第6回 光ディスクの製造工程 その2──ディスク成型からパッケージまで新約・見てわかる パソコン解体新書(3/4 ページ)

» 2007年11月26日 11時11分 公開
[大島篤(文とイラスト),ITmedia]

反射膜の形成工程

  乾燥、硬化した有機色素記録層の上に、反射膜を形成します。反射膜は、金、銀、アルミニウムなどの反射率の高い金属を材料とする薄膜で、スパッタリングという方法で形成します。下にスパッタリング装置の図解と、スパッタリングの動画を示します


 図の上部にあるターゲットというのは、金や銀などの金属です。

 ディスクは金属製のターンテーブルに乗せられ、さらに中心部と周辺部に反射膜を作らないためにマスクが乗せられます。

 スパッタリングは、アルゴンガスを含んだ真空中で行われます。

 ターゲット側を負極、ターンテーブルを陽極として高電圧をかけると、アルゴンガスがプラズマ化(電離状態のガス)します。すると、アルゴンイオン(Ar+)が負極であるターゲットに吸引され、高速で衝突し、ターゲット材料の原子を弾き出してしまいます。この原子は高速で真空中を飛び、ディスクの表面にぶつかって付着し、積み重なって反射膜となります。反射膜は一般に80ナノメートル以下という薄さです。

 さて、光ディスクにスパッタリングするためには、ディスクをスパッタリング装置の真空チャンバーに搬送しなければなりません。ここで、ディスクを出し入れするたびにチャンバー内の空気を抜くのでは、時間とエネルギーが無駄になります。上に示したのはスパッタリング装置の概略図で、実際のチャンバーにはロードロック機構というものが備わっていて、ここを通してディスクを大気中から真空状態を保ったチャンバー内に移動させることができます。宇宙船のエアロックのようなものですね。

 スパッタリングが済んだディスクは、マスクされていた部分に空気を吹き付けて、付着せずにゴミとして乗っているターゲット原子を吹き飛ばします。この工程をエッジ洗浄といいます。また、ディスクは帯電した状態にあるので除電処理も行って、次の張り合わせ工程に進みます。

ディスクの張り合わせ工程

 記録膜と反射膜が形成されたマスター基板と、これとは別に成型して作ったダミー基板とを張り合わせて、厚さ1.2ミリの1枚のディスクに仕上げます。ディスクの張り合わせには、紫外線硬化型の接着剤と、スピンコート法を使って次のように行います。

1.マスター基板をスピンコーターにセットする(下の動画はセットされた状態からスタート)

2.ディスクの中心部に接着剤を滴下する。

3.ダミーディスクを重ねる。

4.ディスクを高速回転させて、遠心力で接着剤をディスクの周辺にまで行き渡らせる。

5.紫外線を照射して接着剤を硬化させる。


 2枚のディスクをキレイに張り合わせるのは非常に難しく、歪みが残れば記録性能(信頼性)が低下してしまいます。このため各社独自の工夫を凝らしているようで、工場見学などでもこの張り合わせ工程だけは公開されないと言います。

 ところで、DVD-RやDVD-RWのメディアは意外に簡単に2枚に引きはがすことができます。センターホール付近は接着剤が流れていないので、ここに細いマイナスドライバーを突っ込んで広げれば、ペリペリと2枚にはがれて行きます。下はそうやって分離させたDVD-R メディアの写真ですが、いちばん柔らかい記録層ではく離が起こるため、ダミー基板側に反射層がくっついてきます。


プリライト工程

 ディスクの張り合わせができたら、物理的にはメディアとして完成しますが、まだ出荷できる状態にはありません。ディスクをプリライターという装置にセットして、MKB(メディアキーブロック)と呼ばれる暗号キーと、製造されるメディア1枚1枚で固有のメディアIDを書き込む必要があるのです。この工程をプリライトといいます。プリライターは、DVDレコーダーを複数並べた装置で、多数のメディアに高速にMKBとメディアIDを書き込んで行きます。


 MKBとメディアIDは、DVDが採用している記録媒体用著作権保護機能であるCPRM(Content Protection for Recordable Media)によって利用されます。市販のDVDレコーダーでコピーワンス番組を録画すると、MKBとメディアIDを鍵として映像が暗号化され、メディアに記録されるのです。この録画データを他のメディアにダビングしても、メディアIDまでは複製できないので暗号を復号できず、録画した内容を再生できません。

 新品のDVD-R/RWの記録面をよく観察すると、プリライトの筋を見ることができます。プリライトの場所は、普通のデータが書き込まれるプログラム領域の内側にある、リードインエリアの中です。

 リードインエリアには、プリライトの筋の内側にバーコード状のパターンも書き込まれています。このパターンはNBCA(Narrow Burst Cutting Area)と呼ばれるもので、これも著作権保護のためにディスクの1枚1枚を識別可能な固有情報を記録しています。ただしNBCAは規格上オプションのため、製品によっては記録されていません。同様のバーコードはHD-DVD-R/RWにもありますが、こちらは頭にNが付かないBCA(Burst Cutting Area)と言います。メディアIDを含む188バイトの情報を記録しています。

 読み出し専用のHD DVD-ROMにもBCAが書き込まれます。書き込み不可能なHD DVD-ROMで、どうやってメディア1枚ごとに異なるデータを書き込むのでしょうか? なんと、YAGレーザーという非常に強力な赤外線レーザーで反射膜を焼いて穴を開けるという荒技を使うのです。これをBCDカッティングと言います。


レーベル印刷とパッケージ

 プリライトが済んだら、レーベルを印刷します。DVDソフトの場合は多色刷りが珍しくありませんが、書き込み可能なディスクメディアの場合は単色刷りまたは2色刷りが普通です。印刷の方式としては、スクリーン印刷またはオフセット印刷が用いられます。

 レーベル印刷ができたメディアをプラスチックケースに入れてパッケージすると、販売可能な製品として完成します。CDやDVDメディアのパッケージには、プラスチックの角形ケース、不織布ケース、円筒形のバルクケースなどがあります。バルクケースの場合、10枚から50枚のメディアが積み重ねて入れられます。


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