AMDは“RV770”の開発コード名で知られる次世代GPUを間もなくリリースする。Radeon HD 4800シリーズというブランドが予定されているRV770は、まず巨大なハイエンドチップを作ってから、その機能を削ってメインストリーム向けのチップを作るという従来型の設計思想から脱却し、まずはメインストリーム市場向けのモデルを作り、それをベースにハイエンド製品を作っていくという、新しい考えを取り入れている。
米国で行われたAMDの記者会見などから分かったRadeon HD 4800シリーズの情報などについてまとめておきたい。
AMD 上級副社長兼グラフィックス製品事業部 事業部長のリック・バーグマン氏は、米国で行われたGPUビジネスに関する戦略を説明する記者会見の中で「GPUの設計は、いまターニングポイントを迎えようとしている」と述べ、GPUの設計トレンドが今後大きく変わっていくという認識を示した。
これまでGPUの設計は、その時点で考えられる限りの機能を詰め込んだ巨大なハイエンドチップを作り、そこから機能を削ることでミッドレンジモデルやバリュークラスモデルなどバリエーションを作っていくのが従来の方法だった。AMDで言えば、まず、開発コード名でいうところのRxxx(R300、R400、R500など)と呼ばれるハイエンドGPUを作り、それから数カ月後に演算ユニットやテクスチャユニットの数や、メモリのバス幅を減らしたミドルレンジモデルのRVxxx(RV300やRV400など)を作っていくというパターンが繰り返されてきた。
しかし、バーグマン氏によればこうした設計思想はすでに限界を迎えているという。「従来型の設計思想では、最初に投入されるハイエンドモデルは巨大なダイサイズになってしまい、消費電力も増大し、価格はどこまでも高くなってしまう。しかも、新しい技術を一般の(パワーゲーマーではない、購入層のボリュームゾーンでもある)一般的なユーザーに届けるまでに時間がかかってしまう」とバーグマン氏が述べるような問題があるほか、ダイサイズの巨大化は、製造コストの上昇を招き、それが価格に影響する。
バーグマン氏は、その典型な例としてNVIDIAが6月16日にリリースしたばかりのGeForce GTX 200シリーズを挙げた。「NVIDIAのGeForce GTX 200シリーズのダイサイズは500平方ミリを超えている。こうした巨大なチップは消費電力が増大し、何よりコスト的に不利になる」と、従来設計のGPUが抱える問題を指摘した。
確かに、GeForce GTX 200シリーズの最上位モデルになるGeForce GTX 280の消費電力は200ワットを超え、電源ユニット側には8ピンと6ピンのPCI Express外部電源が必須になっている。価格に関しても700ドル前後と安価でない。
こうした道はCPUもかつて歩んできた。ミドルレンジ向けデュアルコアCPUの消費電力が130ワットを超えるという状況で、CPUメーカーもなんらかの対策を迫られていた。このとき、彼らはダイサイズが小さくて低消費電力のマイクロアーキテクチャを採用したデュアルコアCPUを作り、それをベースにバリュークラスのシングルコアCPU、さらにはそれを複数組み合わせたクアッドコアCPUといった派生モデルを開発することで、問題を解決していった。
バーグマン氏によれば、これからのGPUにおける設計思想は、このような、ここ数年でCPUメーカーがたどったのと同じ方向へ進むという。「これからのGPUは、まず200から300ドル程度で販売できるような高効率なチップを作り、それをベースにしてハイエンドモデル、ローエンドモデルへと展開していくことになる。これによって、エンドユーザーは適正な価格でGPUを入手することができるようになるし、消費電力の問題も改善されるようになる」というGPUの開発方針をバーグマン氏は明らかにした。
バーグマン氏はそうした新しい設計思想に基づいたGPUとなる“Radeon HD 4800シリーズ”を6月25日に発表することを明らかにした。「これら新世代GPUでは、ハイエンドモデルであってもワット性能(消費電力あたりの性能)やコストパフォーマンスを重視した設計になる。それをベースに、ハイエンドモデルも作っていくことになる」(バーグマン氏)と、AMDの新しいGPUの設計思想を説明する。
Radeon HD 4800シリーズは、開発コード名で「RV770」と呼ばれるダイをベースに設計されている。バーグマン氏によれば、RV770はGDDR5と呼ばれる新しいグラフィックスメモリに対応し、Radeon HD 3000シリーズと同じようにWindows Vista ServicePack1で導入されたDirect3D 10.1に対応するなど、NVIDIAのGeForce GTX 200シリーズにはない機能を備えているという。
Radeon HD 4800シリーズのラインアップには、開発コード名で“RV770PRO”と呼ばれる「Radeon HD 4850」と、同じく“RV770XT”と呼ばれるRadeon HD 4870の2モデルが用意される。出荷はRadeon HD 4850が6月25日、Radeon HD 4870は7月8日を予定している。
ブランド | コードネーム | チップ数 | ターゲットユーザー | 競合製品 |
---|---|---|---|---|
未定 | R700 | 2 | 超エンスージアスト | GeForce GTX 280/GeForce 9800 GX2 |
Radeon HD 4870 | RV770 XT | 1 | エンスージアスト | GeForce 9800 GTX |
Radeon HD 4850 | RV770 PRO | 1 | パフォーマンス | GeForce 8800GT/同8800GTS/同9600GT |
ブランド | 消費電力 | 浮動小数点演算能力 | Direct3D | スロットデザイン | 想定価格 | 投入時期 |
---|---|---|---|---|---|---|
未定 | 未公表 | 1TFLOPS以上 | 10.1 | デュアル | 未公表 | 8週間程度以内 |
Radeon HD 4870 | 未公表 | 1TFLOPS以上 | 10.1 | デュアル | 未公表 | 7月8日 |
Radeon HD 4850 | 110W | 1TFLOPS以上 | 10.1 | シングル | 200ドル前後 | 6月25日 |
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.