大解説! “Fiji”と“HBM”と“Fury”の先進性を知るキーナンバー“4096”の意義を問う(3/4 ページ)

» 2015年07月02日 10時15分 公開
[本間文ITmedia]

FijiだけでなくRadeonシリーズのカギを握るHBM

 Fijiで採用したHBM(High Bandwidth Memory)は、GPUやSoCと何層か積層したDRAMを広帯域のバスで接続する手法で、AMDは7年前から同技術の開発を推進してきた。HBMに関しては、メモリ標準化団体のJEDECが同規格の標準化作業に着手しているが、同団体がターゲットにしているのは、「HBM2」と呼ぶ第2世代のHBM技術で、AMDがFijiで採用したHBMはAMDとSK Hynixによる独自規格という位置付けとなる。

HBMの概要

HBMの採用によって、基板にグラフィックスメモリを実装する必要がなくなり、カードサイズの小型化が可能になった

 HMBの構造は、最大4枚のDRAMコアチップを、メモリコントローラなどを搭載したベースダイ(またはロジックダイ)の上に積層し、これらをTSV(Through Silicon Via)で接続するというもの。メモリインタフェースは1024ビットで、最大クロックは500MHz(1Gbps)となるため、帯域はHBMスタックあたり128GB/秒となる。

 HBMのメリットとなるのは、このクロックスピードの低さと1.3ボルトという駆動電圧の低さから来る消費電力の低さだ。これにより、Radeon R9 290Xでは、1ワットあたり10.66GB/秒の帯域しか出せないのに対し、Radeon R9 Fury Xでは42.67GB/秒と、3倍以上の電力効率を実現する。

 また、AMDでメモリアーキテクチャやAPU開発の指揮を執るジョー・マクリ副社長は、「HBMは、メモリコントローラもシンプルで、半導体専有面積を大幅に削減することができる」とし、その余裕をさらなるGPU機能の強化などに割り当てることができると説明する。

GDDR5とHBMの比較

FijiにおけるHBM実装例とRadeon R9 290Xとの比較

 HBMの実装には、メモリスタックをサブストレート上に実装し、GPUと接続するのではなく、サブストレートとメモリスタックの間に、GPUとメモリスタックを接続して搭載するための“インターポーザー”と呼ぶ中間レイヤーを使用する。インターポーザーは、半導体と同じ素材で作られており、GPUとメモリを最短の配線で結ぶとともに、サブストレートとの安定した接続を手助けする。また、GPUとメモリに大きな温度差があった場合、熱伝導の手助けをすることにもなるようだ。

GPUとHBMスタックを結ぶ重要な役割を果たすインターポーザーの共同開発に、AMDは5年近くを費やしてきた

 AMDは、Fijiの開発にあたり2年以上前からインターポーザーや半導体パッケージングの研究と開発を、ASE、Amcor、UMCと続けており、安定した生産ができる素材やパッケージング技術、安定した生産体制の構築に努めてきた。これにより、Radeon R9 Fury Xは、一般的なハイエンドGPUの価格帯で市場投入できることになったという。

 Fijiには、HBMメモリスタックを4つ搭載することで、4Gバイト/4096ビット幅の接続を実現。その一方で、メモリとGPUの基板に占める割合は、Radeon R9 290Xが110×90ミリを要するのに対し、Radeon R9 Fury Xでは55×55ミリと、3分の1の面積しか必要としない。このことが、ハイエンドGPUながら7.5インチという基板長に収めることができた最大の要因だ。

 気になるのは、ハイエンドGPUとしては少ない4Gバイトというグラフィックスメモリの容量だが、ライバルとなるGeForce GTX 980Tiが7GHz動作のGDDR5を384ビット幅メモリインタフェースで搭載しても、最大メモリ帯域が336.5GB/秒に過ぎないのに対し、500MHz動作ながら4096ビット幅という広帯域を実現するHBMの採用で、Radeon R9 Fury Xでは512GB/秒の帯域を実現した。AMDは、グラフィックスメモリ容量が少ない分は、メモリ転送性能でカバーできるとみている。

 とはいえ、AMDとしてもメモリ容量の問題に対策を講じていないわけではない。マクリ氏は「Fijiは、第1世代のHBMを採用しているため、スタックあたり1Gバイトが上限となっているが、将来的には8層スタックを可能にするHBM2への移行も検討しており、8Gバイト以上のメモリを搭載できる日も遠くない」と述べる。

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