第6回 光ディスクの製造工程 その2──ディスク成型からパッケージまで新約・見てわかる パソコン解体新書(4/4 ページ)

» 2007年11月26日 11時11分 公開
[大島篤(文とイラスト),ITmedia]
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製造ライン

 DVD-Rの製造ラインは工場によって設備やレイアウトが異なりますが、基本的には下の図のようになっています。このように各工程の装置を並べて、基板の成型から張り合わせまでを一気に流れ作業で処理する製造ラインのことをインラインシステムといいます。これに対して、ため置いた基板に対してまとめてスパッタリングや張り合わせを行う方式をバッチシステムといいますが、現在はインラインシステムが一般的です。


 なお、上の図には示していませんが、ラインの途中で何回か検査工程が入ることもあります。検査は、ディスクの表面をイメージセンサで高速にスキャンすることで行います。

 張り合わせが済んだディスクは、デリバリー部でスピンドルと呼ばれる長い棒に挿して積み上げて行きます。ある程度の量ができたら、スピンドルごとプリライターにセットします。DVDのディスクは、このように積み重ねても上下のディスクと記録面が接触しないように、内周部に高さ0.2ミリ程度の凸状リングが設けられています。この凸部は、マスター基板の成型時に形成されたものです。


 HD DVD-Rは、基本的にDVD-Rと同じ製造ラインと工程で作ることが可能です。ただし、成形機に装着するスタンパーと、記録膜形成工程で使用する色素は、HD DVD-R専用のものに交換する必要があります。

 書き換え型のDVD-RWの場合は、記録層の構造の違いから、DVD-Rとは製造ラインと工程が別になります。下図に、DVD-RとDVD-RWの構造の違いを示します。


 DVD-Rの記録層は、有機色素膜による1層構造です。

 一方、DVD-RWの記録層は、特殊合金による相変化膜の上下に誘電体膜による保護層を設けた3層構造をしています。この3つの層は、いずれもスパッタリングによって次の3工程で形成します。

1.成型後冷却されたマスター基板に対して誘電体をスパッタリングする。

2.その上に相変化記録膜をスパッタリングする。

3.その上に誘電体をスパッタリングする。

 この3工程に続いて、反射膜がスパッタリングされ、以下ダミー基板との張り合わせ、プリライト、レーベル印刷、パッケージと工程が進んで出荷を待つことになります。

 構造と製造工程が複雑になるぶん、DVD-RWの方がDVD-R よりも基本的にはコストが高くなります。ただし、実際のコストは生産量によっても変わってくるので、必ずDVD-RWのほうが高くなるとは言えません。

メディアの品質を決めるポイント

 記録型のDVDメディアは、読み出し時にエラーが発生しているのが普通ですが、DVDという規格が備えている優秀なエラー訂正機能によってエラーがカバーされているため、ユーザーはそれを感じることがありません。

 どんなに優秀なメディアでもエラーは発生しています。一部の粗悪なメディアでは、カバー仕切れないほどのエラーが発生し、録画映像を再生したときに画面にブロックノイズが現れるとか、記録後しばらくしたらまったく再生できなくなったというトラブルが発生することがあります。

 DVDは横172バイト×縦192バイトのデータブロックに対して、各列横方向に10バイト、縦方向に16バイトのエラー訂正コードを付加して記録することで、高いエラー訂正能力を持っています。HD DVDやBlu-ray Discでは、エラー訂正能力がさらに強化されています。


 データブロックの横方向で検出されるエラーをPIエラーといいますが、DVDの規格によれば、連続する8ブロック(256K バイト)の再生中に発生するPI エラーのビット数が280 以下であることと定められています。また、エラーの数が500になっても実用上問題が生じません。エラーが500を超えると、動画生成時にブロックノイズが発生する可能性が高くなり、1400を超えると再生が止まってしまうといった問題が出てきます。

 下のグラフは、DVD再生時のPIエラー数を調べて表示するソフトの計測例です。左はかなり品質の高いメディアの結果のグラフで、ディスクのすべての場所でエラー数が少なくなっています。右は品質が低いメディアのグラフで、ディスクの外周に行くほどエラーが増えています。外周部ほどディスクのゆがみや面ブレに起因するエラーが出やすいので、一般にこういった傾向になります。これだけエラーが出ても、ちゃんと映像を再生できるのがDVDのすごいところですが、こういうディスクを使うのはやはり不安です。


エラーの多いメディアは、一般に次のような問題を持っています。

・透明基板の透明度や平面性が悪い。あるいは部分的に異常な屈折特性を持つ。

・ディスクが反っていたり、場所によってディスクの厚さが違う。

・グルーブの形状が不鮮明。

・記録層の素材の性能や品質が悪い。

・反射率が適正でない。

 品質の悪いメディアは、多くの場合製造工程の管理が不適切であることから発生します。たとえば、生産性を上げようと成型のタクトタイムを短くすれば、グルーブの形状が正しく転写されません。温度や湿度もメディアの品質に大きく影響するので、製造ラインを最適な温度と湿度に保つことは基本です。

 記録膜に使われている色素の耐光性が低い場合、データを記録した直後はちゃんと再生できても、日数がたつうちにエラーが増えて、やがて再生できなくなってしまう可能性があります。

 国内の有名ブランドのメディアなら、基本的に安心して使えますが、ブランド品であっても実際に製造しているのは海外の提携工場で品質が今ひとつというケースもあります。逆に、海外メーカー品ながら、日本製のスタンパーと色素を使って優秀なメディアを生産しているという例もあり、簡単には良しあしを判断できません。とにかく、極端に安いメディアには手を出さないほうがいいでしょう。

 DVD-Rの2層ディスクやBlu-ray Discの製造方法についても紹介したかったのですが、既に記事がかなり長くなってしまったので今回はここまでにしましょう。次回をお楽しみに!

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