NECアクセステクニカから発売された「AtermMR03LN」(以下、MR03LN)は、LTEとW-CDMA(3G)に対応するポータブルWi-Fiルータだ。型番からも想像できるように同社のLTE対応ルータとしては3世代目となり、トレンドのタッチパネル操作を取り入れつつ、先代より多機能長時間動作に、かつ小型・軽量化を果たしている。
NECアクセステクニカのAtermシリーズといえば、家庭向け無線LANホームルータ製品のメジャーベンダーであるとともに、ここ数年は高性能なWiMAXルータベンダーとしての評価も高い。特にWiMAXルータでは、スリム軽量かつ長時間動作対応の先兵となった2010年発売モデル「AtermWM3500R」が人気となり、以後のモデルも含めてその後のWiMAXルータの1つのリファレンスになったことはここ数年モバイルデータ通信を使用してきた人であれば記憶に新しいだろう。
一方、LTE対応ルータについても通信事業者扱いではなく、NTTドコモのMVNOとして低価格SIMサービスを展開する事業者向けにセットで提供するスタイルを中心に展開していた。初代は「AtermMR01LN」(2012年8月)、2代目は「AtermMR02LN」(2013年8月)。どちらもWiMAXルータで培った機能性、例えば公衆無線LANの共有機能、スマートフォンなどへのUSB給電機能、microSDを利用した簡易NAS機能などを備えていた。ただ、LTE製品については販売ルートなどの違いや、低価格SIMサービスが当時はまだ(2014年2月現在ほど)認知されていなかったこともあり、通信事業者扱いのLTE製品と比べると認知度は低かったかもしれない。
3代目となった今回のMR03LNは、低価格SIMサービスがいよいよ本格化してきたまさにタイミングがよい時期に登場する。本機はこれまでの機能を少し方向転換し、前モデルにあったいくつかの付加機能をそぎ落としつつ、どちらかといえばポータブルルータとしての本質を追求した仕様になった。USB給電機能や簡易NAS機能を省きつつ、本体を厚み11ミリまでスリム化し、重量も105グラムまで軽量化して、衣服のポケットにも手軽に放り込めるクラスに小型化。また、ルータとしては大きいタッチ操作対応のディスプレイを搭載し、情報視認性と操作性(端末のみで、ある程度設定ができる)を向上させている。
さらに、通信機能もWAN側、LAN側ともに大きく強化。バッテリー動作時間は初代比で4倍の最大24時間(新機能のBluetoothテザリング時)、通常機能のWi-Fiテザリング時も同2倍の最大12時間まで長くなった。低価格SIMサービス事業者では「BIGLOBE LTE・3G」「@nifty do LTE」「OCN モバイル ONE」などがセット販売を展開。ほか、Xi/FOMAネットワークを使用するMVNOの低価格SIMカードサービスユーザーも使用できるはずだ。直販サイト「Shop@Aterm」を中心に、販路は少し限られるが単体販売も行われている。Shop@Atermでの参考価格は2万8381円(税抜、以下同)だ。
では本体仕様を細かく見ていこう。本体サイズは64(幅)×111(高さ)×11(厚さ)ミリ、重量は約105グラム。こちらは3.5型ディスプレイクラスのスマホ、例えばiPhone 4と比べると、高さはほぼ同じ、少し幅広で厚めなくらいという感じ。実サイズだけで言えばライバルモデルとなるNTTドコモ扱いのLTE150Mbps通信対応ルータ「Wi-Fi STATION L-02F」「Wi-Fi STATION HW-01F」のほうが小さいが、本機は厚さ11ミリのスリムさが魅力。重量についてはHW-02Eが約103グラムと本機よりわずかに軽いもののバッテリー動作が約5時間と本機の半分以下となる。「携帯性」と「バッテリー動作時間」、ポータブルルータに必要な2大要素要素において、本機はこの2つの要素を高いレベルでバランスさせている。さらに11ミリのスリムさを実現しつつも「バッテリー交換が可能」な点もポイントである。
続いてWAN側の通信機能をチェックしよう。本機はNTTドコモのXiネットワークを使用する低価格SIMサービスを展開するMVNOへの提供が前提になっていることもあり、ひとまず対応周波数はNTTドコモに合わせてあるかたちだ。LTEは2G/1.7G/1.5G/850MHz帯(Band 1/3/21/19)に対応しており、現在NTTドコモがXiサービスで提供する4つの周波数帯をすべてカバーする。いわゆる「クアッドバンドLTE対応」モデルとして、通信速度も2014年2月時点、Xiの最大速度である下り最大150Mbps/上り最大50Mbps(20MHz幅)までに対応する。
3Gは2G/850MHz帯(Band 1/5/6/19)に対応。こちらもNTTドコモのFOMAネットワークにおいては(東名阪でのみ運用され、追って全周波数はLTEへの転用が決まっている)1.7GHz帯を除いた、ドコモのUMTSエリアを実質的にフルカバーする。ちなみにNTTドコモのUMTS 1.7GHz帯はあくまでトラフィック対策に用いられており、2GHz帯とエリアは重複しているのが原則。UMTS 1.7GHz帯が非対応であることがカバーエリアの性能として不利に働くことは基本的にない(そもそもUMTS 1.7GHz帯は高トラフィックエリアでのみ運用されていたので、こういった場所ではすでにLTE化されているはずと定義できる)。
なお、2014年2月時点ではNTTドコモのネットワークのみが利用可能なSIMロックが施されているが、後日、ファームウェアのアップデートにより「SIMロックフリー化」が予定されている。その際にはLTEではソフトバンクモバイルの2GHz帯とイー・アクセスの1.7GHz帯、および3Gもソフトバンクモバイルの2GHz帯が、KDDI(au)に関しては2GHz帯のLTEが利用できるようになると予想される(端末仕様においては。なお、KDDIのLTEネットワークは1.5GHz帯、850MHz帯ともにNTTドコモのそれに隣接しているが、LTEの周波数帯としては別物となる)。
加えて、SIMロックフリー機であれば海外での活用シーンもグッと広がる。現地の安いプリペイドSIMカードを入手して使う方法だ。この際にはUMTSのBand 5対応も大きな意味を持つ。NTTドコモのFOMAネットワークは850MHz帯をBand 6/19で運用しているが、北米・オーストラリアではBand 5で運用する通信事業者が多いためだ。合わせて(日本では展開していない)2GのGSM(GPRS)ネットワークにも850M/900M/1800M/1900MHz帯に対応している。
ちなみに、前モデルのMR02LNもクアッドバンドLTEに対応はしていたが、ベースバンドチップの世代・仕様により最大通信速度は下り最大100Mbps/上り最大37.5Mbpsにとどまり(1.7GHz帯では下り最大75Mbps/上り最大25Mbps)、2014年2月時点でのネットワーク側の能力をフル活用できる通信仕様ではない。この点「150Mbps通信対応」という部分だけでもモバイラーとしては喜ばしい機能である。
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