ICQが「アッオー!」と鳴いていた頃のインターネットの話

» 2017年01月20日 11時30分 公開
[上田啓太ITmedia]
オレの知ってるネットと違う

 当時を知らない人には何のことだか分からないタイトルで申し訳ない。そして当時を知る人は、「ああ、鳴いてたねえ」としみじみするのかもしれない。

 取りあえず最初にざっと説明しておこう。「ICQ」というのは、2000年頃に使われていたメッセージソフトの名前である。乱暴に言うならば、現在のスカイプやLINEのようなもの。これが「アッオー!」という印象的な通知音を出していたのである。

 ということで、今回はICQが「アッオー!」と鳴いていた頃の思い出話をしたい。

ライター:上田啓太

上田啓太

1984年生まれのブロガー。京都在住。15歳のときにネットに出会い、人生の半分以上をネットとともに過ごしてきた男。

個人ブログ:真顔日記 Twitter:@ueda_keita


仲良くなるとチャットからICQに移行する

 そもそも、どんなときにICQを使っていたか? 私の場合、「チャットで仲良くなった相手と個人的な話をしたいとき」が多かった。当時の私は十代の集まるチャットルームに通っていたんだが、仲のいい相手ができると、クローズドな場で話をしたくなるのである。チャットルームでは突っ込んだ話ができないからだ。

 もっとも、高校生の考える「突っ込んだ話」なんてのはタカが知れていて、要するに恋愛の話だとか進路の話なんだが、これはチャットでは話しにくい。オープンな場だし、ログも残るし、参加者以外に「ROM2人」なんて表示されたりもしている。入室せずに会話だけ見てる人もいるわけである。

 そんな状況で、「じつは学校に気になる女子がいて……」とか「志望校で悩んでて……」と言うのは恥ずかしい。やはり、好きな女子や志望校のことは、信頼できる相手にだけ話したい。それが十代のリアルである。そんなときに、「ちょっとICQで話そうよ」となるわけだった。

その通知音はなんなんだ

 冒頭でふれたように、ICQの特徴は「アッオー!」と鳴くことである。通知音に鳥のような鳴き声が採用されていたのだ。なぜそうなのかは分からない。とにかく、通知のたびに「アッオー!」と音がした。だから15年以上過ぎた現在でも、頭のなかでICQの鳴き声を再生できてしまう。こんな妙な記憶のされかたをしているソフトも珍しいだろう。

 そもそもソフトに「鳴き声」という概念があること自体おかしくて、スカイプもLINEも、アッオーと鳴いたりはしない。普通に「ピロリン♪」とか言う。機械まるだしの音をさせる。鳥のように鳴くICQのほうが特殊なのである。カラス、スズメ、ICQ。アルファベット3文字の鳥類がいますか。

 しかし、こういう妙な細部こそ人の記憶に残るもので、当時を知る人とICQの話になれば、確実に「あの変な鳴き声の……」となる。「アッオーのやつ」で通じてしまうから不思議なものである。

「不可視モード」という機能があった

 鳴き声以外で印象的だったのは、「不可視モード」の存在である。ICQには、「ソフトを立ち上げても見かけはオフラインのままにしておく」という機能があったのだ。なぜ、こんな機能が必要だったのか? 簡単に説明してみたい。

 普通にICQを立ち上げた場合、登録しているメンバー全員に通知がいく。「●●さんがオンラインになりました」というふうに。これはまあ、当然である。しかし登録メンバーには、毎晩話す友人もいれば、なんとなく登録しただけの微妙な距離感の人もいるわけだ。

 すると、オンラインにした瞬間に、微妙な距離感の人間に話しかけられてしまうことも起こる。それに、AさんとBさんから別々に話しかけられた場合、別窓でそれぞれ会話する必要も生じる。これがけっこう厄介だった。

 具体的に考えてみよう。例えば、私が親友と突っ込んだ話(志望校の話)をしている。それなのに、別の相手に話しかけられて、近所に新しくラーメン屋ができたという話をされる。この場合、私は自分の志望校に関するマジメな会話をしながら、別窓ではラーメンの話をしなければならない。

 これだけでも大変だが、さらに3人目に話しかけられて、「うちの両親が最近、仲悪くてさ……」みたいな重めの相談が来たりする。こうなると、志望校・ラーメン・両親不仲の、3窓同時進行である。これはもう、感情がグチャグチャになってしまう。

 そのうえ、別窓で相手が発言するたびに、ICQは元気に「アッオー!」と教えてくれるわけで、もはや心理的には、志望校・ラーメン・両親不仲・アッオーである。こんなものは、とても一介の高校生に処理できるタスクではない。私のキャパシティーなど、志望校とラーメンの時点でパンクしてるのである。それでも無理に続ければ、志望ラーメンが不仲で両親がアッオー、みたいな混乱した意識状態になってしまうだろう。

 そんなときに、「不可視モード」の存在が効いてくるのだった。この機能を使えば、ICQを立ち上げても、見かけは「オフライン」のままになる。突然誰かに話しかけられることがない。目的の相手と落ち着いて、志望校の話ができる。別窓でラーメンの話題も振られない。もちろんICQはアッオーと鳴くが、しょせんは志望校・アッオーである。これなら混乱しない。

 ということで、私にとって、ICQの思い出は「アッオー」と「不可視モード」である。ちなみに、この記事を書くために調べてみたところ、なんとICQは現在もサービス継続中だった。iOS版やAndroid版もリリースされている様子。これは、安心して志望校の話ができますね。三十すぎの男に志望校などないんですが。

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