、エレベーターなどの昇降機器は「Universal」×「Neutral」、新幹線などの車輌は「Emotional」×「Elegance」、といったように、「Inspire the Next」を頂点に、これらのキーワードがツリー構造でぶら下がっている考え方だ。

須曽 我々デザイン本部が目指すところは、当然“Inspire the Nextデザイン”です。製品のカテゴリがとにかくいっぱいあるので、それを具体的に表現に落とし込んだものがこれらのワードになるわけです。決してデザイン本部だけが勝手な思いでやっているわけではなくて、あくまでも大きな日立の理念をベースにツリー構造で降ろしてくる形をとっているんですね。

Priusのデザインワードは「Cutting edge」

――最新モデルPrius Sシリーズのデザインコンセプトを教えてください。

須曽 造形に関しては、これまでもずっと心がけているのですが、基本は癖がないデザインを狙っています。癖がないというのは、長く使っても飽きのこない、ということで、癖がない=全然インパクトがない、ということではありません。癖がない、必然的な形という部分が、逆にお店でも新しく見えるという部分もあると思っていて、それに素材や塗装の処理、仕上げの組み合わせなどを工夫することで新しさをどんどん出していこうと考えています。とくに今回のSシリーズは「Cutting edge」という造形表現により、シンプルななかにも特徴を持たせてあります。

――具体的に「Cutting edge」はどこ取り入れているのでしょうか?

須曽 非常に細かい部分なんですが、「Cutting edge」の要素は、例えばPrius Air type Rでは「AR33R1S」の液晶パネル周囲の部分に、Prius Noteではキーボードの周囲のボディと色が異なる部分がそれにあたります。お客様の実使用ではなかなかその価値というのは伝わらないと思いますが、我々の意図としては、“ある塊”を削いだ部分の色が変わっていて、中身に非常に高度な技術が詰まっている、その一部がそぎ落とされて見えている、というような思いを込めてデザイン処理しています。

中島 Prius Air type Rでは「Cutting edge」をディスプレイに最初に採用しました。画面周囲にこのモチーフを用いたのは、地上デジタル放送というきれいな画面にのめりこんで欲しい、きれいな画面に見ている人をいざなう、という意味を込めたからです。Prius Noteの場合は、キーボードのトップ面をボディと同じ高さにそろえ、その周りを大きくカットすることによって、手が触れるところ、インタフェースであるキーボードを強調しました。今回の造形に関して言うと、画面やインタフェースに引き込まれてほしいというメッセージを込めて、「Cutting edge」の考え方を盛り込んでいます。

Prius Sシリーズで随所に取り込まれたCutting Edge。Prius Noteではキーボードの周囲に(写真=左)、Prius Airでは液晶ディスプレイ周囲の黒い部分、PC本体ではフロントパネルの黒いフチ取りがそれにあたる(写真=右)

――「Cutting edge」は今後のデザインにも入ってくるわけですね。

須曽 入れていこうと思っています。そのモデルの性格やラインアップ全体の中での位置付けにもよりますが、適材適所で商品性に見合った表現を使っていこうと思っています。もちろん、全体として何らかのPriusらしさというものが表現できるのが大前提です。さらに言うと大画面TVの“Wooo”やDVD/HDDレコーダーなども含めた、日立のデジタル家電の商品群がひとつのフィロソフィーで見えてくるというのが理想です。

――そのフィロソフィーとは?

日立製作所の情報家電製品群

須曽 日立のデジタル家電分野には、PC、プラズマテレビ、HDD/DVDレコーダー、カメラ、携帯電話といった製品があります。これらのデザインは「Cool Impact」と「Real Quality」を指標として進めています。「Cool Impact」は、商品と出会ったときの魅力、第一印象を大事にするということです。一方の「Real Quality」は、実際に触れて使いこなすうちにだんだんよさがにじみ出てくる、ということです。

 「Cool Impact」については、「Cutting edge」のような手法が有効になってきます。もちろん色や素材感も含めてですね。そして「Real Quality」は、フロントアクセスであったり、インタフェースの考え方がとてもしっかりしていることに始まり、外観の仕上げの精度感や素材の使い方、嵌合ひとつとってもすきまが均一であるといった、クオリティーをどんどん上げるというスタンスですね。

日立デザインの強みは総合力であり、PriusはPCの枠にとらわれない

 「Cool Impact」×「Real Quality」というキーワードは、日立製作所のデジタル家電共通のものであり、デザイン面で“Wooo”シリーズやHDD/DVDレコーダーといった製品との関連性を重視している。そういう意味で、Priusシリーズをデザインするときには、数ある日立製品の中の1つのものとしてデザインしなければならないと思ってやっていると須曽氏は語る。それだけに、PCという枠にとらわれない発想や視点でPriusが作られるからこそ、同社ならではの独創的な製品が生まれているのかもしれない。

 「日立デザインの強みは、総合力です。PCに強いというだけでなく、我々はPCにはない新しい価値を植えつける、埋め込むという意識を持っていて、今までやってきたいろいろな取り組みは、そういった流れの中で生まれている部分があると思います。例えば、まったく異なる分野の開発メンバーとの会話の中から新しい機能が生まれるといったことも多々あります。今後、白物家電や携帯電話との連携などもキーになって来るでしょうし、放送と通信の融合という流れと、家庭内のホームネットワークという部分をうまく絡めた何らかのアピールが、日立ならできるんじゃないかと思っています。デザインは、人々のライフスタイルを変える力を持っていると考えています。今後も新しいことに挑戦していきますよ」(須曽氏)。

 「将来的に“Prius”というプロダクトとして見られるといいですね。たくさんあるPCの中のPriusではなくて、iPodってもう携帯音楽プレーヤーの代名詞になっていますが、そういう感じでの“Prius”をめざしていきます」(中島氏)。


Prisuシリーズのデザインラフスケッチ。作図にはもっぱら3D CGソフトが使われるそうだが、「手段は問わない。手書きでも魅力が伝わればそれでいい」(須曽氏)とのこと

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