スマホカメラで視覚障害者の「目」になるアプリ「Be My Eyes」

» 2016年09月15日 11時00分 公開
[中井千尋ITmedia]

 視覚障害者にとって、食品の原材料や賞味期限の確認、新しい場所への道順など、日常の些細なづまづきを簡単に解決できれば、ストレスはかなり軽減されるだろう。

 そんな視覚障害者の人びとと、数分、いや数十秒でも自分のちょっとした時間を使って彼らを助けたいボランティアとをつなぐアプリを、デンマークのスタートアップが開発した。

視覚障害者の「目」になる。まさに「Be My Eyes」

スマホカメラで視覚障害者の「目」になる

 デンマークの首都、コペンハーゲン拠点のスタートアップが提供する「Be My Eyes」は、スマホアプリで視覚障害者とボランティアのヘルパーを結ぶサービスだ。人工知能の世界的権威、レイ・カーツワイル氏が創設したシンギュラリティ大学のアクセラレータープログラム「SU Labs」から生まれた。

 視覚障害者がアプリで助けを求めると、Be My Eyesに登録済みのボランティアに通知が送られる。ボランティアがリクエストを承認すると、アプリ内でライブビデオが立ち上がり、視覚障害者のスマホカメラに映る映像が再生される。

 ボランティアは視覚障害者の「目」として、彼らが「見ているもの」をアプリで見ることができるのだ。

 ボランティアができる助けは、例えば、食品の賞味期限の確認や初めて訪れる場所への道案内、外出先でドアナンバーを教えるなど。とてもシンプルだが、視覚障害者にとってはこうした些細なことをわざわざその場にいる誰かに声をかけて尋ねなくて済むのは助かる。

 リクエストを受け取ったボランティアが即座に対応できない場合は、「シャッフルコールシステム」でほかの登録者を探してくれる。

 ボランティアの登録者数は、この記事の執筆時点(2016年9月6日)で約38万人。利用する視覚障害者の数は約2万9千人なので、障害者一人につきボランティアが13人いることになる。これならボランティアがすぐに見つかりそうだ。

ボランティアのネットワークを実感できる仕組み

 ボランティアの登録は簡単。自分のスマホにアプリをダウンロードし、名前とメールアドレス、パスワードを入力して登録するだけ。Facebookのアカウントで簡単にログインすることもできる。

 そして、自分が会話できる言語を設定。初期設定として、スマホで設定している言語が登録されており、変更できないようだが言語の追加はできる。登録が簡単なだけに、Be My Eyesは利用者同士の信頼の上に成り立っているといえる。

 言語については、母国語、もしくは母国語に近いレベルで会話できるもののみの登録が推奨されている。会話だけで視覚障害者を助ける必要があり、間違った解釈による事故を防ぐためだ。現在、登録されているボランティアの母国語は50言語を超えている。

 ボランティアは視覚障害者を助けたり、アプリをFacebookやTwitterで共有したりすることでポイントを獲得できる。アプリのダッシュボードでポイント数を確認できる。

 また、ダッシュボードではアプリに登録するボランティア、視覚障害者の数、ボランティアが障害者をヘルプした件数がリアルタイムで表示され、ネットワークの拡がりを実感できる仕組みになっている。

情報をリアルタイムで見られるダッシュボード

アプリの開発・翻訳もボランティア

 創業者のHans Jorgen Wiberg氏は、自身も視界の一部が見えない視覚障害者。障害者としての経験をもとに、このアプリの開発を思い付いた。

 SU LabsとVelux Foundationから累計約4000万円の資金調達をしているが、アプリの開発はほぼ全員、ボランティアによって行われた。現在のところ、サービスの収益化は考えられていない。

 現時点ではiOS版のアプリのみ利用可能。アンドロイド版もこの秋にリリースされるとフランスメディア「ouest france」が報じている。開発用のソースコードは、ソフトウェア開発プロジェクトのための共有Webサービス「GitHub」上で共有されている。

 同社のWebサイトでは、アプリの多言語対応に必要な文章の翻訳をしてくれる人もボランティアで募っている。このサービスのほぼ全てがボランティアによって作られている。Webサイトではプロジェクトへの募金も募っている。

 Hans Jorgen Wiberg氏は、「オンラインコミュニティの力で人びとが互いに助け合い、Be My Eyesが視覚障害者の生活を大きく変えるだろう」と手応えを感じている。実際、アプリの手軽さはボランティアにとってのハードルを下げるものであり、利用者はこれからさらに増えていきそうだ。

ライター

執筆:中井千尋、編集:岡徳之(Livit Tokyo)


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