これまで、何回かに渡って昔のホームページ(「Webサイト」ではなくあえてそう呼びたい)の話を書いてきたが、今回は、当時のホームページには必ず用意されていた「リンク集」についての話である。
自分のホームページを持っただけでは人との関係は生まれない。他のホームページに「リンクする」ことで関係は生まれる。現在の人々がSNSを介してつながるように、当時の人々は「リンク集」を介してつながっていた。それは楽しいことであると同時に面倒を生むことでもあったと記憶している。
2000年頃のホームページには高確率で「リンク集」というものがあった。これは具体的に示したほうが分かりやすいだろう。当時の記憶を参考に架空のリンク集を作ってみたので、ご覧いただきたい。
※当サイトはリンクフリーです。相互リンク大歓迎!
このように、他のページへのリンクをずらりと並べていた。Yahooを除いてページ名は私が適当に付けたものだが、一応、当時の雰囲気を再現している。以下のような名前の付け方は定番だった。
注意書きにある「当サイトはリンクフリーです」は、「自由にリンクしていいですよ」という意味である。なぜわざわざ表記するのか? 当時は「人のページに無断でリンクするのは失礼だ」という風潮があったからだ。
「相互リンク大歓迎」もよく書かれていた。お互いにリンクしませんか、ということである。リンクしてくれるページが増えるほど訪問者も増えるから、「相互リンクで訪問者を増やそう」と考える人が多かった。もっとも、この習慣はいろいろな面倒も生んでいた。
相互リンクが増えてくると、「一方的にリンクしている大好きなページ」が「とりあえず相互リンクしているページ」に埋もれてしまう。これを解決するためにリンクを種類ごとに分けている人も多かった。
例えばこんな感じである。なお、このリンク集にはリンクが7つしかないが、実際はもっと大量のページにリンクしていることが多かった。大好きな少数のページを上に置き、相互リンクやお礼リンクを下のほうにズラッと並べている光景をよく見たものである。
「リンクコメント」が付いていることも多かった。リンクに紹介コメントを添えるのである。これも先ほどのリンク集で例示するならば、以下のようになる。
リンクコメントを書くのは難しかった。大好きなページへのコメントで悩む。これはラブレターの文面に悩むようなものだ。相互リンクのコメントで悩む。これはあまり仲の良くないクラスメイトに寄せ書きする感じだと言えば伝わるだろうか。
このリンク集は架空のものである。しかし、それぞれのリンク先の内容や管理人との関係も考えてみた。「あの頃こういうページあったよな」という程度のものだが、私の考えた設定を紹介しておきたい。
「しょーたの日記」は、管理人のリアルの友人である。だからリンクコメントは「1000円返せ」という内輪ネタになる。しょーたはすでにページ作りに飽きており、更新は滞っている。
「ミカコさんのぺぇじ」は、20代OLであるミカコさんのサバサバ系恋愛コラムである。下ネタOKで自分の体験もセキララに語るので人気がある。プロフィールページには、ボンヤリした画質だがなんとなく美人に見える写真が一枚だけ載っている。管理人はミカコさんを「姐さん」と慕い、掲示板に何度も書き込んでいる。
「CRAZY HOT ZONE」は、突撃兵と名乗る男が世の中のさまざまな事象をブッタ斬るページである。毎日更新で日常ネタから芸能ネタまであらゆるものに鋭いツッコミをいれまくる。キメの部分でフォントサイズが大きくなるのが特徴である。管理人は読むたびに爆笑している。心の中で兄貴と慕っているが、怖いので掲示板に書き込んだことはない。
「孤独の部屋」は、陽炎というハンドルネームの高校生が運営するページである。学校生活の愚痴がメインで、口癖は「はぁ・・・」である(「…」ではなく「・・・」である)。リンクしてくれたので相互にしたが、管理人はコメントに困ったんだろう。「黒背景がイカス」と背景が黒いことをほめている。
「ココロノカケラ」は、淡いピンクの背景に灰色の文字という非常に読みにくい色使いのページである。アクセスするとオルゴールの音が流れはじめる。日記の題名は「ワタシノシアワセ」「イマデモスキナヒト」「ナミダ」などである。管理人は「繊細な文章にあこがれます」とコメントを付けているが、実際はあこがれていない。
「YUKI's WEB」は、本当に何のコメントのしようもない普通のホームページである。そのため管理人は仕方なくリンクしてくれたことへの感謝を書いている。「多謝!」と元気よく言うことで乗り切ろうとしたのだろう。
「Yahoo!Japan」はYahoo!Japanである。
もちろん私がでっちあげたリンク集なのでどれも実在しないが(Yahoo以外)、こんな感じのページは結構あった。当時の雰囲気を少しでも感じていただけたなら幸いである。
すでにお気付きかもしれないが、リンク集は面白いものであると同時に、「気を遣う」ものでもあった。
リンクされたら相互にすべきか?
義理でリンクを返すことに意味はあるのか?
全てのページにリンクコメントを付けるべきか?
好きなページだけリンクするべきでは?
巡回しなくなったページのリンクは外すべきだろうか?
向こうから一方的にリンクを外された!
いろいろな葛藤があり、さまざまなトラブルがあった。他のページにリンクすることは、ネット上のややこしい人間関係に参加することでもあったのだ。現代には「SNS疲れ」という現象があるし、相互リンクの葛藤はTwitterやFacebookに受け継がれているのかもしれない。
余談だが、私はリンク集のタイトルを「ツナガリ」にしていたことがある。この絶妙なポエム感は今思い出すとウッとなる。私のセンスは「ココロノカケラ」に近かったんだろうか。
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