マイケル・デル氏がRound Rockで大いに語るDell生誕の地から

» 2008年06月06日 11時11分 公開
[田中宏昌,ITmedia]

絶好調といえる成績を残した2009年度第1四半期

マイケル・デル会長兼CEO

 アジア太平洋地域のプレス向けに行われたグループインタビューにあたり、マイケル・デル氏は「2008年は、Dellにとって中国でビジネスを開始してから10周年を迎えた年であり、米国外での売り上げが米国を初めて上回った年として記録に残る年だ」との感想を述べた。続いて2009年度第1四半期の決算を報告し「新興諸国(BRIC)の売り上げが昨年同期比で58%の増加を示すなど、業界平均を大きく上回る成績を残せた。加えて、パートナーダイレクトも1万6000のパートナーを抱え120億ドルの売り上げを出すなど短期間で成長し、アジア太平洋地域のコンシューマー事業は昨年から売り上げが倍増(日本では60%増)した。特に日本では業界の大半がマイナス成長の中、20%もの伸びを実現しており、これは評価できるだろう」と振り返った。

 今後の方針としては、「Dellは環境面でもリーダーシップを取っており、グリーンITに積極的に取り組んでいく。2007年から取り組んでいるITのシンプル化はさらに拡大していくし、これから初めてインターネットに接続する“次の10億人”に積極的にアプローチしていく」とした。

グループインタビューが行われたRound Rock 1(写真=左)。BRICと呼ばれる新興市場で急激な成長を遂げているのが分かる(写真=中央)。各地域での成長率をまとめたグラフ(写真=右)

デルモデルは再起動し、新バージョンに生まれ変わった

 次に2007年2月にCEOへ復帰する前を従来のデルモデル、それ以降を新しいデルモデル(デルモデル 2.0とも)とし、「この10年間の間に、DellはPCの出荷台数を10倍にして業界平均を上回る急成長を遂げたが、10年目が終わった段階で成長の足が鈍くなった。そこで、従来のデルモデルをリセットして新バージョンに変えた」と述べた。「この新しいバージョンでは、多岐に及んでいた事業戦略をノートPC、コンシューマー市場、エンタープライズ、中小企業(SMB)、新興市場(BRIC)の5つに絞りこんだ。Dellは大企業や官公庁といったエンタープライズ市場では世界各地でNo.1を獲得しているが、特にコンシューマー市場やSMBでは力を出し切れておらず、IT市場の8割近くを占める分野(市場の構成比はコンシューマーが約40%、SMBは約37%、エンタープライズは約23%)ではまだまだ十分に成長する余地があると考えている」との認識を示した。

 「2007年からは世界各地で小売店とパートナーを組み、コンシューマー市場に力を入れているが、すでに現時点で1万3000を超える店舗で展開している。最終的には10万以上の量販店を見込んでおり、段階的に強化してコンシューマー市場の拡大に注力していきたい」と抱負を語った。「もちろん、エンタープライズ分野も継続的に投資を続けており、旧デルモデルのポイントであったユーザーの声に耳を傾ける姿勢は現在も変わらない。こういった間接販売を強化することで、ユーザーは従来のWeb直販「クリック」、電話を通じた「トーク」に加え、小売店店頭で買う「ウォーク」とさまざまな購入スタイルを選ぶことができるようになった(法人向けではダイレクトパートナーを通じた「チャンネル」もある)。

5つの戦略分野ごとの成績とDellの順位(写真=左)。2007年度から開始した量販店店頭での間接販売は、全世界で1万3000店舗を超えた(写真=中央)。日本のビックカメラや西友などのロゴがないのはご愛嬌(あいきょう)だ。直販以外に販売チャンネルを広げることで、ユーザーの選択肢は大きく増えたという(写真=右)

 一番重要なのは、ユーザーがDell製品を購入してくれるか否かなのだが、先日発表した2009年度第1四半期の決算を見ても分かるように、新バージョンのデルモデルはうまくっていると考えている。現段階で米国のコンシューマー市場はHPがトップシェアを握っているが、今期HPはシェアを落とす中でDellは逆に増加しており、上記の施策を行うことでHPに追いつき追い越すことは十分に可能と考えている」と自信を見せた。

 さらに新デルモデルでは、これまでの100%BTO対応モデルを維持しつつ、単一モデルの大量生産が必要になる小売店を視野に入れたサプライチェーンの再定義と最適化を図るべく変革を続けており、同時に経営の中核を担うエクゼクティブチームを再編したのも見逃せない。

デルモデルの象徴でもあったサプライチェーンも大きく手が加えられた。これまでのBTOに最適化したモデルだけでなく、単一モデルの大量生産などマルチに対応していく必要があるという(写真=左)。同様に、製造とロジスティクスにも変革が求められる(写真=中央)。Dedllが所有する製造工場一覧(写真=右)。将来的には、製造だけでなくデザインを含めて外部に委託してコスト削減を図り、ユーザーに還元していきたいという

来年には新しい小型デバイスを投入する予定

 PC以外の携帯電話市場に展開する意向については、「すそ野が広い携帯電話の市場は確かには魅力的だが、現状は前に述べたようにコンシューマー市場の拡大にフォーカスしたい。とはいえ、手をこまねいているわけではなく、まずは来年をメドに携帯電話とPCの中間に位置するデバイス、例えば9インチの液晶ディスプレイを搭載した製品を準備している」とほのめかした。これは、今夏に発売するミニノートPCやグリーンPCとは異なるプロダクトで、さまざまなアイデアを練っているという。

 そのほか、アップルはキーボードを使わないタッチやボイスインタフェースを提唱している点について、「タッチスクリーンは迅速なアクセスには役立つが、大きなデータを扱う場合などには不向き。DellはLatitude XTでハイブリッドタブレット液晶を採用しており、このタッチスクリーンをほかの製品に応用していくことは考えられるが、タッチスクリーンがマウスやキーボードに取って代わることはないと考える」との見解を示した。

 また、来日のたびに訪れているというアキバ(秋葉原)については、「1985年に初めて秋葉原を訪れて以来、ずいぶんと長い間見てきているが、5〜10年くらい前は日本でしか見られないユニークな製品が数多くあったのだが、今はだいぶ少なくなったような気がする。同様にPCパーツショップなどに代表される趣味の店もが数多くあったが、それも減少しているように感じる。これは、若い人がほかの趣味を見つけて、それに使う時間が増えてたのではないかと考えている」と冷静なコメントを寄せた。


 正味1時間に満たない会見であったが、好決算だった2009年度第1四半期の結果もあってか、常に上機嫌で受け答えをしていたのが印象的だった。とはいえ、注力する5つの戦略分野はどれもNo.1の座を獲得できていない現状について、「Dellはまだまだ成長する余地がある」と手綱を緩める気配はないようだ。

 2007年には大胆な組織改革を断行し、コンシューマーやSMB、そしてマーケティング部門でグローバルな組織を作り上げた。その成果は着実に浸透しており、2008年には創業以来初となるブランディング広告を世界規模で展開する予定という。創業者の再登板で文字通り“再起動”した、Dellの動向から当分は目が離せそうにない。

Round Rock 1の待合室にて

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