地デジは確かに美しい映像だが、テレパソ全盛時代が再び戻ってくるかといえばちょっと厳しいのではないか、というのが今回2製品を評価していて抱いた感想だ。アナログからデジタルに変わり、多くの人はより美しく、より便利な時代の幕開けを期待したのではないだろうか。だが、実際には「今まで当然のようにできていたことができない時代」だった。
一般的な感覚では「1回見るだけの番組はそれなりの品質で、永久保存版は高画質で」というのが普通だと思う。しかし、地デジの世界では「1回見るだけの番組は高画質で、永久保存版はそれなりの画質で」なのだ。DT-H50/PCIであれば品質を保ったままBlu-rayへのムーブも可能だが、GV-MVP/HSだとSD画質に落としてDVD-RW/DVD-RAMにムーブするしかない。これではムーブというよりは「劣化ムーブ」だ。
また、マザーボードを交換したら見られなくなるという仕様がPC自作層にとってどれほど無価値なものか、まるで理解されていないとしか思えない。今度のボーナスでCPUとマザーを交換しよう、そう考えている自作ユーザーはごまんといる。録画した映像のバックアップを取ることすらできない“新しい時代のスタンダード”を見ると、「カサはカサ立てに置いてください、盗難については責任を持ちません」と書かれている飲食店のようないらだちを覚える。
もし今回の規制緩和が海外発の無反応機に危機感を抱いた結果だとするなら、少なくとも「これはできないけれど、まあいいか」とユーザーが思えるだけのレベルまでは緩和しなくては意味がないはずだ。「自作で地デジが解禁しました」と聞けば期待がふくらむが、正直なところこれならHDDレコーダーでいいんじゃないか、と思ってしまう。特にHDCP対応のグラフィックスカードとディスプレイもいっしょに買いそろえなければならないユーザーからすれば、すなおにHDDレコーダーを買うほうが予算的にも満足度は高いかもしれない。
もちろん、これはユーザーである我々以上に、アイ・オー・データ機器やバッファローをはじめとするメーカー自身が感じていることだろう。ガチガチの規制のために、明らかにユーザーの不利となるような仕様にせざるを得ないこと、また、そのためにCPUリソースを無駄食いするローカル暗号や機器相互認証などを組み込まなければならないこと、そしてそれらの開発のために価格がさらに上乗せされること――メーカーの忸怩(じくじ)たる思いは相当なものだと思われる。
そう、この状況はメーカーが非難されるべきことではない。両社とも規制緩和の際には「ファームウェアのアップデートによって新機能を追加することはありうる(アイ・オー・データ機器)」「明言はできないが、FW/SWでアップデートできる部分は積極的に機能追加していく予定(バッファロー)」と回答している。
とにかく不正の恐れがあれば全部禁止という、すべてのユーザーを犯罪者予備軍扱いする現在の方針は、大多数を占める善意のユーザーの利便を大きく損なうという点でも到底納得できるものではない。それよりもむしろ、IDなどを埋め込むなどして、不正使用したときの流出元を確実に押さえられるようにしておくような方向で進めるべきではないだろうか。Dpaの正式名称は社団法人デジタル放送推進協会だが、「推進」という文字がこれほどそらぞらしく感じる団体もそうはない。
結局のところ、現時点で単体の地デジチューナーカードが意味するのは、ダブル録画や編集もできない「廉価版のハイビジョン対応HDDレコーダーキット」程度のものだろう。もちろん、最初からそういった製品を求めているのであれば、2万円前後の価格は決して高くはないし、そもそも今回登場した第1世代の製品でも、地デジ対応のメーカー製PCと同等のことは実現できている。自作スピリッツとはやや離れた第1世代の製品ではあるが、それでもこの“暗黒時代”においては、希望の光と言えるのかもしれない。
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