エプソンの“普通紙くっきり”プリンタを検証する全色顔料インクの効果は?(1/4 ページ)

» 2008年04月10日 18時45分 公開
[林利明(リアクション),ITmedia]

顔料インクと染料インクは何が違うのか

染料インク主流の中で、顔料インクをあえて採用する複合機/単機能プリンタとは?

 現在の個人向け複合機/単機能プリンタは、ほとんどが染料インクを採用している。染料インクは、インクが紙の繊維に浸透する性質があり、専用光沢紙への写真印刷で見栄えのよい出力結果を得られるのが大きな理由だ。一方で、専用光沢紙のようにインクの吸着層を持たない普通紙に印刷すると、インクがにじんでしまい画質が低下するという短所がある。

 これを低減するため、キヤノンや日本HPの複合機/単機能プリンタなどは、顔料の黒インクを搭載したモデルが多い。カラーインクは染料だが、黒インクを顔料を用いることで、普通紙における「黒い文字」の印刷品質を高めている。顔料インクは用紙の表面で固まって定着するため、用紙への染み込み(にじみ)が少ないのだ。その半面、表面が平滑な通常の光沢紙に印刷すると、インクが定着せず、はがれてしまうこともある。

 ちなみに、写真印刷ならば染料インクのほうが高画質かというと、そうとは限らない。実際、エプソンの「プロセレクション」シリーズやキヤノンの「PIXUS Pro」シリーズなど、写真やグラフィックスを扱うプロ/ハイアマチュア向けのインクジェットプリンタは、全色顔料インクの製品が主流だ。染料インクと比較して、顔料インクは発色の安定がはるかに速く、インク自体の構造にもよるが、これらの製品が採用しているインクは色域が広いため、ユーザーの明確な発色意図を実現する用途に向いている。

 ただし、こうした製品を使いこなすには相応のスキルが必要となるため、現状では全色顔料インク搭載プリンタをプロ/ハイアマチュア向けに限定し、家庭向きの主力製品は染料インク搭載プリンタでカバーするというメーカーの方針は正しいと思う。一見した写真印刷の品質も染料インクのほうがメリハリと光沢感があり、紙焼き写真に近い雰囲気が出るからだ。もっとも、個人向けの全色顔料インク搭載プリンタも数は少ないが存在している。

“普通紙くっきり”をアピールする「PX-A740」「PX-V780」

 前置きが少々長くなったが、今回取り上げるエプソンの複合機「PX-A740」と単機能プリンタ「PX-V780」は、全色顔料インクを採用したモデルだ。いずれもプロセレクションシリーズではなく、日ごろから普通紙印刷の頻度が高い個人やSOHO向けの製品に位置付けられている。“普通紙くっきり”というキャッチコピーが付けられており、染料インク搭載プリンタとは違った味付けがなされているのがポイントだ。

左から、複合機の「PX-A740」、A4プリンタの「PX-V780」

 また、家電量販店での実売価格はPX-A740が1万5000円前後、PX-V780が1万円前後と、染料インク搭載機と比較して、低価格で入手できるのも見逃せない。つまり、普通紙印刷に強く、低価格で入手できることから、低価格カラーレーザープリンタの代替としての活用も期待できるというわけだ。本記事では普段あまり触れられることがない、これらの実力に迫っていきたい。

 まずは、両機のスペックを簡単にまとめておこう。A4対応複合機のPX-A740は、2006年10月に発売された「PX-A720」の後継機だ。カラー液晶モニタのサイズを2.0インチから2.5インチに大型化することで、操作性を改善させている。ボディのカラーは、シルバーとグレーのツートーンから全面ホワイトに変更され、清涼感のある外装だ。ボディのサイズは450(幅)×340(奥行き)×179(高さ)ミリ、重量は約5.9キロと、昨今の複合機としてはコンパクトに仕上がっている。

 インクはC/M/Y/Bkの4色構成で、全色独立カートリッジを採用する。ノズル数は全270ノズル(90×4色分)、最小インク滴は3ピコリットルと同社の染料インク機(1.5ピコリットル)より大きめだ。スキャナ部のイメージセンサは光学解像度1200dpiのCIS方式を用いている。給排紙機構は1系統の背面給紙/前面排紙のみという標準的なペーパーハンドリングだ。PCいらずのダイレクトプリント用として、前面にUSB 1.1ポートと、CF TypeII、メモリースティックPRO、SDメモリーカード/MMC、xDピクチャーカード用のメモリスロットも用意している。

インクは全色独立カートリッジの4色構成だ(写真=左)。スキャナはCIS方式で、透過原稿には対応していない(写真=中央)。給排紙の機構は、スタンダードな背面から前面への1系統のみだ(写真=右)

 一方のPX-V780は、PCと接続してPCからのみ利用するA4単機能プリンタだ。メモリカードスロットやデジタルカメラ接続用のUSBポートは備えていない。こちらも全面ホワイトのカラーを採用しており、本体サイズは435(幅)×240(奥行き)×161(高さ)ミリ、重量は約3.9キロと小型軽量だ。後部の給紙フィーダと前面の排紙トレイは、使わないときに折り畳んでおけるため、設置性は高い。

 インクはPX-A740と同じC/M/Y/Bkの4色構成で、全色独立カートリッジだ。最大の特徴はBkインクのみ、2本のカートリッジを装着している点にある。ノズル数も特徴的で、Bkノズルは180×2(カートリッジ2本分)、CMYノズルは177(59×3色分)だ。カラーノズルが少ない代わりに、ノズル数の多いBkインクカートリッジを同時に2本使うことで、普通紙への高速なモノクロ印刷に注力しているというわけだ。

インクは全色独立カードリッジの4色構成だが、Bkカートリッジを2本装備することでモノクロ印刷を高速化している(写真=左)。給排紙の機構は背面から前面への1系統だ(写真=右)

 なお、エプソンは2008年2月に、全色顔料インク複合機の新モデル「PX-A640」「PX-FA700」を発売した。PX-A640はカラー液晶モニタを搭載しないエントリーモデル、PX-FA700はADFとFAXを搭載することで、よりビジネスを意識した多機能モデルとなっている。こちらも併せて、チェックしてほしい。

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