Kaveriのベンチマークを計測するには、プラットフォームから変える必要があるため、APUテスト環境を変更している。Socket FM2+マザーボードはASUSTeKの「A88XM-A」を、メモリはDDR3-2400をサポートするG.Skill F3-2400C11D-16GABを用いた。そのうえで、本来、Socket FM2+上でもFM2用APUが利用できるため、一世代前のRichland、A10-6800Kを比較対象として計測すべきなのだが、時間的制約から今回はA10-7850Kの単発で、一部、以前に計測したA10-6800Kのデータと照らし合わせることで進めていく。
比較対象 | A10-7850K | A10-6800K |
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定格クロック | 3.7GHz | 4.1GHz |
ターボクロック | 4GHz | 4.4GHz |
メモリ(速度) | DDR3-2400 | DDR3-2133 |
メモリ | G.Skill ARES F3-2400C11D-16GAB(DDR3-2400:8GB×2) | Patriot Memory Viper 3 Series Black Mamba PV316G213C1K(DDR3-2133:8GB×2として使用) |
マザーボード | ASUSTeK A88XM-A | GIGABYTE GA-F2A85X-UP4 |
チップセット | AMD A88X | AMD A85X |
GPU | Radeon R7 | Radeon HD 8670D |
ストレージ | OCZ Vector(Serial ATA 3.0、256GB) | OCZ Vector(Serial ATA 3.0、128GB) |
OS | Windows 8.1 Pro 64bit | Windows 8 Pro 64bit |
電源 | Seasonic SS-1000XP(80PLUS Platinum、1000W) | Seasonic SS-1000XP(80PLUS Platinum、1000W) |
まずPCMark 7では、全般的に見てA10-6800Kよりも10%程度のスコア向上が確認できた。Lightweightだけは1%程度スコアを落としたが、Computationでは34%も向上している。こう見ると、同じAPUでもかなり性格が変わったようにも見える。
PCMark 8では、OpenCLアクセラレーションを有効化することで大幅にスコアを上げている。PhotoshopなどのビジネスアプリケーションではすでにOpenCLを取り込んでいるものもあり、PCMark 8がそれらをベースに構成されている。その点を考えると、得られるパフォーマンス向上率はさらに高いと言えそうだ。
Sandraでは、A10-6800Kの際からかなりバージョンが上がっているので、テストによっては単純比較が適当でない場合もある。まずプロセッサの性能テストでは、Dhrystoneが大きく数値を上げたが、Whetstoneの倍精度では数値を下げた。おそらくそれほどテスト内容に違いがないであろうマルチメディア処理では、全般的にスコアの低下が目立った。.NET演算と.NETマルチメディアも、およそ同じ傾向にある。
Sandraの暗号化テストでは、暗号化/復号化自体はA10-6800Kより低く、ハッシュ処理では高いという傾向だ。メモリの帯域テストは、計測時点ではDDR3-2400もDDR3-2133も変わらない結果となった。
ただし、事前にテストした際には15Gバイト/秒以上の数値を出していた。2つの違いは、XMPを利用するか手動でアクセスタイミングを指定するかだけで、最終的に手動設定でもXMPと同じアクセスタイミングを指定している(ただ、BIOSに出てこない設定項目があるかもしれない)。XMPから手動設定にするだけでシステムの安定性が増したためこちらを利用したが、要はDDR3-2400ともなると動作がシビアで、起動時や負荷時に不安定になることも多いということだ。今後導入を検討する人は、マザーボードメーカーの公表するメモリ互換リストを参考にするのが比較的安心だろう。
メモリのレイテンシは、使用したDDR3-2400メモリ自体が原因でDDR3-2133よりも大きくなる。一方、内部データは同じか若干大きく、L2はマチマチだ。キャッシュとメモリでは、内部、L2とも帯域は向上しているようだ。
CINEBENCH R11.5とCINEBENCH R15のうちCINEBENCH R11.5は比較用として計測した。CINEBENCH R11.5を中心に見ていくと、まずOpenGLは向上、Multi CPUも若干ポイントを上げている。ただしSingle CPUは0.1ポイントA10-6800Kを下回った。このあたりは、IPCの向上分と、動作クロックの引き下げという要素がからんでいるのだろう。
3DMarkは、特に高負荷のFire Strikeで大幅な向上がみられた。Physics Scoreはむしろ下がっており、Graphics Scoreが示す通り、GPUコア部分の向上が大きいようだ。
ファイナルファンタジーXIV: 新生エオルゼア ベンチマークは、キャラクター編に加えて、過去のデータに合わせる形でワールド編も計測した。どちらを見ても、高画質では1280×720ドットあたりが妥当という結果だが、ワールド編を見るとA10-6800Kでは30fpsに満たなかったところ、A10-7850Kでは31.195fpsを記録できている。
ファンタシースターオンライン2キャラクタークリエイト体験版でも、スコアは大きく向上した。標準画質であれば、まずまず楽しめそうではある。
消費電力の計測は、同一マザーボードでの比較ではないため、おおまかに把握するほかないが、おおむね妥当な値がでているように見える。ピークに関しては、TDPの5ワットの差はあまりアテにならないだろう。一方でこれまでA10-6800Kや5800Kを使っていた容量の電源であれば、問題なく利用できるはずだ。
Kaveriは、1月14日よりアキバのPCパーツショップで販売が開始されている。実売価格はA10-7850Kが2万2000円前後、A10-7700Kが2万円前後だ。現在、A10-6800Kが1万6000円前後で売られているため、やや高価な印象を受けてしまうが、多少のご祝儀価格と、パフォーマンス向上分で見ればまずは妥当なところだろうか。
3Dパフォーマンスは実感できるほどに向上しており、CPU性能も、CINEBENCHのように本来APU向きでない用途を除けば、着実に向上している。メインストリーム向けとしてのバランスはよい。もともとゲームも可能なAPUだったが、A10-7850Kは「ゲームが楽しめるAPU」といった印象に変わる。
ただし、Kaveriにすぐに飛びついてよいものかどうかは要検討だ。まずSocket FM2+というプラットフォーム変更が重荷となり、次にマザーボードのBIOS確認と必要に応じて更新が必要という手間がある。
特に、新規でAPUを使いたいという方は、店頭でBIOSのKaveri対応可否を確認しておかないと、場合によっては認識できないといったことも起こりうる。そうした点で、スタートダッシュは慎重に、でもAMDファンは期待を持って出迎え準備を整えたい。
最後に、現状ではHSAやMantleといった目玉機能がまだ一般ユーザーの元まで届いていないという一番大きな課題がある。今回の検証はまだKaveri本来のパフォーマンス指標というわけではなく、あくまで既存環境における性能指標である。
検証の通り、基本性能でもA10-6800Kを上回るパフォーマンスであるため、これらの新機能が利用可能になれば、さらなる快適さが得られる見込みだが、ユーザー側はいつまでも待っていられるものではない。ここのところAMDのMantleのパフォーマンス向上の数字が、公表されるたびに膨らんでいる。しかし、リリースが遅延している状況では、何が真実なのかむしろ不安も膨らむ。こうした懸念を払拭するためにも、AMDには速やかにアクションを起こしてほしいと思う。
※記事初出時、アーキテクチャの記述に一部誤りがありました。おわびして訂正いたします(1/15 14:45)
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