Appleに負けない高級な化粧箱を! でもコストは大丈夫?牧ノブユキの「ワークアラウンド」(1/2 ページ)

» 2015年11月25日 11時00分 公開
[牧ノブユキITmedia]

両極端な製品パッケージのトレンド

 前回見てきたように、PCサプライやアクサセリでは、海外パッケージそのままで販売するケースが増加している。ネット通販の台頭でパッケージが客の目に触れる機会が減少し、パッケージによる訴求の重要度が減りつつあることに加え、海外パッケージで売れ行き好調な製品だけを自社パッケージに変更して継続販売するという、テスト販売的な手法を採るようになったことも要因として大きい。

 しかし、スマートフォンやタブレット、音楽プレーヤーなど比較的高価格の商材では、ニス引きや箔(はく)押し、エンボス(浮き出し)など、パッケージの高級化が著しい。先鞭(せんべん)をつけたのは、言うまでもなく「iPhone」や「iPod」などのApple製品だ。

 類似の製品カテゴリでありながら、一方では自社パッケージへの切り替えすらしないなどコストダウンが徹底され、もう一方では高級化路線にシフトしつつあるというのは、非常に興味深い。

 こうしたパッケージの原価をいかに軽減するかは、メーカーとしても苦心するところだ。今回はPC周辺機器全般をターゲットに、パッケージの高級化による原価への影響を限りなく低くするため、メーカーが繰り出している「ワザ」の数々を見ていくことにしよう。

パッケージの共通化でコストを削ぎ落とす基本ワザ

 パッケージは「化粧箱」とも呼ばれることから分かるように、品物のレベルをいちだんと高く見せる効果がある。とはいえIT系のアイテムの場合、そうした装飾的な要素はそれほど求められておらず、ブリスターや簡易パッケージのように、開封して中身を取り出したらすぐに捨てるというコンセプトのほうがむしろ主流だ。

 もっとも、パッケージの高級化が起こっているカテゴリは、平均単価が数万円といった具合に、サプライやアクセサリとは一線を画している。いかに価格競争が激しい業界とはいえ、製品の価格帯が高ければ、それだけパッケージにコストをかけられるのは当然であり、購入後の満足度を高めるためのツールとして重視されるのも理にかなっている。

 しかしながら、いったん製品を取り出してしまえば不要になるパッケージに過剰なコストをかけるのは、従来であれば社内で目くじらを立てる動きがあってもおかしくない。

 ではこうしたパッケージの高級化にあたっては、原価を下げるためにどのような施策が講じられているのだろうか。共通項として挙げられるのは、製品自体がワールドワイドなモデルであることだ。パッケージがグローバル仕様であれば、生産数は桁違いに多いため、量産効果でパッケージの原価は単純に下がる。ニス引きや箔押し、エンボスなどの特殊加工についても、グロスであればそれほど原価には影響しないというわけだ。

 同じ理由で、ラインアップが多い場合でもパッケージを共通化するというのは、有効な施策の1つだ。容量違い、カラー違いなどのモデルについても、パッケージの基本仕様は共通とし、差分はシールなどで対応することによって、部材の共通化を図ることができる。これによってパッケージの発注ロットを増やし、原価を下げられるというわけだ。

パッケージ原価の一部を広告宣伝費として処理する裏ワザ

 とはいえ、これらはパッケージや販促物の原価を下げるための施策としては基本中の基本だ。パッケージの高級化を実現するにあたっては、さらなる工夫が求められる。そこで登場するのが、パッケージの原価を製品原価から除外するという荒業だ。

 一般的にパッケージは製品原価の一部として扱われるが、実際にはどの部門で費用を計上するか、判断に迷う場合がある。

 例えばPC周辺機器で、対応機種が新たに増えた場合はパッケージの一部を修正することになるが、既に店頭に陳列しているパッケージについては、上からシールを貼って済ませることがある。店頭で購入するユーザーはWebなどの情報ではなく、パッケージに書かれた対応情報を信頼して製品を選ぶ傾向にあるので、こうした作業はどのメーカーにとっても欠かせない。

 この場合、パッケージに貼り付ける修正シールは、パッケージを作り直すのと同様に製品の原価の一部として処理するのが普通だが、パッケージに貼られるシールが常に原価の一部として計上できるかというとそうではない。

 例えば「売れてます!」「おすすめ!」など販売促進を目的に共通で貼られるシールは、チラシやカタログ、店頭POPなどと同様に、広告宣伝費として処理される。つまり目的によって、パッケージに貼られるシール1つをとっても、担当部門も違えば、コストセンターも違ってくるというわけだ。

 これをうまく利用して、パッケージ原価の一部を広告宣伝費として処理することで、製品の原価を下げることができる。あまり直接的に付け替えをすると露骨なので、例えばパッケージとカタログ、Webのデザイン費を全て同じ外注先に発注し、一括で請求を上げてもらうことによって、広告宣伝費として販促部門が一括で負担する。

 これにより、バラバラに請求が上がっていれば開発部門が負担すべきだったデザイン料が、広告宣伝費に吸収されて負担ゼロになるというわけだ。

 もちろんこれは、社内でコストセンターを切り替えているだけなので、全社的な費用負担が減少するわけでは全くない。しかしパッケージの原価を考慮しなくて済むようになることで、開発部門はパッケージのコストに一喜一憂する必要がなくなり、開発に集中できるようになる。

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